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自由の道と恋煩悩な隣室のカップル

 鼻歌を奏でながら歩くこと1週間。目的の花祭りが行われる、スプリング街にたどり着いた。目に入る全ての建物は花で彩られ、歩く人々の頭にも花が乗っかっている。まるで街全体が花に侵食されたようになっていた。


「毎年花祭りの期間はヤバいって外交大使から報告を受けてたけどほんとにヤバいって言葉しか出てこないや」


 見るもの全てに花が添えられている、祭りの雰囲気もあわさり、街全体が花の香で酔っているようだ。

 フラフラとあちこちを眺めている時にもらった花を頭に刺して、今日泊まる宿を見つける。気分はまさに頭お花畑……うっ嫌な記憶も蘇りそう。やめよ。

 宿屋の主人に稼いだお金を渡して部屋を借りる。宿代は旅の最中で護衛の仕事をして手に入れた。失踪のために城から持ち出した殆どが大金貨だったため、うっかり使えばお釣りが出ない代物だったからだ。お釣りが出ない所か、出処を巡って大騒ぎになる。貴族間でしか使われない金貨である事を失念していたうっかりミスだ。

 小柄な女性に守られるかと旅商人たちにバカにされ、最低額のさらに半額で雇われた道中だったが、途中で出てきた盗賊刀を全て毒で溶かし、踵をくっつけて転がす頃には笑顔で褒められる様になったので良しとする。勿論後から、雇金をしっかり正規金額で貰った。


「毒殺されかけた時に取っておいた毒をぶっかけて、踵どうしをくっつける魔法を使っただけでこんなに感謝されるとは……」


 正規の値段の倍額で帰りも頼みたいと言われたが、失踪中ゆえ、王都に戻るつもりは無い。キッパリお断りし、代わりに腕の経つ護衛魔道師として噂を広めてもらうようお願いした。これでお金に困った時に仕事にたどり着きやすくなるだろう。


「おぉー。いい眺め」


 借りた部屋の窓を開けると、眼下には花に彩られた街の大通りが見えた。親切な宿屋の主人によるとこの大通りを華のドラゴンが闊歩するらしい。急な予約キャンセルで空いた部屋らしく、花祭りの時期にこの部屋を取れるのは大変幸運なことらしい。


「矛先のいいスタートだな。ラッキーラッキー」


 行き交う人々を眺めていれば時間はすぐにたち、あっという間に星が瞬き始めた。門扉に飾られた祭りのための光螢花のおかげで街はぼんやりと明るく、大変幻想的な空間となっていた。


「これはこれは見事だな。景色固定記録用の紙がいくらあっても足りないや」


 持ってきた景色固定記録用紙に魔力を込め、目に映る光景を転写する。これでまたひとつ思い出が増えた。旅を初めてから写りためた紙を眺める。

 1枚1枚めくりながら思い出に浸るこの時間は、失踪を始めてから1週間の日課になりつつある。


「例のものは本当に明日ここに届くのか? 祭り騒ぎで人目が多いというのに」

「そうよ、人も物も出入りが激しい花祭りの期間だからこそできる計画だって言ったわよね?大人しく待ってられないの?」


 今までの景色用紙を見るためにつけたランタンの炎が尽きる頃、その声は聞こえてきた。どうやら隣の部屋からだ。

 不穏な空気を察知し、壁に耳を傍立てる。

 どうやら2人の男女が言い争っているようだ。確か美男美女のカップルだった。特に男の方は人間か? と疑問に思うほどの美貌で、長い白髪とさらに白い肌に花柄の豪奢な服が良くにあい、宿屋の食堂の中で浮きまくってたことを覚えている。もしかしたらどっかの家の坊ちゃんで女と駆け落ち中なのかもしれない。


「貴方のために用意した特別なプレゼントなのよ?! このお祭りに合わせるために物凄く苦労したの!! もっと喜んだらどうなの?!」

「だからって、あれを送らなくても……あまりにも手に余る」

「巫山戯ないで!!わたしは、わたしは、貴方のために、ためを思って……! 貴方だって手に入れたいと零していたじゃない」


 感極まってワァと泣き出す女をオタオタと宥める男の声がする。


「そなたの気持ちは嬉しい。本当にありがとう。だが、受け取れぬ」

「こんなに尽くしても振り向いてくれないなんて貴方何様?! あんたなんか、一生ここから出なければいいのよ。わたしが会いに来るのをせいぜい心待ちにしてるのね!」


 バタンッと大きな音とともにバタバタと誰かが走り去る音が聞こえた。すぐに『待て』という声と、追いかけるような足音が通り過ぎ、静かになった。


「……お隣さんは何だかんだ大変みたいだな」


 尽くす女性と、尽くされすぎてなんか重いなって思い始めた男の色恋騒動か。追いかけるぐらいだから関係を終わらせたいとは思っていないのだろう。どうせ明日までになんやかんやあって仲直りして、その荷物を受け取とるんだろうな。 そんな雰囲気がする。


「はァ、隣の部屋爆発しないかなぁ」


 こっちは30回も振られるぐらい冷めきった関係だっていうのにお熱いことだ。

 軽い嫉妬心を覚えながらもこれ以上起きていても仕方がないと思い、ベットへ潜る。ランタンの灯りを消し、瞼を閉じた。


 少女は眠る。ひと時の自由がもうすぐ終わることも知らずに。そして運命の朝が来る。


 


前回の誤字報告、まァーじでありがとうございます。本当にありがとうございます。小学生の頃からの誤字癖は何年経てども治らず、年季の入った誤字ゆえ自分では気が付かず。出来るだけ直せるよう頑張っていますが、それでも消えぬのです。

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