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導きの神様  作者: 夕月夜
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第五章 長月の真実 その28



「穴……ですか?」


「はい。真名を知られてはならないとされている対象は、人の子。であれば、別の存在____すなわち、私の眷属にしてしまえさえすれば、私の名を知っている人の子は規則に反する存在から規則の内側の存在へと変化します。

そうなれば、他の神々は翡翠さんの存在に関して口を出すことができなくなるのです。」


「な、なるほど……」



成功するかどうかはさておき、東雲の話には整合性があった。


東雲は翡翠の様子を見て微笑を浮かべ、言葉を続けた。



「先ほどもお話しした通り、もうこの社の外に出ることはできません。まあ、そもそもその外の世界は私が作り出した幻なので、残念ながら戻るも何もないのですが。

______どちらを選んでいただいても、翡翠さんは此岸、こちら側の住人になっていただきます。」



東雲の声に続いて、碧泉の声が響いた。



「東雲のいう通り、翡翠さんはどちらを選択していただいても構いません。但し、あなたが東雲の眷属にならないというのであれば、僕が今この場であなたの魂を食らいます。」


「碧泉!!!!!」


「だって、そうでしょう?僕は翡翠さんの魂を食べない代わりに、暇つぶしとして彼女を観察させてもらうという条件を出した。けれど、翡翠さんが黄泉の国へと行ってしまえば、僕は魂も手に入らないし、暇つぶしをすることもできなくなる。いくらなんでも、それは容認できない。

それに、翡翠さんが黄泉の国へ行くことを選択した場合、他の神々が翡翠さんの魂を消そうと動くでしょう。他の神々に取られるくらいなら、私が貰い受ける」



そう言って東雲に向き合った碧泉は、ひどく冷たい瞳をしていた。


しかし、次の瞬間には眩いばかりの笑顔を浮かべ、翡翠の方へくるりと向き直った。



「そういうことですので翡翠さん、どうか選んでください。

僕にこの場で食べられるか、東雲の神使となって永久に終わりの来ない私の時間に彩りを与えるかを。」



碧泉と東雲、両者の表情を見て、今碧泉が言っていることは冗談ではないことがわかる。


正直、もう考えることを放棄してしまいたい、と翡翠は思った。


全てを知って、まだ幾許もた経っていない、そして全くもって頭と心の整理が追いついていない中でそんな重大な決断を下すなど、思っても見ないことだった。


最善の策を選択したいけど、どれが正解かもわからない。


翡翠は雑然とした頭の中を一旦落ち着けようと、目を閉じて深呼吸した。

そこで少しだけ、心に余裕が生まれ、何かが心の奥底から浮かび上がってくるような感覚がした。

それが何かを認識するため、意識を集中させさらに深くへと潜っていく。


視界も、匂いも、音も遮断した意識の世界で翡翠が見つけたのは、ある想いだった。



その想いを認識した瞬間、揺らぎ迷っていた翡翠の心は決まった。



ゆっくりと瞼を上げると、翡翠の視界には緊張した面持ちでこちらを見つめる東雲と、少し楽しそうに微笑む碧泉、二柱の神の姿が映った。



翡翠はゆっくりと口を開き、声を発した。今の自分がした決断を、二柱に伝えるために。



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