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02 町を救ってくれと言われたけど乗り気でない


「いったい二人は何者で、どういう関係なのですか?」

「言いたくない!」

「こいつはね~」


 ヨハンの質問に、ヒロは拒否するが、サイコはペラペラ喋る。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 サイコの喋る内容とは少し違うが、ヒロとサイコの関係を整理しておこう。


 それはヒロの前に女神と名乗る女性が現れた事から始まった……


 ヒロは元々この世界の住人ではない。異世界、日本に住む中学生だった。

 しかしその生活は過酷で、生まれてすぐに親の愛情は受けられず、ネグレクト、ドメスティックバイオレンス、盗みの強要……

 常に体のどこかに痛みがあり、常に空腹を感じて生きていた。


 そんな生活を送っていた十二歳のある日のこと、いつものように父親に言われて万引きをしていたヒロは、店員に捕まり、だんまりを貫いていたら警察に連行された。

 警察に連行されたヒロは親の名を出すなと言われていたので口を閉ざしていたが、そこで優しく接してくれた婦警さんに全てを話すと生活は一変。父親は逮捕され、ヒロは児童養護施設に入所する事となった。


 そこは痛みも空腹も無い世界。最初は警戒していたヒロも、職員の温かさに触れ、温かい食事に腹を満たされ、初めての幸福に浸っていた。

 その時、同じ境遇の子供がこんなにも多く居ると知ったヒロは、職員のように、年長のお兄さんやお姉さんのように、年下の子供には優しく接しようと心に誓った。


 しかしその幸福は、長くは続かなかった。


 14歳の誕生日に、父親が現れたのだ。


 ヒロは父親の顔を見て恐怖に震え、声も出せずに車に乗せられてしまった。その行き先は、父親の借金先。男たちに囲まれたヒロは、父親の借金の(かた)に体を切り売りされ、最後には心臓までも……


 無惨にも殺されたヒロは、暗闇の中で声を聞いた。


『次の世では何を願う』


 ヒロはわけもわからず、こう願った。


「頼れる優しい両親の元に生まれたい」


 その願いは聞き届けられて……


『え? それだけ? もうちょっと具体的に言ってくれないかな??』


 声の主は思っていた答えと違ったらしく、いくつか質問するが、ヒロはそれ以外の答えはせずに、新しい体に魂が宿る事となった。


「確かに頼れる優しい両親って言ったけど、リスはないだろ~~~!!」


 そして生まれてすぐに後悔した。


 それから百年、リス夫婦に守られてぬくぬくと育ったヒロの前に、女神と名乗る美しい女が菓子折りを持って現れた。


『絶対王者よ。その大樹の元に居られては、こちらとしては都合が悪いのだ。引越ししてくれないか? 頼む』


 女神は、ヒロの父親に住み処を退去してくれるように頼んだが、父親は聞く耳持たず。


 食べた。


 当然、ヒロはその現場を目撃して驚いていたが、女神がそんな簡単に食べられるわけないかと思い、偽者と割り切って眠りに就いた。

 だがその深夜、女の子のすすり泣く声が聞こえて起きたヒロは、恐る恐る家族のトイレに向かう。そこでは、汚物まみれの幼女がしくしくと悲しそうに泣いていた。


「わたしは女神なのに~……うんことして出された~……え~ん」


 さすがにそんな状況を見たヒロは……そおっと逃げた。関わり合いたくなかったようだ。


「見~~~た~~~な~~~」


 しかし声を掛けずに逃げようとしたヒロは、凄い形相で走る幼女に捕まった。いちおう汚いと言って振り払おうとしたが、大泣きする幼女、サイコに負けて事情を聞く事となった。


「つまり、わたしが女神なのよ! てか、あんた、わたしが転生させてやったんだから、力を取り戻す協力しなさ~い!!」


 どうやらサイコは、リス父親の持つスキル【馬鹿食い】で、女神の力をほぼ吸い取られてしまったらしい。父親の能力を熟知しているヒロは、五体満足で生き残って出涸らしとなった幼女を、女神だと信用した。

