語り部 終
『あの時はまさか、こんな風になるなんて思いも寄らなかったなあ……』
写真を握り締めながら、翡翠は心の中でそう呟いた。
東雲とともに歩もうと決めたあの日から、もうすぐで三年の歳月が経つ。
翡翠を取り巻く日常は、生きていた頃のものとは、随分かけ離れていた。
まず他の眷属に初めて対面し、東雲の眷属としてのいろはを一から叩き込まれた。
最初は日課をこなすだけで精一杯で、慣れるまでに相当な時間を要したが、体に染みついてくると段々楽しくなっていくのが自分でもわかった。
まだまだ未熟ではあるけれど、今では一人で東雲のお供をしても大丈夫だと認めてもらえるまでには成長できた。
新しいことが次から次へと押し寄せてくる日々は、ひと息つく暇もないほど目まぐるしくすぎていき、大変なことも辛いこともたくさんあった。
でも、後悔の念を抱いたことはなかった。
今はただ、自分のことを救ってくれた東雲の手伝いができることが嬉しくてたまらないのだ。
私が眷属になること、もとを正せば命を落とす元凶となった碧泉さんも、ちょくちょくこの社に訪れては『東雲に飽きたらいつでも僕のところへいらっしゃい』と声をかけてくる。
たまに冗談に聞こえない時があるので、思い切って聞いてみると、
『僕はいつでも本気ですよ』
と言ってクスクス笑っていた。
この返答のせいでますますわからなくなってしまったが、なんだかんだ言って心配してくれていることが伝わるので、嬉しい限りだ。
一緒に保管されていた他の写真をみようとした時、一羽の鳥が東雲の前に舞い降りた。
東雲がその鳥に向かって指を差し出すと、鳥はゆっくりと指の上に止まり、羽を二、三度羽ばたかせた。
東雲が黙ったまま首を縦に振ると、鳥は心得たかのように、離れていった。
「せっかくなので思い出話に花を咲かせたいところですが、残念ながら仕事が入ったようです。」
東雲の言葉に、翡翠は手に持っていた写真をすぐさま懐に仕舞い込んで、頷いた。
「承知しました。それで、今日はどんな魂を導くのですか?」
「それは移動しながら話しましょう。今回の場合、説明が長くなりそうですので。」
「はい、仰せのままに」
少女と神は並び立ちながら二言三言交わしたと思うと、すぐにその姿を境内の外へと消した。
現世に彷徨う魂を、彼岸へと導くために。
____昔々、そのまた昔。
まだ人間と神々が一緒に暮らしていた頃、一柱の神が生まれた。
白い肌に赤い瞳を持つその神は、太陽神天照大神よりある使命を与えられる。幾度となく使命を全うし続ける中で、一人の少女と出会った。
これは少女と導きの神の織りなす物語。
彼らがともに紡いでいく物語は、まだ始まったばかり。
こんばんは、夕月夜です。
今回で「導きの神様」は完結とさせていただきます。
ここまでお読みいただき感謝の念に絶えません。本当にありがとうございます!!!!!
このお話では出せなかった他の眷属たちや翡翠が眷属になって初めてのお仕事の話など、書きたいネタはまだまだあるのでまたどこかで書かせていただくこともあるかもしれませんが、一旦この世界とはお別れです。
私の進退としましては、この後も新しい作品や一旦止めてある作品の続きの投稿を行なっていきますので、覗きにきてくださると嬉しいです!
それでは、またどこかでお会いできることを願って。
2023.12.15 fri 夕月夜




