第五章 長月の真実 その31
「それと、翡翠さんが先ほど服装は変わらないのかとおっしゃっていましたが、一応、眷属としての衣装もあるんですよ。着てみますか?」
「やっぱりあるんですね。少し、気になります。……着てみても、いいですか?」
「もちろんです。それでは、また目を瞑ってください。先ほど渡した簪は左右どちらかの手の上に乗せ、その手を前に突き出してくださいね。」
翡翠は東雲に言われるがままに瞳を閉じた。
「彼の者の姿態に我が紋を纏えよ」
東雲がそう言ったと同時に、翡翠の体が眩い光に包まれる。
その光はだんだんと輝きをまし、翡翠だけでなく周囲も白に染め上げた。
バチッという音とともに弾けて、周囲は本来の色彩を取り戻していった。
「もう、目を開けてくださって構いませんよ。」
東雲の声が聞こえたので、翡翠はゆっくりとまぶたを開いた。
気がつけば、手のひらに載せていたはずの簪は消えている。
さらに、伸ばした腕には翡翠色の布が垂れ下がっており、そこには赤や白、金で鞠や組紐が描かれていた。
これは_____着物?
何度か確認してみたが、間違いはない。
どうやら、東雲の言う装束とは着物、袖の長さから判断するに振袖のようだ。袖の模様がとても綺麗だったので、裾の方はどうなっているのだろうと足元に視線を落としたところ、「わあ……!!」という感嘆の声が口をついて出た。
視界に広がるのは、赤い色のグラデーションとふわりと広がった袴の裾。
薄い赤色から、下に行くに連れだんだんと鮮やかさを増した赤へと変化している。胸元近くの中央部分には大きなリボンが結ばれており、リボンの先は地面へと向かって長く垂れ下がっていた。
それがあまりにも可愛くて、綺麗で、顔の表情が緩んだ。
その姿を見た二柱の神も、翡翠に視線を向けて微笑んでいる。
東雲が選んでくれた装束には、翡翠の内面、つまり個性が反映されているように感じ、それが翡翠が生きていたという確かな証に思われて、また泣きそうになった。
「とっても素敵です!色も柄も私の好みにぴったりで、こんな素敵な着物をこれからずっと着ていられるなんて、夢みたいです!!」
翡翠は、月並みの表現しかできない自分の語彙力を少し残念に思ったが、今に始まった事ではないのでこればかりはどうしようもない。
だから、飾り立てない一番素直な感想を口にした。きっと、東雲にも伝わると信じて。
「そうですか、それは嬉しいです。本当に、よくお似合いですよ。……この場では全身の姿を見ていただくことができないのが残念です。」
東雲の言葉に、翡翠は確かにと思った。
もちろん今見ている自分の視界からの姿でも、十分着物と袴の綺麗さとそれらが纏う雰囲気を知ることができるが、多分二柱から見た私の姿とは抱いているイメージが少し違うのだろう。
『まあ、後で鏡を見せて貰えばいいよね。』
翡翠がこの場で確認することを諦めようと思ったとき、少し離れたところからこちらを凝視していた碧泉が、翡翠の方へと歩み寄ってきた。




