第五章 長月の真実 その19
その間にも、雨足はどんどん強くなっていく。
それに合わせて、神様の存在感も強くなっていくように感じられた。
増長していく圧に、逃げ出したくなる衝動に駆られる。
しかし、残念ながら神様に腕をがっしりと掴まれていて、逃げ出すことはできなかった。
「まあ、それも今は過去のこと。そんなどうでもいいことより、今はあなただ。」
「私……?神様は」
一体私に何を求めているのですか。
そう口にしようとした時、突然、翡翠の体に異変が起こった。
強烈な眠気に襲われると同時に、全身から力が抜けていく。
翡翠は立っていることが困難になり、その体がふらりと傾いた。
『ぶつかる……!!!』
翡翠は心の中で叫び、地面に打ち付けられ、全身を襲うであろう痛みを思った。
しかし、いくら経っても身体に衝撃が走ることはなかった。
意外なことに、目の前にいる神様が抱き止めてくれたのだ。
一応、お礼を言おうかと思ったが、口の筋肉を動かすことができなかった。
体が、言うことを聞いてくれない。
『ここで目を瞑ってはいけない。』
漠然とそう思ったが、意に反してどんどん瞼が下がっていく。抗おうとしても抗い切れるものではなかった。
意識を引き摺り込もうとする何かに格闘している翡翠の視界に、端正な神様の顔が映った。
その顔に浮かべた表情を認識した瞬間、全身が粟立つのを感じた。
まるでずっと欲しかったものを手に入れたときの子どものような表情をしている。
そんな表情を、気の遠くなるほど長い時を生きてきたものが浮かべている、いうチグハグさが、妙に印象的であり、かつ不気味さを覚えた。
私はどうなってしまうのだろうか。
だんだんと、しかし確実に遠のく意識の中、翡翠の中で芽生えた恐怖心は増長していく。
『ここで意識を手放しては駄目だ。』
そう思ったが、重くなっていく瞼に逆らえそうにもない。
もう、限界……。
そこで、翡翠の意識は途切れた。