 しかし協力はする気がまったく無いので断ったのだが……


「あんた、人間になりたくない? わたしの力が戻ったら、ハーレムとか作らせてあげるわよ?」


 女神らしからぬ悪い顔で協力を求めるサイコに、ヒロはもちろん……断った。


「待って! 待ってよ! 人間になれば、美味しい物だっていっぱい食べれるのよ! ケーキにすき焼き、食べたいでしょ??」


 ランクの落ちた説得に、ヒロはもちろん……揺らいだ。不遇な暮らしをしていたヒロには、女よりも食い気が勝ったのだ。

 それからすったもんだあって、両親を説得したヒロとサイコは大樹の森を旅立ったのであった。


 そこからは魔物に出会っては逃げ回り、滅多に戦わないまま人の住む領域まで走り抜けたヒロとサイコは、様々な人と出会いながら旅を続けている。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「えっと……だから?」


 ヒロが転生者という事とサイコがうんこになった事を省いて二人の馴れ初めを聞いたヨハンは、納得がいかないので質問した。


「だからヒロに任せれば、キングネズミなんて簡単に蹴散らせるって話よ!」

「ほんとに??」


 先ほどの話の中に、ヒロの強さが含まれていなかったので、やはり納得がいかないヨハン。


「無理に決まってるだろ! 伝説級なんて、親父以外見た事が……ない」


 さらに拒否するヒロ。だが、そんなヒロに噛み付くサイコ。


「大樹の森にはS級がゴロゴロいるのに簡単に抜けたんだから、ヒロなら大丈夫よ! それにヒロの父親は、この世界に存在しないはずの神級よ。弱いわけが無いって、何回言わせるのよ!」


 神級……女神のおふざけで作ったクラス。この世界で最弱、進化するまでレベルアップ不可能の魔物に与えられた権利。そもそもリスは魔物設定してあるが、女神の目の保養に作られただけの魔物で、初期設定がスライムより十倍も弱いのだ。

 なのに、ヒロの父親はその苦難を乗り越え、ツインテールシマリスに進化し、サイコは喜んだのだが、しばらく見ていなかったら大慌て。世界のバランスを崩してしまい、慌てて止めに行ったのだが、返り討ちにされたのだ。


「でもな~」


 ヒロも神級に進化したのに戦う事に消極的なので、サイコは説得する。


「【すねかじり】という称号で本来の実力は無いけど、それでも伝説級の力はあるんだから、十二支で最弱のキングネズミぐらい余裕よ! それにヒロには、【生前贈与】があるじゃない? スキルも多才なんだから、勝てないわけがないじゃない!」


 【すねかじり】……親に守られて百年ぬくぬく暮らしている者に贈られる称号。本来の実力より、ワンランク下のクラスになってしまう。

 【生前贈与】……親の持つスキルの下位互換を覚えられるスキル。【アイテムボックス】も、父親の【無制限収納】というぶっ壊れスキルの下位互換で、入れられる大きさが口の大きさに限られている。

 ちなみにヒロは曖昧な転生条件だったため、悩んだサイコから【相続】というスキルが与えられ、父親が死んだ場合は全てのスキルを無条件で受け継ぐ事となっている。



 二人の言い合いを黙って聞いていたヨハンは、目を輝かせてヒロに詰め寄る。


「お願いします! 父を……町のみんなを助けてください!!」


 子供からのお願いに弱いヒロは、戦いたくはないのだが、渋々了承するのであっ……


「この女神様に任せておきなさい!!」

「それ、俺のセリフ……」


 見せ場を取られたヒロは、またしてもサイコと喧嘩するのであったとさ。



 今日はもう日暮れ間近という事で、ここで夜営。魔物は明日の昼に来ると聞いたから、無理して夜に移動する必要がないからだ。

 ヒロは【夜目】というスキルを持っているから関係ないので、サイコにブーブー言われていたが、無視して眠っていた。

 ただし、ヨハンはゴブリンの襲撃があったからか、ヒロのつけた焚き火を眺めて寝ずの番をするようだ。


 馬車の回りをウロウロしていたサイコは、そんなヨハンに気付いて声を掛ける。


「あれ? 何してるの?」

「また魔物が出るかもしれないから、見張りをしています」

「あ~……結界を張ったから、君も寝ていいわよ」

「結界ですか?」

「フフン。これよ!」


 サイコはヨハンに、自慢するように御札を見せる。


「読めないです」

「これは神界文字よ。人間には読めないし、書く事もできないのよ~。これを四隅に置いたから、伝説級の魔物でも、一度の攻撃を防いでくれるわ。下級の魔物は絶対に破れないから安心しなさい!」


