03 ネズミの大群怖い
結界効果のある御札が町に張られる中、ヒロとサイコが腹に物を詰めていると、外壁の上に立つ者が騒がしくなる。
伝説級、十二支のキングネズミが攻めて来たのだ。「ドドドド」と轟く音に気付いた町の者は、押し寄せる巨大なネズミの大群に恐怖する。
「来たみたいね」
町の者とは違い、サイコは悪い顔をする。
「なっ……一匹じゃないのか!?」
サイコとは違い、ヒロは町の者と同じく恐怖する。
「ザコよ。ザコ。ゴブリンと変わらないんだから、さっさと行きなさ~い!」
ヒロがなかなか門に向かおうとしないのでサイコは後ろから押すが、まったく動かない。なので、町の子供を呼び寄せて、説得させていた。
ここはヨハンに任せ、サイコはダッシュで外壁を駆け上がり、町長の隣に立つ。
その時……
『チューーー! 貢ぎ物は用意できたか~!!』
5メートルを超える化け物ネズミ、キングネズミの声が大音量で響き渡った。その声に、町長は拡声器を持って返答する。
『ん、んん~。ネズミ様、実は……な、何をする! 返せ……』
町長の声が小さくなる中、幼女の甲高い声が聞こえる。
『あんたに払う酒なんてないわよ!』
サイコだ。サイコが拡声器を奪って勝手に叫んだ。
『なんだと~~~!!』
『それと、お前はもうすぐ死ぬ!』
『ふ、ふざけやがって……』
『我が下僕ヒロよ。やっておしまい! ……あれ??』
調子に乗って煽っていたサイコだが、ようやくヒロがまだ外に出ていない事に気付いたようだ。
『お前たち……あのガキを俺の前に引きずって来~~~い!!』
「「「「「チューーー!」」」」」
キングネズミの命令に、ザコネズミは敬礼して一斉に走り出した。その数、三千……ザコと言っても体長は1メートルを超える大きさなので、辺境の町など簡単に踏み潰されてしまうだろう。
「ちょっとヒロ! 早く出なさ~い!!」
サイコが叫んだ瞬間、大きな影がサイコを通り過ぎ、外壁の外で「ズシン」と音が鳴った。
「いや~。町の人が危険だからって、門を開けてくれなかったんだ」
ヒロだ。ヒロが外壁を飛び越え、颯爽と登場したのだ。
「わかったから後ろ後ろ! 来てるわよ!!」
「う、うわ~~~!!」
いや……。颯爽と登場したのだが、サイコに言われて振り向いたら、情けない声を出した。
「……ん? あのデカイの、俺とキャラ被ってね?」
「同じ齧歯類なんだから当然でしょ! だからさっさとやっつけなさ~い!!」
「あ、ああ。それじゃあ、灼熱……」
「待った!!」
暢気な声で自身の最強ブレスを吐こうとしたヒロであったが、サイコに止められてしまった。
「ぜったいこっちに向けないでよ! あんたの攻撃なんて喰らったら、一発で結界が消し飛ぶんだからね!!」
「じゃあ、どうやって……」
「大きな魔法は使わないこと! わかった!?」
「え……それじゃあ怪我をしてしまう……」
「あんたなら大丈夫よ! ちなみに、さっきからザコに噛まれてるわよ?」
「へ?? ぎゃ~~~!!」
痛くもないくせに、大げさに騒ぐヒロ。サイコと喋っている間もザコネズは押し寄せ、大群でヒロをカリカリしていたから驚いたようだ。
なので、慌てて二本の尻尾を振り回す。ぶっとい尻尾を喰らったザコネズミは簡単に吹き飛び、仲間のザコネズミにぶつかって沈黙する。
その攻撃だけで、ヒロから半径5メートルの範囲は、きれいさっぱりザコネズミは居なくなった。
「や、やった……」
「まだまだ居るんだからサボッてんじゃないわよ! 次は10時の方向に【爆炎】よ!!」
「お、おう……【爆炎】!!」
