夜行行列
「わかった、じゃあ明日改めて会おう。どこに行けばいい?」
「明日は買った花華包を食べるのに忙しいから無理だ。因みに明後日はいい歌が思いつきそうだから無理だしその翌日は体調不良の予定だ。さしあたって緊急な用事がなければ次の定例会まで会えぬ」
「君実はボクのこと嫌い? ズッ友だと思ってたのに」
「好きでは無いのは確かだな」
バッサリと面会拒否されるカイルは肩を落としている。
そんなカイルを尻目にカリュウさんは花華包を購入した。その数220。お店の人は毎年のことで慣れているのか、『今年もちゃーんと用意しておきましたよォ』とにこやかな笑顔で店の奥から商品を持ってくる。
「世話になるな。花祭り時しか街に来れぬゆえ、法外な数になってしまい申し訳ない」
「いえいえ、毎年のことですし。それだけにこやかな笑顔で買ってかれたらこっちだって嬉しくなるってもんですよ」
「花華包は絶品だからな」
そうカリュウさんがにこやかな笑顔で言うと売り子の女性はポッと顔を赤らめた。わかるよ。華のドラゴンの人型めっちゃイケメンだからね。笑った時に瞳孔が狭まる感じめっちゃキュンだよね。わかる。
「これはソナタの分だ」
「え?」
カリュウさんの人型の造形の良さについてしみじみとしているとその本人から袋を手渡された。
「先程、紙をを弁償していて列に戻らなかったであろう? これは私が壊してしまった紙の詫びも兼ねている」
「いやいやいや、むしろ蹴り飛ばしてしまったこっち側が詫びるべきです。流石に受け取れませんって」
「貰っちゃいなよ。いい事言ってるけど、どうせ花華包の信者を増やしたいだけなんだ。気にしないでもらいな」
先程まで『ボクの一方通行な友情だっただなんて』と不貞腐れていたカイルがサッとカリュウさんのてから袋をとる。
「まァ、それでもいい。ワタシはそろそろ失礼する。それでは花祭りを楽しんでくれ」
「あ、なんかほんとすみません、花華包ありがとうございます!」
私の声に軽く手を挙げて答えてくれるカリュウさんはそのまま人混みの奥に消えていった。
しばらくしてにわかに辺りが静かになる。コート山岳地帯の方の道から笛の音が聞こえてくる。人々は一旦やっていることをやめ、一様に大通りへと顔を向けていた。
段々と笛の音は近作り、顔を隠し、白色に赤い花の刺繍がされた服を来た女性たちがやってくる。彼女たちは踊ったり、楽器を持って音楽を奏でたりしている。そのうちのひとりが持っている鈴が『シャン』っとなり、一頭の白い龍が現れた。
「……無駄に派手な演出で出てくるだけある」
小声で皮肉を言うカイルを小突きつつも感動する。スベらかなその白い鱗はそこらじゅうに飾ってある光螢花の灯りを反射して、非常に幻想的だ。まるで彼らが進む場所は人間の居ない全く別の世界で、私たちは見てはいけない夜行をうっかり見てしまったと思うほどだ。
「言葉に出来ない光景ってこのことを言うのね。国を支える1柱、華のドラゴン。見にこれてよかった」
先程大量に購入した紙の一枚に魔力を込めて固定の術式書き込み、即席の魔法紙を作り、そこに目に映った光景をうつす。手元に補助の材料がないのでぼやけた絵面になってしまったがまァ、許容範囲だ。
「記憶固定の術式を用紙に付与してるのか紙を魔力で染めるのって、結構難しい筈なんだけどアッサリやるねー。流石ヒーナ」
横で一連の動作を見ていたカイルはそう言って華のドラゴンの行列が写された紙を私から取り上げる。指先でつんつんと紙を叩くとぼんやりとしていたその絵面がくっきりと、それこそ目に映ったままのはっきりとした絵になった。
「軽くこんなこと出来ちゃうボクはさしずめ天才と言ったところかな」
大変頭にくる表情で自画自賛しているが、やっていることは本当に凄いことなので何も言えない。
ぶっちゃけ、人が決して低くない魔力で染めた紙をあっさりと染め変えた挙句、独自の術式を勝手に解析し、より良い方に改ざんするという神業的なことをやりやがったのだ。術式を無理やり成立させる為に、使い方を変えれば山1つ消し飛ばせるほどの魔力を惜しげも無く使った。
そして大量の魔力を一度に使ったのにも関わらずピンピンしている。大抵の人、魔力量の多い貴族だってそれ程の量を一度に使えば貧血のような症状を起こす。私なら熱出して3日間ぐらいぶっ倒れる。
控えめに言うなら『アンタほんとに人間?』と真剣に問いかけるレベルのことをやり遂げたのだ。
「誠に遺憾だけれど、魔力量とその使用についてのセンスは流石としか言いようがないわ」
「だよね。ボクもそう思う。この美貌の上に、権力もある。さらに魔力の才能まであるなんてなんて恵まれているのだろう!!」
「ハイハイ、アンタは『天は二物を与えず』を体現した幸運男だよ」
「幸運……、そうだね。そうなんだよね。アッハッハッハッ」
これ以上ヤツの自画自賛には付き合ってられない。謙遜することなく頷く男から紙を受け取り、カバンにしまう。
「華のドラゴンも見れたことだし、宿屋に戻る」
「えー。危険だよ。ボクをさらった人がいるかもしれないのに」
「油断してないアンタなら何が来ても勝てるんでしょ? それともここで別れる? 私は一向に構わないわ。歓迎寄りのウェルカム。むしろ別れましょう!!」
この男と居ると迷子になったり、財布が空になったりとろくな事がない。このままでは私の豊かな失踪ライフが実演出来ない。私はこれから人里離れた民家を借りてスローライフなるものをする予定なのだ。そこにこんなトラブルメーカーな連れはいらない。
「わかった。じゃあ華のドラゴンの所に行こう」
「──私の話聞いてましたァ!?」
「聞いてたよ。宿屋に行くから別れるんでしょ、なら別の場所に行けばいい。カリュウには振られたけど彼には聞かなきゃ行けないことがあるからね。ちょうどいい」
「わァ、全然聞いてないや」
「よし、カリュウが戻る前に入って待ってよう。大丈夫前に来たことがあるから場所はわかる。任せて!」
「笑顔で違法侵入宣言しないでよ」
ボールをお互いの顔面に向かって投げるみたいなキャッチボールならぬドッチボールのような会話を経て、私は引きずられながらコート山岳地帯にあるらしい華のドラゴンの住処へと向かうことになった。




