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箱詰めの王子、邂逅

 カタリ。

 木材どうしが打ちあった音がした。そう。まるで閉めといた蓋が中から押し上げられて、床に落ちたみたいな。

 見たくないと抵抗する首を必死に押さえつけて箱を見る。中からニョッキりと手が伸びていた。ホラーである。

 

 「んァー。ふぁーーーアーぁ」


 よく寝たと言わんばかりの大あくび。上体を起こし、腕をのばす途中で体をおおっていた花がそこらに散らばる。

 枯れていることもありパラパラと風にのって落ちていく花弁。舞い散る花びらと寝起きの美男子。朝の光も相まって大変幻想的な光景である。

 私から見れば悪夢のような光景だが。時よ止まってくれと願いながら声を発することも出来ず、ただ目をかっぴらいて棒立ちになっている私はさぞ滑稽なことだろう。


「はぁーよく寝た。なんだ。花? 木箱? というかここ何処だ?」


 悪夢の元凶は体に積もった花びらをはらい、折りたたまれていた長い足を木箱の中から出してあたりを見回した。


「あれ? ヒーナ? 何でここにいるの? これはどういう状況だい?」

「……」

「おーーい?」

「ちょっと静かにしといてくれます?」


 私はとりあえず目の前の男に仮死魔法をかける。


 避けられた。


「なんで避けるのさ!?」

「そりゃ、寝起きドッキリみたいなノリで仮死魔法かけられそうになったら避けるだろう?」

「私はアンタを抵抗できなくして箱に入れたいだけなのに!」

「ヒーナにそんな性癖あったけ?」


 違うよ!

 正確には「封印をかけやすい仮死状態にして箱に入れ、元いた場所に返品したい!」だ。

 端的に言ったらなんか変な風になっただけだ。勘違いしないでよね。……なんか意図せずツンデレみたいになった。この男相手にツンデレカマしたとかもう生きていけない。


 「とりあえず落ち着かないか? いくらボクがムカつくからと言って無断で魔法を向けるのは犯罪だ」

「落ち着くも何も、アンタが気を失ってくれさえすれば万事解決なんだよ。大丈夫、酷くはしない。私に任せて」

「その言葉はとても魅力的だが、多分状況的にボクの想像する意味じゃないんだろうな」


 先程から魔法を放ち続けているが一向に当たる気配がない。お母様から教わった、魔法は数打ちゃ当たる理論は間違っていた事がここに証明された。

 と言うより、寝起きなのにも関わらず華麗に弾丸攻撃を交わし続けるこの男の方がおかしいのだ。


「……なんでここに居るのよ?」

「やっと会話してくれる気になった?」

「魔力切れだし。状況を説明してアンタに協力してもらった方が、魔法を無理やりかけようとするより手間が省けると思っただけ」


 出来れば顔を合わせたくないぐらいだが、このまま逃げられると厄介だ。この男を自由にさせてはいけない。自由になったあげく、王都に帰って「なんかヒーナに誘拐されてたみたい」とでも言ってみろ。大変なことになる。


「じゃあ、交代で質問していこう。まずはボクから。髪切った?」

「最初の質問それ?」

「女の子の容姿には敏感なタイプなんでね」


 ウィンクをしながらドヤ顔する。殴りたいその笑顔。そんな目、腐り落ちればいいのに。


「目立つし、徒歩旅行中は邪魔だから自分で切った」

「なんか新鮮。髪もそうだけど、旅用のマントとズボンもとてもよく似合っている」

「ありがとう。そういうアンタは寝巻き?」

「そうみたい。ハルシャがくれたんだ。安眠効果が付与されてるボクのお気にりだよ。ここは何処?」

「惚気おつ。ここはスプリング街、宿屋の2階。その割にはもう別れたみたいね?」

「バレた? 婚約破棄した後すぐにね。色々あって」


 バレるも何も、この男、付き合った女性からは片時も離れないのだ。恋に落ちた瞬間からその女性から10歩以上離れないという性質がある。この男の傍らに女の影がない、即ち別れたという事だ。

