第二章一節 師走の雪 その1
普段よりも一際白い光に包まれて、翡翠は夢から覚めた。
半分だけ開いているレースのカーテンを手でそっと押しのけると、外は白銀の世界と化していた。
さらさらとした雪はそれほど積もることはなさそうだが、出歩くと濡れるのであまり嬉しいとは思えない。
が、そんなことは気にするまいと翡翠は出かける支度を始めた。
天気予報では、一日雪が降り続き気温は下がる一方だと天気予報士が年を押すように頻りに言っていたため、寒くないようヒートテックの上に白のニットを重ね、黒のスキニーパンツを履いた。靴は雪に濡れてもいいように、黒のレインブーツを履くことにした。
さらに、桃色のダウンを羽織り、白のマフラーを首に巻く。
最後に黒の手袋をはめたら防寒対策バッチリだ。
肩にポシェットをかけ、翡翠は家を飛び出した。
傘をさしながら、ひたすら歩を進める。向かう先は、家から少し離れた場所にある神社。
その神社には、翡翠のことを守護してくれている神の東雲が暮らしている。
今日は、東雲と甘味を食べに行く約束をした日であるため、天候が悪い中こうして外に出かけたという次第である。
秋に東雲と出会ってから、何度か甘味を食べにカフェや喫茶処に行ったことがあったが、それが慣例になり、少なくとも週に一度は一緒にカフェに赴いている。
今日向かうお店を頭に浮かべ、少し口角が上がったところで、ぶんぶんと首を振った。
『いや、そんなことを考えている場合じゃない。東雲に会ったら、ちゃんと仔細を確かめないと。』
翡翠は自身の首筋に浮かび上がる印をなぞりながら、浮ついた気持ちを引き締め直した。
ことの発端は、今朝。
東雲と出会った秋に首筋に刻まれた際には銀木星の花を象っていた印が、今朝ふと気になって鏡で確認したところ、金と深緑に染まった柊の葉に変わっており、思わず「えっ!?何これ!!!」と叫んでしまったのだ。絶対近所迷惑だったと思う。
この変化が何を意味するのか、聞かないと気が休まらない。
『何か悪いことが起こる前兆だったらどうしよう。』
あれこれと考えながら歩いていると、東雲がこちらを見て佇んでいる姿が目に入った。
翡翠は雪に足を取られないように気をつけながらも、早歩きで東雲の元へ向かう。
「こんにちは、東雲。今日はよろしくお願いします!!」
「こんにちは。こちらこそよろしくお願いします。前回お店に連れて行っていただいた際に甘味を口にしてから、あまりの美味しさにしばらく忘れることができずにいました。今からとても楽しみです。」
「私もです!今日行くお店はいつも祖母と二人で行っていたのですが、祖母が亡くなってからは一人で行っていました。二人以上で行くのは本当に久しぶりなので、とても楽しみにしていました。では立ち話も何ですので、早速行きましょうか」
翡翠の言葉を合図に、一人と一柱はお店を目指して歩き始めた。




