参 Eel
家に着く。「入れ、俺の家だ。これからのお前の居場所でもある。少し汚いのは我慢しろ」
小娘に家の中を案内する。台所、風呂、トイレ、冷却室、応接室と、いくつかの部屋がある。
「どうして必要最低限の設備しかないのに冷却室と応接室があるの?」「冷却室は供物を保存しておくためだ。生モノを入れるやつがいるんでな。応接室は便利屋を呼ぶための部屋だ」「便利屋?」
「俺を信仰している者がいるんでな」「…聞いてなかったけど、なんのカミサマ?」「この世界」「世界?」「創造主…と言ったほうが良いか」「創造主?でも、教科書にはあなたのようなカミサマは出てきてないよ?この…どこいったかな」あった、と言いつつボロボロのノートを取り出す。「589頁の13行目…これ、ウナギがこの世界をつくったって…」「ウナギは…いや、そうだな。ウナギは俺の別名だ。」「見た目が違うよ?」「俺の見た目は人によって変わる。お前には20代の男に見えていると思うが、この絵を書いたやつはウナギに見え、ウナギという名前にしたんだろう。」
「ふーん…」「そう、俺にとって名前と見た目は重要なものだ。だが、俺は名前を持たず、見た目も人によるものだ。俺は今何も持っていない、自分という存在が固定されていない事を恐怖する。俺という存在が塗りつぶされているような」
…触感、俺に小娘が触れている。「大丈夫?すごい早口で何言ってたか殆ど聞き取れなかったよ」またやってしまった。「すまない、色々あった」「…私が名前をつければいいんじゃない?」胸を張りながら言う。「お前が、俺に、名前を?…悪くない、【命の契り】も交わしているしな」…なぜ【命の契り】があるのがわかった。俺なんだな。「頼む」「あなたの名前は…杯縁。どう?ネーミングセンス抜群でしょ?」「…そうだな、感謝する」「どういたしまして」…ふん、嬉しそうな表情をして。ますますあいつらを許せなくなる。…これからもこいつを守っていかないとな。
(神は居場所になった。少女は居場所を見つけた)