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よし、王都から逃げ出そう

「そうと決まれば行動あるのみ」


 軽くてを叩き意識を切替える。まずやらねばならぬことは、多大なる迷惑をかけるであろう各人々に手紙を書くことだ。王城の自室に向かいながら相手を考えていく。


「お父様には後釜含めて絶対でしょ、お母様とおば様にも、侍女長にも書いといた方がいいわね。あとはユネスとキーラにも書いとかないと」


指を折りながらあげていくが、結構な数になってきた、今夜中に旅立てるだろうか。細々と書いていたら1日が終わってしまいそうだ。


「とりあえず『もう疲れました。さようなら』で大体の状況は伝わるでしょう。うん。仕事の引き継ぎはお父様に伝えて、各ご令嬢方に謝罪の文句と今後の取引の細々としたやりとりは姐にお願いしよう。自室の整理についてはユネス達に任せればいいでしょう」


 だいたい決まってきた。あとは失踪、自由のための旅に必要な道具だ。今から買いに行くと怪しまれるから部屋にある物から厳選して持っていこう。そう考えているうちに王城にある自分の部屋にたどり着く。中には誰もいない。まだカャルナは戻ってきていないようだ。


「とりあえず枕は絶対でしょ、あとはお金。服は現地調達でいいとして、旅に必要なのは…」


 昔、王子が浮気相手とのピクニックをしたいた時に相手を困らせようとこっそり盗み自分のものにした大きめのカバンをクローゼットから取り出し、必要なものを入れていく。

 あの時はまだ2回目で嫉妬心から来る可愛い泥棒だったが、それが今になって役に立つとは。ファインプレーだ過去の私。


「よし、おっけい」


 パンパンになったカバンを苦労しながらしめ、それを背負う。カバンの紐がギシギシ言ってるがまぁなんとかなるだろう。カバンに軽量化魔法と透明化魔法を重ねがけする。

 鏡で自分の姿を確認すればちゃんとカバンは見えず、手ぶらの私が手を振っている。


「魔法は成功。何気隠密系の魔法は得意なんだよね。宰相の娘ってジョブだから輝かなかったけど今後は大いに役に立ちそう。ちゃんと極めといてよかったァ。あとは見た目」


 市井では目立ってしまうであろう銀髪と琥珀色の瞳を魔法で茶色に変える。洋服を一時的にメイドの服に見えるよう幻影魔法をかければ完璧だ。

 

「これで準備バンタン。さーて何処へ行こうかな。とりあえず前から行きたいと思ってたコート山岳地帯にドラゴンでも見に行こうかな」


 この国にはドラゴンが5体いる。それぞれ華、水、翠、文、不の属性を持っていて崇められている。その国の各要所に祀られている、生きたドラゴンたちによってこの国は守られ、そして反映している。まさにドラゴン国家なのである。

 各人々に送るための手紙を羽根ペンで描きながら行きたい所をつらつらと想像する。


「確かこの時期は、華のドラゴンが冬眠から目覚めて花祭りに参加するはず。よっし目的地決まり」


 手紙をなる早で描き終え(だいたい『もう疲れました。さようなら』しか書いてないため、すぐに終わった)カバンの中からどの地形でも調べられる魔法本を取り出し、コート山岳地帯までの道のりを見る。身体強化をせずに行けば歩いて1週間ぐらいだろうか。

 華のドラゴンのいる土地は有名な観光地だから道が整備されている。王都から出ている馬車に乗るのもいいが乗り降りの際に身分証明をしなければならない関係で足がつく。やはり徒歩で行かなければ。


「旅行とか久しぶり。最近お茶会や仕事で忙しかったからな。最後に行ったのはあの男と13番目の女のデートを追いかける時だったか。あの時のあの男とその女が邪魔だったが、海自体はとても綺麗だった」


 何を思い出すにもあの男の影がチラつくな。まるで私が花畑野郎を引きずってるみたいだ。なんか悔しさを通り越してムカついてくる。私の思い出のページに出てくるな。


「でももう、あの男の影に振り回されることはない! これからの思い出はあの男がいない、私だけのクリーンで自由なものになる!」


 晴れ晴れとした気持ちのまま城を出る。運のいいことに誰ともすれ違わず、メイド用の裏口から出ることが出来た。

 城下町に向かうさながら、私の笑顔は最高に輝いていた。スキップでもしたい気分だ。栄えある王城務めのメイドが市中でスキップなんぞ出来ないため、さすがに自重した。

 服屋により旅人用のマントと服を購入し着替え、来ていたドレスを燃やす。ついでに腰まで届く長い髪ともおさらばだ。旅をする上で長い髪はジャマでしかない。

 警護のため見回りをしている兵士にぺこりと頭を下げ、入国審査している門番の脇をすり抜け、王都を囲む壁を垂直に登る。門についた魔法監査の鏡さえ通らなければこっちのもんだ。重力に逆らうタイプの魔法は大量の精神力と魔力を消耗するためここぞという時にしか使えない。


「後方確認、誰も注目してないね?……やったァー! 自由だ!!」


 ものの2時間ぐらいで王都を抜けれた。準備時間を含めても思い立ってからまだ半日とたってない。


「失踪ってこんなに簡単だったんだ。そりゃ王子がよく行方不明になったり、誘拐されるわけだ。行方不明になるたんびに新たな女見つけてくるし、誘拐騒ぎの時だって痴情のもつれが原因で大騒ぎになったな……なんか、ろくな失踪しないなあのボンクラ王子」


 むしろ失踪してから戻ってくるたんびに問題を引き起こしている気がする。それら全てが色恋沙汰に通じている分、ほんとにタチが悪いとしか言えない。

 途中で買った揚げパンを頬張りながら王子が王城から消える度に背負った後処理の苦労を思い出す。あぁ、なんか涙出てきた。


「私今までほんとに頑張ってきたよ」


 青空がめに染みる。

 もんからある程度離れた場所で透明化と気配気薄化の魔法を解除。どっと疲れを頭をふっておいやる。

 壁を走った時にズレた帽子とマントをなおし、コート山岳地帯への道を進む。


 その期待と希望によって軽くなった足取りはいったい何処まで続くのか、類いまれなる魔法の才によって脱出できたことを自覚せぬまま少女は足を進める。目に見えるはドラゴンとの邂逅と美しいであろう花祭りの情景のみ。

 彼女が残した手紙を見た人々の阿鼻叫喚の声は少女の鼻歌によって掻き消えた。

 





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