ドクダミ
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6月8日。雨。
雨の日は憂鬱だ。
まず靴が汚れる。歩くたびに靴に雨水が染み込み、靴下を濡らす。
そして、あの日を思い出させる。
だからいつも不機嫌だった。君に会うまでは。
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しとしとと雨が降る。梅雨の時期だから仕方ないとしても、薄暗く灰色の空は見上げているだけで気分が滅入る。
こんな日には部屋に籠って好きな読書に勤しみたいところだが残念ながら本日は平日、そして俺は学生だ。もちろん登校日。
行きたくない、めんどくさい。つまらない。学校の愚痴は尽きることがないが、ぶちぶち文句を言っていても仕方ないのでゆるゆると支度をする。
ふと時計を見ると、長い分針が7を指していた。8時35分。遅刻である。
「やべっ!」
急いで家を飛び出す。
疲れ切って生気の感じられない顔しているサラリーマンやOLの間を風を切って走った。
途中同じ制服を着た女を見た気がしたが、かなり明るめの色だったしどうせ不良だろう。
不良は嫌いだ。俺は絶対あんな社会のゴミにはならないぞ。
ふわりと、ドクダミの苦い香りが鼻腔を撫ぜた。
キーンコーンカーンコーン
放課後のチャイムがなる。
今日もまったく代わり映えのしない一日だった。
いつものように授業を受け、休み時間はいつものように隅っこで仲間と喋り、そしていつものように
「おい、今日もあそこ来いよ」
…呼び出される。
「今日はこれくらいにすっか」
さんざん憂さ晴らしのために俺を殴っといてなんだその態度は。
不良たちは気持ちが晴れたのか、はたまた飽きたのか知らんがぼろ雑巾のようになっている俺には一瞥もくれず
帰りにゲーセンだのなんだのと話しながら去っていく。
俺は黒木おにひこ。
前述の通り不良にいびられるような根暗男子だ。
最初に述べた読書というのも、つまりそう。漫画。(活字も読むけどね!)
いわゆるオタク、カースト最下層。
世間では変な目でみられるがやはり漫画やアニメは俺の生きがいなので辞める気はない。
「いてて…」
今日はさほど痛めつけられることはなかった。
雨の日は連中も濡れるのは嫌なのか、晴の日よりも早々に切り上げられるのだ。
俺だけが制服を泥で濡らし、口を血で濡らしぼろぼろだ。
身体の痛みに顔を歪めながらなんとか立ち上がり制服の汚れをできるだけ落とす。
ふと視界が歪む。
惨めにも思うのだ。やり返せない自分の情けなさに、無力さに憤りたくなる時もある。
それでも俺にはそんな力もないので出来るだけ争いを避け、物事には見て見ぬふりをし目立たないよう生きていくしかない。
漏れそうになった嗚咽は、幸い雨音がかき消してくれた。
「ふぅ…」
気持ちが落ち着いたところでいつも通りの行動をする。
俺は不良どもにいびられたときはいつも人気のないこの公園のベンチで暗くなるまで本を読む。
まだ明るいときに行動すると周りの通行人の目が痛い。
それに、俺としても物語の世界に没頭し気持ちを切り替えたくもある。
塗れないよう屋根のついたベンチに座り鞄から文庫本を取り出す。
これから現実から全力で目を逸らし、ひたすら活字だけを追っていく。
通常ならわざわざ本を読んでるような人に声をかけるものもいない。
誰にも邪魔されることなく俺は
「なんで君そんな汚いの?」
おい誰だ今邪魔したの