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導きの神様  作者: 夕月夜
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第五章 長月の真実 その11


一人と一柱はひたすら一本道を歩き、鮮やかな橙色の鬼灯がなる家の角に差し掛かったところで、道に折れた。



「あれ、おかしいですね。ここを曲がったら着くと記憶していたのですが……」



そう言いながら、翡翠は周囲をキョロキョロと見回した。記憶の中にある公園の道順を辿ってきたので、間違えるはずはないのだが。



「もしかして、あの反対側にあるのが翡翠さんのおっしゃってる公園ではないですか?」



翡翠と同様に周囲に視線を巡らせていた東雲が、反対の方向を指差した。

その方向に目を向けてみると、確かに色とりどりの遊具が見える。そして、その中のいくつか見覚えがあった。



「そうです!!あの公園です!」



翡翠は自分がまだ幼かった頃の面影が色濃く残っていることに興奮して、つい声が大きくなってしまう。



「無事辿り着けたようで何よりです。では、入りましょうか。」



ふわりと着物の袖を舞わせながら、東雲は公園の中へと入っていく。その後に続いて、翡翠も公園へ足を踏み入れた。





西日が照らし出す道の上で、一人と一柱の仲睦まじい会話が響く。



「美味しかったですね、ごまのおはぎ」


「本当に。一口食べただけで、ごまの風味を大切にしているのが伝わってきました。

あれほど美味しいごまのおはぎを食べたのは、初めてかもしれません」


「お気に召したようで良かったです!おばあちゃんも私も、あのお店のおはぎが大好物だったので、嬉しいです」



そう言いながら、翡翠は公園のベンチに腰掛けて食べたおはぎの味を思い出していた。


ごまの香ばしさと、柔らかく、瑞々しい餅、そして、そのお餅に包まれた優しい甘さを持つあん……

思い出しただけで、頬が落ちそうだ。


おはぎや公園の話、桜の思い出話に花を咲かせていると、いつの間にか、翡翠の家と東雲の神社との分岐点にたどり着いていた。

翡翠が足を止めると、東雲もそれに合わせて立ち止まる。



「今日はありがとうございました。とっても楽しかったです。」


「こちらこそ、急に誘ったにも関わらず付き合っていただいてありがとうございました!!行きたかったカフェに加えて、思い出深い場所に行けるなんて……。とっても素敵な1日になりました。本当にありがとうございます。」



頭を下げながら、翡翠は今日の感想と、お礼を述べた。

自分の思い出の場所に、こうしてまた自分にとって大切な人と足を運ぶことができたのは非常に嬉しかった。


東雲は翡翠に温かな眼差しを向け、ひだまりのように柔和な笑みを浮かべた。



「さて、そろそろ日が暮れてしまいます。暗くなると危ないですから、明るいうちに気をつけてお帰りください。」


「最近は日が落ちるのも早くなって来ましたね。東雲のいう通り、日が落ちないうちに帰りますよ。」


「ええ、そうしていただけるとこちらとしても安心です。」



なんだかお母さんみたいだなあと思いクスクス笑っていると、一際眩しく輝く西日が一人と一柱の頬を照らした。



「今日は一段と綺麗な夕焼けですね。」



日差しを遮るように、手を顔の前でかざし、西の空に視線を向けた。

東雲は何も言わずに、ただ空を見つめていた。



「この夕焼けを見ていたら、今朝見た朝焼けの空を思い出しました。今と同じように雲ひとつない、砂浜に続く海を見ているような、美しい空でしたよ。」


「それは良いものを見ましたね。」


「はい。本当に綺麗で、また同じような空が見れたらいいなと思いました。明日も早起きをして、朝焼けの空を待とうと思います。」



それきり、会話が途切れた。しばらくの間、ただ道で立ち止まって、刻々と変化していく秋の夕焼けの空を眺めていた。

静けさに包まれた中、東雲が空を眺めたままポツリとつぶやいた。



「平穏な明日が、来るといいですね。」


「え?」



東雲の発言の意図が分からず、翡翠は思わず聞き返した。


その時一陣の強い風が吹き、東雲の絹のような白くて長い髪を巻き上げた。そのせいで、東雲の表情を見ることは叶わなかった。彼は流麗な仕草で髪を耳にかけると、翡翠へと視線を滑らせた。



「いいえ、何でもありませんよ。それでは翡翠さん、また」



東雲はにこりと微笑んでから、翡翠に背中を向けて歩き出した。



「は、はい!!」



突然の別れの挨拶に、翡翠は短く返事をすることしかできなかった。


だんだんと小さくなっていく後ろ姿を眺めながら、翡翠は自分の中で渦巻いていた予想が、確信的なものへと変化していくように感じていた。



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