ヒロが放つは大きな炎の玉。口から吐き出した炎の玉は、ザコネズミを消し炭にしながら一直線に進み、地面と接触すると半円状に爆発。ザコネズミを多数巻き込んで吹き飛ばした。
「やった! 次は……」
サイコの指示を受けた移動式大砲となったヒロによって、ザコネズミの大群は炭と化す。そうしてザコネズミの数が半分を切った頃、キングネズミが動いた。
『そいつは俺がヤル! お前たちは町を襲え~~~!!』
ヒロを避けて進むザコネズミ。ヒロも追い掛けようとしたが、サイコから指示が飛ぶ。
『こっちはいいわ! 先にボスをやっちゃって!』
「で、でも……」
ヒロは町を心配して足が出な……
「あいつ俺よりデカイし、強そう……」
いや、キングネズミの姿にビビッて足が出ない。
『あんたがやらなきゃ子供たちが死ぬのよ! それでいいの!?』
「い、嫌だ!」
『じゃあやりなさい! 12時の方向にダッシュ~~~!!』
「う、うおおぉぉ!!」
子供たちをサイコに人質に取られたヒロは、雄叫びをあげてキングネズミに突っ込むのであった。
そのヒロの後ろ姿を見送ったサイコは、小さく呟く。
「まったく……世話のかかるやっちゃ」
そして大きな声で叫ぶ。
『こっちも応戦よ! あんたたち、武器を取りなさい!!』
「「「「「おおおお!!」」」」」
町に張られた結界に弾かれるザコネズミを見ていた兵士たちは、これなら勝てると感じ、サイコの命令に応えるのであった。
ただし、見せ場を取られた町長は複雑な思いを抱いていたのは言うまでもない。
町に群がる巨大ザコネズミはサイコの張った結界に弾かれ、そこに町の兵士、男や女、年寄りまで加わって、弓矢や石、投擲武器になり得る物が降り注ぐ。
町の住人の総力戦のおかげで、着実にザコネズミの数が減っていく……。
そんな中、巨大リスのヒロは四つ足で駆け、自身の倍以上あるキングネズミに突っ込む。
キングネズミは二本足で立ち上がり、ヒロを睨み付けながら、長い長い尻尾を地面に叩き付けて叫ぶ。
「よくも我輩のかわいい同胞を殺しまくってくれたな! この罪は、貴様の命で払ってもらう。覚悟し……ヂューーー!」
残念。キングネズミの名文句は、終わり際にヒロの頭突きを喰らって止められた。
目をつぶって走っていたヒロは、キングネズミの名文句を聞く気がなく、ただただ真っ直ぐ走っただけ。ただし、ヒロの走る速度はこの世界のトップクラスなので衝撃は大きく、キングネズミは体をクの字に折って飛んで行った。
「つつつ……」
大質量の物体にぶつかったヒロは、足を滑らして、ゴロゴロと転がってから止まる。そして立ち上がって周りを見渡すと、遠くに仰向けに倒れるキングネズミが目に入った。
「や……やった~!」
浮かれるヒロは、もう勝った気でいる。もちろんキングネズミは生きている。ヒロが視線を外して喜んでいる隙に、立ち上がって走り出した。
「まだ我輩が喋っていただろう!」
そして怒りのビンタ。
「ぐほっ」
顔を殴られたヒロは回転しながら吹っ飛び、遠くの岩にぶつかって止まった。
「なんだ、この程度で吹っ飛ぶなんて……まぁまだ生きてるだろう。存分にいたぶって、同胞の恨みを晴らしてやる! チューーー!!」
キングネズミは気合いを入れて、のしのしと歩くのであった。
その頃ヒロは……
「痛い痛い痛い……怖い怖い怖い……パパ、ママ……助けて~~~」
元の世界で受けた父親の暴力を思い出して戦意喪失。キングネズミが近付いているのにもかかわらず、体を丸くして震え続けるのであった。
『アイムキャット❕❕❓』
好評……かどうかわかりませんが、連載中!!




