伍 Emperor
ある国の昔話。急に時代も場所も変わり…
ちょっとテイスト?を変えた。これは違う物語。
栄えた国があった。富に溢れた、豊かな国。民草も、王も、それを取り巻く家族も、全てが幸せである。いや、幸せだった。
ある日、城に独り、女(性別など在るはずもないが、外見上女性であった為、女と記述)が現れた。元からそこに居たと誰かが言い張るように。王は問うた。「誰だ貴様は」女は気怠げに返す。「陰…とでも呼んでよ」「質問に答えよ、誰だ」陰と名乗るそれは、やはり当たり前のようにそこに佇んでいる。「そんなに僕が誰か、というのが大事かい?」逆に質問を蹴り返された。「…そうだな、質問を変える。この我に、いや、この国に害を為すと言うのなら、排除しなくてはならない。お前の目的はなんだ?」「僕を誰か、と聞いたのに、名前で呼んでくれないのかな?」
また質問を一蹴。一向に本題に入らない。「…陰とやら、目的はなんだ?」「目的ってなに?僕が何かをしないといけないの?」「何もしないのなら、それでいい」「間違えてるよ、間違えてる。最後から今まで前提を履き違えてる」「いいや、何も間違えてなどいない。ここには…ここは何処だ!我に何をした!」ここはどこでもない。だが、それを教える者も、状況を報せてくれる兵もいない。王は孤独だった。「何もしていないよ。前提が違うだけだって」暫し思考。間は沈黙が流れる。口を開いた時には、それは確認を促すものだった。「ここは…これが、現実か?」陰は少し笑う。「ようやく…いや、未だ、が正しいかな?本当にそれだけかい?君は」王はわからない。故に恐怖する。故に思考を鈍らせる。考えなくなったら終りだ。それだけは答えを導き出した。
「そもそも、君は誰なんだい?さっきのものが夢幻であったなら、君は誰だ?」我は…私は誰だ?目の前の陰は自分を判っている。私には何もない。そもそも私が現実だという証拠もない。「君は自分で自分の存在を書き換えてるだけさ。プログラムコードの様に」「では、何故自分の事がわからない?自分の事を書き換えて、何故「だから、間違えてる。これだけわかりやすく言ってあげているのに、もっと1+1の様な単純なものにしてあげないといけないかな?」
王であった…王ですらない者は静かに嘆き始める。思考は鈍化していくばかりだ。脳を働かせ続け、血を廻し過ぎたからか、オーバーヒートを起こす。だが、それでもなお陰は淡々と油を告げる。思考の歯車の潤滑油にするか、ただ心臓の火に注ぐかは///////////次第だ。「君は存在していないんだよ」プツン。と、音が鳴った気がする。確かにそれは簡単な答えだった。「書き換える事が出来るなら、書く事も出来るだろう?君は生み出したんだ。この世界を、次元を、物語を。僕は君を正しただけ。このままだと、他の物語も壊れかねない。」
そうだ。私は…僕は、これを繰り返してきた。書き続け、書き換え続け、それでも満足しなかった。だから我は、俺は、俺を書いた。筆を執った。生み出した。そうか。では…「お前は、俺か」陰…いやいや、そんな呼び方は無作法だろう。お前で充分だ。「解ったか、遅ぇぞ」口調が変わる。これは素だ。「もっとわかりやすくて良かったじゃないか」「罰だ。俺は考えが浅はかだからな。まだ足りないくらいだろ」お互いを嘲笑う。「そうだな」皮肉を込めて、返事をした。
(書き換えた。もうこの物語は続かない。これは外伝。あくまでも外伝。フィクションであり、実際の物語には影響しない。でも、これも一つの終着点。こんなお話も在った事を、俺は憶えている。)