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導きの神様  作者: 夕月夜
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第一章二節 高秋の訪問 その6


「お気づきになったようですね。蓮の花は、本来であればこの時期にこんなに綺麗な花をみることはありません。気候の変動で、少しは見ることができるかもしれませんが、池の花全部がまるで盛りの時期のように瑞々しい花を開かせることはありません。」



渡り廊下の欄干を白い指でなぞりながら、東雲は話を続ける。



「実は、ここにある蓮は全て、彼岸から取り寄せたものなのです。

彼岸の植物は此岸の植物よりも寿命が長いことに加えて、私が少しばかり細工を施したことにより、一番盛りの美しい姿をとどめたというわけです。その結果、満開の蓮を一年中楽しむことができるようになりました。」


東雲の説明を耳にしながら、風に揺れる蓮の花を見つめた。


彼岸のもであることに加え、神が細工を施した__つまりは術をかけた、と知っただけで、先ほどまでも美しいと思っていた花々がさらに美しく、そして幻想的に見えるのだから不思議だ。


見るものの心持ち一つで、見える世界が著しく変化する。


翡翠はまるで夢でも見たような、ふわふわとした心地で池の花を眺めた。



「そんな夢みたいなことが可能なんですね……。もし、今蓮の花にかけている術を東雲が解いてしまったら、この蓮の花たちはどうなるんですか?」

「一瞬で枯れて朽ちてしまいます」

「そう、ですか。ちなみにですけど、蓮にかけられている術は、以前私のピアス__耳飾りにかけてくださった術と同じものですか?」

「そうですよ」

「……なら、東雲が術を解くか万が一消えてしまうようなことがあれば、ピアスも消えてしまうんですね」

「その認識で間違いありません。ですが、安心してください。必要がなければ私が術を解くようなことはしませんし、人の子が、人の子の魂が存在する限り、私が消えることもありません。少なくとも、翡翠さんと一緒に在る間は消えないということですので、ご安心ください。」

「そうですか。それを聞いて安心しました」


翡翠が胸を撫で下ろすと、東雲は小さく笑った。


「せっかくの機会ですし、翡翠さんにお伝えしておくことがあります」

「はい」

「先ほどまで話していた、私の……いえ、私たち神が使うことのできる“術“についてです」

「術、ですか」



東雲の言う術というのは、私が東雲の御坐す神社に足を運ぶ要因となった紅葉した木々の幻影や、蓮の花の生命を保つのに使用した力のことを言っているのだろう。


正直、前々から気になってはいたので話してもらえるのは嬉しいが、私が聞いてもいいことなのだろうか。


「あの、その前に一つよろしいでしょうか」

「どうぞ」

「ありがとうございます。……その、神様の術に関する話は、私が聞いてもよろしいものなのでしょうか。」


不安げな表情を浮かべながら、翡翠は疑問を投げかけた。


翡翠の言葉を受けた東雲は、子どもを安心させるような、優しい笑みを浮かべて頷く。



「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。仮に私の行おうとしている行為が大神の定めた規則に反するものであれば、大神は私の動きを封じます。現在このように説明することもできていないでしょう。」

「動きを、封じる……。今この場にはいらっしゃらないのに、そんなことが可能なんですか」

「ええ。それが、私たち神の頂点に君臨する大神の力ですから」



当たり前のように口にする東雲の横で、翡翠は頭から血が下がっていくのを感じた。


東雲のような、強大な力を持ち、他者に畏怖される神をも従わせる大神の力に恐怖を抱いた。

翡翠の異変に気がついた東雲は、慌てて言葉を重ねた。



「申し訳ありません。怖がらせるつもりはなかったのです。ただ規則に違反した行為ではない、という事実をお伝えしたかっただけで。」



いつもそこか飄々としているところがある東雲の焦る姿を見て、翡翠は落ち着きを取り戻していった。


「心配していただいてありがとうございます。もう、大丈夫です。

東雲が大神様について話してくださった意図は理解していたのですが、その力の強大さに意識がいってしまいまして……」


申し訳なくなり俯いていた翡翠に、東雲は優しい声音で語りかける。


「元はといえば、私が初めてお会いした時に翡翠さんの動きを止めたことが原因でしょう。

ただ、私たちの術に関する情報は翡翠さんに迫っている危機にも深い関連があり、知っておいていただいた方が良いと考えています。

ですがもし翡翠さんが嫌でしたら、この話は別の機会にさせていただこうと思いますが、翡翠さんはどうしたいですか?」



私の危機に関連すること。


その言葉が、翡翠の心に引っかかった。

東雲が私に伝えなければならないと判断したのであれば、早めに聞いておいた方が良いことは間違いない。


翡翠は、「お願いします」と口にした。


返事を聞いた東雲は、ただ首を縦に動かし、説明を始めた。


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