 なんでも『恋愛中は彼女のことだけを見つめる為に常に傍らにいる』という謎のモットーから来るものらしい。大変迷惑なことこの上ない。

 王都の下町でパン売りをしていた15人目の彼女の時なんかは、店に押しかけ、王子自らパンを売っていた。慌てて城の兵士と回収に行けば、彼女の父親は『どえれぇ人にパン売らせてる』という罪悪感と不敬を犯してしまった恐怖による酷い顔をしていた。その絶望顔と対照的に、王子の手から売られるパンを買い求めてホクホク笑顔の町人たちで店は賑わっていた。


「失恋した割には元気そうね」

「いや、だいぶ落ち込んでるよ。偽りの姿でも愛してたのに……」


 めんどくさいのが来た。この男の失恋語りは長い上に無駄にある語彙力で言い方を変え何度も同じ話をするのだ。しかも劇に影響されているのか手を振り回し声を張り上げながら1人劇場をおっぱじめる。相手が聞いていなくてもある程度立ち直るまでずっとやっている。1人で何役もこなし、妙に上手いのが癪に障る。


「失恋劇はいいから。次そっちの質問」

「偽りの姿とか気にならない!? 婚約破棄の後の話だよ? なんでそんなにすぐ別れたのかとか、疑問が溢れてこないか?!」

「偽りの姿ってたって、7番目とか28番目の女みたいに王子に取り入るために魔法で姿変えてたとかそういうオチでしょ。別れ話だってアンタの恋愛統計的に婚約破棄っていうクライマックスが終わればすぐ別れるじゃん。アンタは盛り上がりきってしまえば、転がるのは早いタイプだから」

「ボクのことよくわかっていらっしゃる」


 わかるって言うより、細々としたものを含めれば50近く恋愛騒動起こしてる第1王子様ですからね、参照情報はたんまりあるってだけなのだが。

 「貴方のことをよく理解してます」ムーブでは断じてない。なんなら王子の恋愛譚を書いているお父様の方がこの男のことを誰よりも知り、理解している。


「質問ボクの番か。えーと、婚約破棄してから何日たった?」

「今日で8日目よ」

「8日?! 4日もたっている」

「あと半日ぐらい眠てて貰えれば話は簡単だったのだけれどね。4日前何かあったの?」

「ハルシャに振られた」

「………あっそう」

「彼女に振られてからの大事な最初の4日間を彼女との思い出を振り返りもせずに失望と痛みを忘れ、のうのうと眠って過ごすなんて、恋愛王たるボクとしたことが……」


 『そこのベットの角に頭打ち付けてもっかい寝ればいいのに』と言う台詞が口から出そうになるのを必死で抑える。

 あまりにもな回答に目眩を覚えながらも、落ち着こうと背後のベットの上に座る。なお目の前の男はとっくの昔に木箱を逆さにしたその上にゆったりと座っている。この男が座ればただの木箱も何か特別な形の椅子に見えてくるから不思議だ。片足を組み、額に手を当て、いわゆる『考える人ポーズ』で深刻そうな顔をしながらつらつらと30番目の彼女、ハルシャとの薔薇色の過去をブツブツと喋っている。どうやら自分の世界に行ってしまったらしい。


「こりゃ、当分戻ってこないな」


 こうなると満足するまでテコでも動かない。構うより、そうそうに見切りをつけ朝食でも買った方が時間を無駄にしないだろう。


 少女は思い出に浸る男を置いて、起きた時からさりげなく空腹を主張していた腹を擦りながら下の階の食堂に向かう。

 早朝に届けられた荷物に振り回される少女。自由で幸福な時間は1週間で終わってしまうのか? 目覚めた男をどうにかし、花祭りを楽しむ予定は消化出来るのか!?


 

 

 誤字報告本当にありがとうございます。感想も質問も本当にありがとうございます。超絶嬉しいです。出来もしないバク転をするぐらい嬉しいです。やっと物語の主軸が動き始めます。今後ともよろしくお願いします。

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