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導きの神様  作者: 夕月夜
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第二章一節 師走の雪 その11


丸々とした形の可愛い湯呑みに淹れられた温かいお茶を飲みながら会話を楽しんでいると、「お待たせいたしました」と言って店員さんが注文したものを持って来てくれた。


横に並んで座っている一人と一柱の前に、お盆が二つ並べられる。

お盆に載せられた白玉に釘付けになっている間に、「ごゆっくりどうぞ」と言って、店員さんはいなくなっていた。



「では、いただきましょうか」

「はい!」



東雲の言葉を合図に、しっかりと両手を合わせてからスプーンを手に取った。

結論から先に言うと、私が頼んだ黒蜜白玉きな粉はとても美味しかった。


まず、きな粉に混ぜた砂糖のバランスが絶妙で、乾いていた体に甘さが染み渡るような感じがした。贅沢なことにバニラアイスも添えられており、その下にも白玉が敷き詰められていたことには感動した。

運ばれてきたときには、バニラアイスの下は全く見えず白玉はアイスの周りにしかないと思っていたので、隠れた白玉を見つけた際の感動は大きかった。

茹でたての白玉はアイスを載せてから口に含んでもまだほんのりと温かく、もちもちとした食感を楽しむことができた。

白玉、きな粉、黒蜜、アイスを木のスプーンに全てのせて口に含んだときの幸せは筆舌に尽くしがたい。翡翠は一口一口を大切に噛みしめながら、黒蜜白玉きな粉を食した。


一方の東雲が注文したのは、名物の白玉あずきだった。

口に入れた瞬間に舌の上でとろけるまで煮詰められた小豆がふんだんに敷き詰められたその上に、白く艶やかな白玉が載せられている。

私はたまに食べる程度だったが、祖母は大のお気に入りで、毎回注文していたほどだった。

『美味しいねえ』と笑う祖母の顔がぱっと浮かび、胸に込み上げてくる何かを感じた。


「美味しいですね、翡翠さん」


スプーンを手にしながら停止していた翡翠に、東雲が抑え切れない笑みを浮かべ、幸せオーラを纏いながら語りかけた。


その姿を見たら、少し前までしんみりとなりかけていた翡翠の心はどこかへ飛び去ってしまった。



「はい、本当に美味しいです!……東雲に喜んでいただけて、少し安心しました。私がこのお店に誘ったことに加えてお勧めしたものを頼んでくださったので、もしお口に合わなかったらどうしようかと」



翡翠の言葉に、東雲は一瞬不意をつかれたような表情をしてから笑みを作った。



「そんな心配は不要ですよ。今日の甘味はどれも美味だと評判だというお話ですし、翡翠と桜のお墨付きであれば、絶対に大丈夫だと私は確信していましたから」



東雲はそう言いながら、小豆をひと匙掬って食べた。



「そういうものですかね……。そうだ、ずっと気になっていたことがあるんです。脈絡がなくて申し訳ないですが、東雲は何を司どっている神様なんですか?」



本当に唐突な質問で申し訳なかったが、翡翠がずっと気になっていたことだった。

質問を投げかけられた東雲は、少しの間逡巡してから口を開いた。



「そうですね……司っているものという言葉が正しいかどうかはさておき、私は“陽“を司っています。さらに言えば、私は人の子を導くために生み出されました。」

「では、『人間のための神様』ということですか?」


翡翠の問いかけに、東雲は頷く。



「ただ、この世界に存在する神々は全て人間が生活を営むために必要不可欠な存在なので、その表現は適切ではないかも知れません。」



東雲の言葉から、彼自身どう定義していいかわからない、という様子が伝わってきた。実際、受け取る相手によってどうとでも解釈できてしまうので、何とも言えない。


「確かにそうですね……うーん、難しいです。」

「こういうことは、深く考えすぎるとそこから抜け出せなくなってしまいますからね。普通に暮らしている分には、特に気にしなくてもいいのではないでしょうか」

「そういうものですか?」

「ええ。そういうものです。人の子はただ、日々の生活を一生懸命送っていればいいのですよ。」



そう言った東雲は、どこか遠い目をしていた。その目はどこか悲哀を含んでいるかのように思え、翡翠はただ黙って東雲の方を見ていた。



「すみません、少し昔のことを思い出していました。」



申し訳なさそうに、少し眉を下げて微笑んだ彼はお茶を一口飲んだ。

東雲の過去について興味がないわけでもないが、何となく聞かれるのを拒んでいるような気がしたので、翡翠は触れないことにした。


その代わり、別の質問を投げかける。



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