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04 怖いけど頑張る!!


「痛い痛い痛い……怖い怖い怖い……パパ、ママ……助けて~~~」


 元の世界で受けた父親の暴力を思い出し、体を丸くして震えるヒロ。この世界の父と母に助けを求めるが、その声は届かない。

 近付く者も、キングネズミと、ただ一人……


「本当に痛いの?」

「痛い痛い痛い……」

「死ぬほど痛いの?」

「痛い痛い痛い……」

「血なんて出てないわよ?」

「な、内出血……」


 女の子の声を聞きながらヒロは震えていたが、血が出ていない事に気付いて少し冷静になる。


「まったく……わたしがついてないと、ホントヘタレね~」

「サイコ??」


 ようやく話し掛けていたサイコの顔を見たヒロ。


「どうする? そんなに怖かったら、逃げてもいいのよ?」

「いいのか!?」

「いいわよ。優しくて強いお父さんとお母さんに守られて、一生暮らしなさい」

「うん!」

「でもね……」


 嬉しそうに即答するヒロを見て、サイコは寂しそうな顔をする。


「親はいつか死ぬわ。ヒロはそれ以降も生き続けなくちゃいけないの」

「え……」

「それが自然の摂理よ。誰も(あらが)えないの」

「………」


 現実を聞かされて言葉を無くすヒロ。サイコはそんなヒロの鼻を優しく撫でる。


「ヒロはそのための準備をしなくちゃいけないの。強くなって、お父さんやお母さんに心配かけないようにしなくちゃいけないの。わかる?」

「……うん」

「じゃあ、やる事はひとつでしょ?」

「うん……」

「立ちなさい! ヒロ!!」

「うん!!」


 自信無さげに返事をしていたヒロであったが、サイコの声に応え、大きな声を出して立ち上がる。すると、サイコは頭にしがみついていたようで、定位置の頭にスタンバイした。


「乗ってていいのか?」

「ヒロが死んだらわたしも神界に戻れない。一蓮托生だからね。……さあ、来たわよ。一発、どデカイ攻撃をぶちかましてあげなさ~い!」

「おう!!」


 ヒロは両手を斜め45度に上げ、二本の尻尾を地面と平行にし、大きく息を吸う。


「我、絶対王者の血を引くヒロが命ずる……」


 ヒロが詠唱を始めると、両手、両尻尾、口に魔力が集まる。すると、五ヵ所に雷が発生し、徐々に発射口である口に集まった。

 その魔力の集約に気付いたキングネズミも詠唱を始め、口元に魔力の塊が作り上げられる。


「喰らえ~! チューーー!!」


 あとから魔法の詠唱を始めたのにも関わらず、先に魔法が完成したのはキングネズミ。巨大なエネルギー波が放たれた。


「……全てを焼き尽くせ、【極楽稲妻】」


 ヒロが遅れて放つは雷の詰まった球体。スピードも無く、フラフラと飛ぶ球体は、凄い速度のエネルギー波とぶつかった。

 その衝突を見ていたほとんどの者は、球体が押し負けると思っていたが、意外な事が起こる。


 エネルギー波は球体を避けるように放射状に散らばり、ヒロを避けた。その中を、球体はゆっくりと進み、徐々にスピードを上げ、キングネズミに向かう。


 ひょいっ。


 そして避けられた。


「あ……外れた……」

「馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの!!」


 スピードが上がったのだが、それでもキングネズミの動きのほうが速かったため、避けられた事に驚くヒロと、避けらると思っていた怒るサイコ。


「だって、強い攻撃をしろってサイコが言ったんだろ?」

「言ったけど、当たる攻撃をすると思うじゃない! 何よ、あのトロイま…ほう……」


 言い訳をするヒロの頭をポコポコしながら怒鳴るサイコは、声が小さくなる。


 球体がキングネズミを通り過ぎてすぐに、「ドコーーーン!!」と、破裂したと同時に円形に広がって、衝撃は空に向かったからだ。その衝撃は大きく、キングネズミも射程範囲だったので、左の手足を巻き込まれてしまった。