 胸を張るサイコに、ヨハンは悩む。


「……本当ですか?」


 どうやら神界文字は、ヨハンにはぐちゃぐちゃに見えて信用できないようだ。


「なんで信じてくれないのよ~! ……まさか、まだ私が女神だと信じてないの!?」

「えっと……」

「もういいわよ! 力が戻ったら、七代(たた)ってやるからね! おやすみ!!」


 サイコはそれだけ言うとぷりぷりしながらヒロの腹に埋もれて、すぐに「スピー」と眠ってしまった。


 残されたヨハンはと言うと……


「女神っていうより、邪神なのでは?」


 七代祟ると言われて、サイコを邪神認定するのであった。





 翌朝……


 ヨハンが心配した夜の襲撃は無く、無事、朝を向かえる。

 子供たちが目覚めると、引っくり返って寝ているヒロの腹に飛び込み、ポヨンポヨンと跳ねて楽しそうにしていたが、そこで寝ていたサイコまで宙を舞ってしまい、怒らせていた。

 それでも寝ているヒロに、サイコは八つ当たりでヒゲを引っ張って起こしていた。


 目覚めたヒロに、子供たちがお腹すいたとすり寄り、昨日と同じメニューで腹を満たす。


 朝食が終わると、さっそく出発。


「俺は馬じゃないんだけど……」

「はいよ~。シルバー!」

「俺の名前はヒロなんだけど……」


 ゴブリンの襲撃で馬は逃げてしまっていたので、馬車はヒロが引くしかない。なのでヒロに縄を巻いたのだが、御者台に座るサイコにブツブツと言っていた。


「お尻が痛い……」


 何故かサイコもブツブツ言い出し、ヒロの背中に移っていた。馬車よりヒロのほうが、よっぽど乗り心地がいいのだろう。

 そうして馬より速く走るヒロは、お昼よりかなり前に町へと到着するのであった。



「魔物が攻めて来たぞ~~~!!」


 当然、巨大なリスを見た町の者は騒ぎ出し、弓を構えて応戦しようとするが、御者台で必死に叫ぶヨハンの姿を見て思い留まる。

 ヒロは止まろうかと悩んだが、ヨハンに言われるままに町の門に、馬車を横付けして止まった。


「ヨハン! どうして戻って来たんだ!!」

「お父さん……」


 騒ぎを聞き付けた町長は、馬から飛び降りてヨハンに走り寄る。そこでヨハンから事情を聞いた町長は、縄をほどいているヒロの元へとやって来た。


「息子を助けてくれて、有り難う御座います」


 深々と頭を下げる町長に、ヒロは頭を掻きながら答え……


「女神として、当然の事をしたまでよ~。七代わたしを崇め奉(あがめたてまつ)りなさ~い」


 いや、サイコがしゃしゃり出て、セリフは取られた。


「女神??」

「ちょっと事故にあって、力を失ったのよ。でも、わたしの下僕があなた達を助けてあげるわ!」

「いつから俺はサイコの下僕になったんだよ!」


 それから二人は喧嘩を始めるが、ここで話すのもなんだからと町の中へ通される事で、喧嘩は止められていた。


「ま、話はヨハンから聞いてるから大丈夫よ。ヒロ、例の物出して」

「……例の物って?」

「御札よ。御札! それで町を守るんだから、わかるでしょ!!」

「いや、言ってくれないと……」

「がるるぅぅ!!」


 サイコの剣幕に負けて、素直に口に手を突っ込むヒロ。紙の束を口から出すと、サイコに手渡す。


「この町の規模なら……20枚でいいかしら? はい、これを外壁に、等間隔に張りなさい」

「これは?」

「結界が張れる御札よ。時間が無いんでしょ? 急ぎなさい! がるるぅぅ!!」


 幼女のサイコに噛まれかけた町長は、わけもわからず兵士を使って御札を張らせるのであった。


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