語り部
暖かな陽光が世界を黄色に染め上げる春の日の昼下がり、神社の境内に一人の少女の姿があった。
着物に身を包んだその少女の横には、若い男性の姿も見える。
彼らは思い出話に花を咲かせている最中であった。
少女の鈴の音の鳴るような、コロコロとした笑い声が時折静かな境内に響いた。
「これ、覚えていますか?」
艶やかな黒髪を垂らしながら、少女は目の前にいる青年にとあるものを差し出した。
そこには、少女と青年が微笑んでいる姿が収められている。
写真には男性と少女の他に道行く人、そして桜の花も見受けられた。
「ええ、覚えていますよ。まだ持っていらっしゃったのですね」
男性は、心底嬉しそうな表情をしている。
「当たり前です!これは私にとってとびきり大切な思い出なんですから」
そう言って、少女は写真へと視線を滑らせる。
慈しむように、懐かしむように写真を見る少女の姿を、男性は優しい笑顔を浮かべて見守っていた。
昔々、そのまた昔。
まだ人間と神々が一緒に暮らしていた頃、一柱の神が生まれた。
白い肌に赤い瞳を持つその神は、太陽神天照大神よりある使命を与えられる。
幾度となく使命を全うし続ける中で、一人の少女と出会った。
これは、途方もないほど長い時間を過ごす一柱の神と、その神の時間に彩りを与えることになった人間との、出会いのお話。