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人の財布で買い物をする男

 

「別れるなんて嫌だ。ボクはもうヒーナなしで居られないんだ!」

「語弊のある言い方をしないでよ! 王都に1人で帰るぐらいなんてことないでしょ!!」

「こんな美しい男が1人旅なんて問題しかないよ!!」

「その女の子ホイホイなご尊顔を使って旅の道連れを探せばいいじゃない! はいバイバイ」


 目的地が合わないのなら一緒にいる理由もない。現在地もわかったことだし、腕の中から脱しようと体に力を込める。


「私はこれから華のドラゴンを見物するっていう重大かつ、重要な目的があるの。話を聞く限り、私に害は無さそうだから戻るわ。むしろアンタと一緒にいる方が巻き込まれる。わかったら放して」

「そんなー」


 タダでさえわけもわからずこの森の中に連れてこられて時間ロスしている。早く戻って花祭りを楽しみたい。華のドラゴンの登場する夜まで露天を楽しむ予定をこれ以上狂わせたくない。

 腕の中から飛び降りて、スプリング街の方に向かって走る。


「……なんで着いてくるんですかね?」

「よく考えてみれば敵が来たとしても、今のボクなら勝てるな、って思って」

「ちょっと何言ってるか分からないや」

「だから、前回は惚れた弱みに付け込まれたけど、今はちゃんと警戒してる。それにヒーナは信じてないけどボク単騎で龍を殺せるぐらいには強いんだよ? 伊達にフォルシャータ王国随一の剣豪と呼ばれていないのさ」


 確かにそれは事実だが、


「寝巻きの丸腰で得意げにされても……」

「魔術導師の認定資格も持ってる。手ぶらでもじゅーぶん強い! という訳で一緒にお兄ちゃんと花祭りへ行こう!」


 先程まで王国に戻らなければと慌てていたのに、手のひらを返すのが早すぎやしないか。相変わらずその時のテンションで生きてる。

 本当は、本当に嫌だが、一緒に花祭りを見廻ることになった。このままここで問答を続けても最終的に私を王都に連れ戻す未来しか見えなかったからだ。

 巫山戯た男だが、その剣の腕も魔法の精度も本物である。実力行使されたら私は逆立ちしたってかなわない。


「これは、なかなか見応えのある。さっきは急いで走ってたし、前に仕事絡みできた時は時期が違ったし、今回ここに来る時は箱の中だったからまともに花祭りを見るのはこれが初めてだよ」

「来るな、擦り寄るな、腕を組むな。出来れば4歩以上離れて歩いてくれえっと……に、兄さん!!」

「あっちに簪売りがある。スプリングの簪は女性に大人気なんだ! 早く行こう」


 まるでこっちの話を聞いてやしない。

 グイグイと引っ張られ至る所で物を買わされる。服から始まり、練りがし、綿あめ、指輪に魔よけの飾りにお子供用の伝説の剣を模した切れない剣……エトセトラ。

 なんの躊躇もなく目に付いたものを手に取り、『払っといて〜!』と次の場所に去る。このされた私は店主に可哀想な人を見る目を向けられながらお金を払う。指輪屋の店主には『貢ぎすぎるのは良くないよ』と優しく諭された。もう泣きたい。

 そして、もう付き合ってられないと途中私が払わずに別方向へ向かうと、すかさず追いついて来てぶつかり、泥棒もかくやという早業で私のお金が入った袋を奪い取った。

 哀れな私は財布を人質に取られたことにより、男から離れることも出来ず、買い物を阻止することも出来ずにただとぼとぼと男のその後を歩くしか無かった。


「私の、私の1週間の稼ぎが一瞬にして消えていく」

「おかげでボクの装備が揃った。これで何が来てもヒーナを守れる」

「こっこいいセリフ言ったって誤魔化されないからね。絶対綿あめ、練りがしから始まるお菓子の数々は要らなかったでしょうよ」

「ボクの体は砂糖で出来ている。即ち、糖分を取らないと実力が発揮できない。1週間ぶりの嗜好品なんだ、多めみて」


 悪びれる様子もなく朗らかな笑顔で返される。スプリング街独自の、裾の長いヒラヒラとしていて花の刺繍がびっしりと施されている新しい服に身を包んだその男は元の美しさも相まって、歩くだけで人の目を集める。本人は『髪と目の色を変えても溢れ出る気品。ふふん』などと嬉しそうだがこっちはたまったもんじゃない。通りがけに売っていた華のドラゴンをもしたのであろう、白い龍のお面に認識阻害の魔法を付与し、被せる。


「お見事。器用なことする」


 かぶせられたお面の窪みを辿りながら男は言う。気に入ったようだ。


「認識阻害、存在希薄系の魔法は得意だからね。私がいるのに他の女を振り向かせてどうするのよ」

「……今ボク、告白された?」

「私『の財布』が『人質に取られて』いるのに『アンタが擦り寄ってきた女の子に恋に落ちて私のお金で遊び始める可能性がある』他の女を振り向かせてどうするのよ」

「そんなところだと思った。大丈夫、何時だってヒーナが居ればその他大勢は目に入らない」


 多くの女性に言ってきた決めゼリフなのだろう。妙にこなれた様子で言う。こんなにもときめかない甘い言葉があるだろうか、いやない。

 そろそろ日が沈み始める。男の自由な買い物のおかげですっかり時間が過ぎてしまったようだ。ちらほらと光螢花の明かりがともり始める。


「あっ! 私まだ主人へのお土産買ってない! 寿亭は何処?!」

「主人? 結婚!? この1週間でヒーナに何があったの?!」


 私の言葉にわざとらしく驚くふりをする男の頭にいつか隕石が落ちることを願いつつ、言い直す。


「宿屋の主人だよ。アンタと違って私は恋愛に慎重なタイプなの。ころころ恋に落ちたりしないわ」


 男の手を引っ張り寿亭を探す。すぐに見つかった。宿屋の主人が言っていた通り、人気のお店らしく長い行列が出来ていた。華のドラゴンを見る為に夜になる前に1度、宿屋に戻り置いてきた荷物を取ってくる予定だったが、この行列では無理そうだ。

 予定を変更して、宿屋に戻らず、このまま行列に並びながら夜まで外に居ることにする。


「結構人いるけど、並ぶ?」

「宿屋を主人にここの花華包を食べずして帰るのは花祭りの楽しみを半分ぐらい味あわないで帰るのとおなじだ! みたいなことを言われたからね」


それに重い王子を2階まで運んでくれた恩人でもある。感謝の気持ちを伝えるのにピッタリの品だろう。


「美味しいけど、花華包なんて城に戻れば並ばずとも食べれるよ」

「それは王族に対する献上品でしょ。今並んでるのは花祭限定の飾りが施されたレア物なの。一緒にしないで」

「ヒーナは限定って言う言葉に弱いよな。わかりました、お姫様の仰せの通りになさったらよろしい。ボクは夕食を買いに行ってくるよ」


 仮にも一国の王子、自分の謁見のために民が並ぶのは許せど、自分自信が並ぶのは御免だと言うことらしい。そっきまでの引っ付き具合はなんだったんたという疑問が出るぐらいあっさりと絡みついていた腕を離し、1人で去った。


「ちょっと!! お金! これじゃ並んでも買えない!!」

「買う頃には戻ってくる。だからその場所から動かないでねー」

 


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