第五章 長月の真実 その7
一人と一柱の前に置かれたお皿の上には、まだ湯気が立ち上っている焼き立てのパンケーキがあり、その上で粒感が残るあんことソフトクリームが存在感を放っている。
目の前に広がるこの幸せな光景を写真に収めておきたくて、翡翠は所持していた電子端末をカバンから取り出し、写真を一枚撮った。
上手く撮れているかを確認するために写真フォルダを見返してみる。
「あれ?」
そこで、翡翠はあることに気がついた。
「どうかなさいましたか?」
「あ、いえ!!大したことではないので気にしないでください」
「翡翠さんがそうおっしゃるなら……」
「はい、大丈夫です!!さあ、冷めないうちにいただいてしまいましょう」
「そうですね。いただきましょうか」
東雲には大丈夫だと言ったが、翡翠は内心首を傾げていた。
フォルダの写真の数が、明らかに多くなってる。
数日前まで数千枚だったその数が、今確認した時には一万を超えていた。
何か異常が起こっているのかと思い、遡るためにスクロールをしてみると、さらに不思議な発見があった。
『この写真、撮った覚えがないんだけど。』
翡翠がそう思ったのは、とあるお店で撮影したと思しき写真たちだった。
東雲と初めて行ったと思っていたカフェの写真が、何枚も、何枚も出てきた。それも、一箇所ではなく、複数箇所に及んでいる。そしてその日付は、東雲と出会う数ヶ月前を記録していた。
『まあでも私の見間違いかもしれないし、後でもう一度確認することにしよう。』
そう思ったところで、一旦この件について考えることはやめ、目の前のパンケーキに専念することにした。
翡翠は艶めく黒蜜をホットケーキの上に流しかけ、それが下へ下へと滴っていく様子を堪能してから、ナイフとフォークを手にした。
熱々のホットケーキの上に乗ったソフトクリームが溶けて生地に染み込んだところに、さらにソフトクリームと小豆を乗せて一口。
その瞬間、口の中で異なる種類の甘さが融合し、別の甘さに変化する。その刹那を幸福に感じながら、翡翠は次々にホットケーキが乗るお皿へと手を伸ばす。
「________相変わらず、食べ終わるのがお早いですね。」
呆れたような感心したような微妙な表情の東雲に言われて、初めてお皿がまっさらになってることに気がついた。
「美味しいので、つい……。一応、自分ではゆっくり噛みしめながら食べてるつもりなんですけどね。これは私の気のせいなんですが、すぐに食べないと、消えてなくなっちゃうような気がして。」
翡翠は自分から出た言葉に驚きながら、話していた。
『最近、なんだかこんな風に感傷的になることが多い。どうしてなんだろう。』
自問自答している翡翠の表情から何かを察した東雲が、深刻な面持ちで口を開いた。




