第二章一節 師走の雪 その10
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あれから何度かカフェや和喫茶にいくことが何度かあったが、こうして東雲に説明をするのは久しぶりで、それゆえに最初のことを思い出した。
そしてもう一つ思い出す要因となったのは、あの時翡翠が抱いた感覚だった。
大好きな祖母がこの世を去ってから、翡翠は自分の殻に閉じこもり、誰とも関わろうとしなかった。それゆえに他者との会話が極端に減ってしまっていた。
しかし東雲と行動を共にし始めてから、少しずつ会話をする気力が生まれてきていた。
そして初めて外で甘味を食べながら東雲と会話をした時、言葉が内から溢れて止まらないことに、翡翠は気がついた。それに加えて、言葉を重ねるにつれてどんどんと心の重りが溶けていくような、心が晴れ晴れとしていくような感覚を翡翠は味わっていた。
それ以降、少しずつではあったが、大学の友人や近所の方との会話に抵抗感がなくなっていき、翡翠は日常生活を取り戻しつつある。
そんなわけで、最初に東雲と甘味を食べに行った思い出は、翡翠の中で色濃くその形を留め、忘れられない大切なものとなっていた。そのため、こうして思い起こすこととなったのだ。
一番最初の時はメニューが多くて少し説明に時間がかかったが、幸いなことに今回はそこまで種類も多くなかったので、すぐに説明を終えることができた。
「ありがとうございます。翡翠さんのおかげで全ての甘味のイメージがつきましたし、注文するものも決まりました」
東雲の言葉に、翡翠は安堵のため息をついてから微笑んだ。
「お力になれたようで良かったです!それで、何を頼むことにしたんですか?」
「季節の苺善哉はとても魅力的だったのですが、やはり翡翠さんと桜が食べていたという名物の白玉あずきにしたいと思います」
「本当にそれで大丈夫でしたか?別に私がお勧めしたものでなくても大丈夫ですよ?」
「もちろん。私が一番食べてみたいと思ったのが翡翠さんにお勧めしていただいた白玉あずきだったので、後悔はありません。お気遣いありがとうございます」
「それなら良かったです!」
「翡翠さんは何を食べるか決めましたか?」
「はい!私はこれにしようと思います」
そう言いながら、翡翠はお品書きの写真を指し示した。
「そうですか。それでは、注文をしてしまいましょうか」
東雲の言葉に頷いた翡翠は店員さんに声をかけ、それぞれが食べたいと思ったものを注文した。