 その中は、まさに極楽。考える暇も時間もなく、巻き込まれた者は何も感じる事もなく天に召された……


「ぐが~~~!!」


 ヒロの攻撃を喰らったキングネズミは転がりながら、天に向かって立つ光の柱から離れる。


「な、なんちゅう攻撃をするねん!」


 ヒロの最強魔法を見たサイコは、驚きのあまり関西弁になる。


「サイコがデカイ攻撃しろって言ったんだろ~」


 自分がやった事なのに、ヒロは責任転嫁して愚痴る。その他の者は、空を見上げて声も出ないので割愛。


「これで実力の半分って……」


 さらに、サイコはヒロのとてつもないポテンシャルに驚いていたが、頭をプルプル振って気を取り直す。


「ま、まぁ結果オーライ! キングネズミがのたうち回っている内にやっちゃいな!!」

「あ、そうだな! いまなら勝てる!!」

「いやいやいやいや……」


 サイコはツッコんでいるが、ヒロはトドメに移行しよう走り出す。その頭に乗るサイコは、「普通にやっても余裕で勝てるだろ」と、ブツブツ言っている。



 光の柱が消え行く中、ヒロは転がっているキングネズミにサッカーボールキック。追い掛けてさらにキックキック。戦闘の素人なので、上手くダメージを与えられずに、転がしているだけだ。


「ちっがーう! 馬乗りになって、ボコボコ殴るのよ!!」

「お、おう……わかった!」


 見かねたサイコの的確な指示。ヒロはキングネズミの腹に飛び乗ってパンチパンチ。それでも足りないと、サイコは二本の尻尾も使えと言って、よっつのパンチで顔や胸を殴り続ける。

 これで終わり……と、ヒロは思ったのだが、そうは上手くいかない。


「この程度で……なめるな~!!」


 キングネズミの反撃だ。長い尻尾をヒロの首に巻き付け、体をのけぞらせたかと思ったら、そのまま持ち上げて、地面と直角に頭から落とす。


「ぐふっ」


 そして遠くに投げ捨てた。


「いたた……」

「そんなに効いてないでしょ? すぐに立ち上がる!!」

「お、おう!」


 サイコを心配するでなく、自分の心配をするヒロ。サイコは結界を張ってなんとか耐えたので、指示を出せたようだ。


「やっぱり持ってるわね……」


 キングネズミは【自己再生】を使って、失った手足を生やす。


「でも、かなり疲れるみたい」


 サイコの言う通り、傷が大きすぎてキングネズミは肩で息をしている。


「化け物……」

「ヒロだってできるんだから、怖がる必要はないわ。それより、まずは厄介な尻尾を引きちぎってあげなさい」

「う、うん……」

「あ、必要ないと思うけど、肉体強化魔法を使ったら? それでダメージを減らせるわよ」

「確かに!」


 いまさら思い出したヒロは、身体能力を跳ね上げて駆ける。すると、キングネズミは遠距離から長い尻尾で応戦。ムチのように振り、ヒロを近付けさせない。


「ガード! 顔だけ守ってジリジリ前進!!」


 顔にムチ打たれて涙目になったヒロに、すかさず指示を出すサイコ。ヒロも素直に従い、ゆっくりとキングネズミに近付く。


「どう? 痛くないでしょ?」

「痛い気がする……」

「気のせいよ。それより、スピードに慣れて来たら、尻尾を掴むのよ?」

「できるかな?」

「できる! 女神の予言は絶対よ!!」


 ヒロは「このちびっこが女神?」と思ったが、口に出している暇は無く、キングネズミの尻尾に集中する。

 すると、スキル【瞬間遅延】が発動し、キングネズミの尻尾の軌道が見え、楽々と両手で掴んだ。


「引きちぎれ~!!」

「うおおぉぉ!!」


 力いっぱい引っ張ったヒロは、キングネズミの尻尾を引きちぎる事に成功。


「いまよ! 再生される前にぶん殴れ!!」

「おう!!」


 ヒロは、痛みに視線を外したキングネズミに突撃。ジャンブし、振りかぶった拳を顔にぶつける。その攻撃で、キングネズミは地面に張り付けとなり、ヒロは両手、両尻尾で殴りまくる。


「剣……斬撃はないの? 爪でもなんでもいいから、切り裂け~!!」

「えっと……あった!」


 サイコの指示に、ヒロは尻尾を落としたあと、両手を広げる。


「【星十字爪(せいじゅうじそう)】!!」


 尻尾を引いて、両手を閉じると同時に十本の斬撃が飛び、地面に深い亀裂が入る。


「チュ、チューーー! 好き放題やりやがって~!!」


 ヒロの一瞬の隙。その瞬間に、キングネズミは息を吹き返す……


「お前は、もう、死んでいる……」


 そしてサイコの決め台詞。


「な、なんらほ~……はれ?」


 キングネズミは喋ろうとしたが、切り刻まれた顔が崩れ、疑問の声を残して息絶えるのであっ……


「なあ? こういう時って、倒した人が、決め台詞を言うんじゃないのか?」

「もう~。勝ったんだから、いいでしょ~」


 決め台詞を取られて、納得のいかないヒロの声を残して決着したのであった。





 キングネズミが死んだと知ったザコネズミは散り散りに山に逃げ帰り、町に戻ったヒロとサイコは住民の前に立つ。

 そこで町長が感謝の言葉を送り、宴をするからと、ヒロとサイコを誘って全員にネズミ肉が振る舞われる。ただし、キングネズミはサイコの指示で、ヒロの口に入る大きさに切り刻まれて、アイテムボックス行きとなっていた。

 サイコが「これを売れば大きな町で豪遊できる」と悪い顔で笑っていたので、町の者は助けてもらったけど、「こいつ本当に女神か?」と疑っていた。


 そうして町長の屋敷で一泊したヒロとサイコは、町の外で皆に見送られる。


「ヒロ様、サイコ様。町を救っていただき、有り難う御座いました」


 代表して町長が挨拶をし、深々と頭を下げる。


「いいのよ~。女神として、当然の事をしたまでよ~。オホホホ。もっと崇め奉(あがめたてまつ)りなさ~い。オホホホホホホ」


 サイコ、絶好調。高笑いが止まらない。


「だから俺が倒したんだろ? はぁ……」


 ヒロは頭の上で騒ぐサイコを揺すって落とそうとし、落ちかけたサイコは文句タラタラだった。


「それじゃあ、わたしたちは行くわね!」

「「「「「リスさんありがと~~~」」」」」


 手を振る子供たちに、二人も手を振って別れを告げ……


「そこは女神様でしょ!!」

「あはは。子供はわかってるな~」

「ちょ! 走るな~~~!!」


 ……て、うるさいサイコの言葉を無視してヒロは走り出したのであった。





 町から離れると、ヒロの頭の上でブーブー言っていたサイコも静かになり、ゴロンとしながらヒロに話し掛ける。


「そういえばさ、【すねかじり】のスキルレベルは下がったの?」

「それがさ~。あんだけ苦労したのに、いっこも下がってないんだ」

「えっ……それはおかしいわね。私が見てあげるわ。【女神の目】発動!!」


 【女神の目】……ヒロの持つ【鑑定眼】より遥か上位のスキルで、小さな虫歯すら見逃さないスキルだ。もちろん生き物のレベルからスキルレベルまで、事細かに見られる。


「プッ……0、5(げん)って、どゆこと?」

「0、5!? 1ずつ()って行くんじゃないのか!?」

「それだけ強力な呪いって事ね」

「呪い言うな! サイコが作ったスキルだろ!!」

「あはは。ネタで作ったスキルだから、設定ミスっていたかも??」

「お~い……ミス多すぎだろ? 女神のくせに……」

「多くないわよ! 普通、手に入らないスキルなんだからね。百年も親の元を離れないあんたが悪いのよ。このニート!!」

「あ~! 俺の言われたくないこと言った~。もう実家に帰ろっかな~??」


 サイコの辛辣な言葉に、ヒロは足を止めてしまう。


「またヘソ曲げて~。そんなので、千年後どうするのよ? 両親は死んじゃうのよ?」

「千年……??」

「あ、ヤベ……」


 サイコの失言。絶対王者となったツインテールシマリスの寿命は、サイコのミスでかなり長寿になっているのだ。


「そんなに生きるなら、もう五百年、パパとママに甘えよっと~」


 なので、ヒロは嬉しそうに、実家に向けて走り出すのであった。


「待って! 待って! ヒロにお父さんを倒してもらわないと、聖王も魔王も死んじゃうからやめて~~~!!」


 そう。ヒロには女神から与えられた使命がある。父親が不法占拠する場所に眠っている宝を奪いに来る、聖王と魔王を守ること。言わば、宝の守護者を適正レベルに落とすことだ。

 そのためには父親を倒し、力尽くで引っ越しをさせないといけないのだ。


 さあ、女神の願いを叶えるため、ヒロよ。親父越えをするのだ!


「じゃあ、四百年ぐらい……」

「急いでるんだって~~~!!」


 こうしてヒロは、サイコに泣き付かれ、次なる強敵と戦わされるのであったとさ。


 この作品は読み切り用に書いた作品ですが、人気があるならちゃんとした版を書く予定です。

 ですので、気になる方は評価等していただけると有難いです。


 宜しくお願いいたします。

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