第七・五話 それぞれの今日
おまけ的なものです。それぞれの視点からの今日を書きました。
ベットに仰向けになり天井を見つめる。
不思議な一日だった。
未だにどうして市坂哲也という少年を拾おうと思ったのかを、自分でもよく理解していなかった。
出会いは突然だった。何かの前兆があったわけでもなかった。
彼が転生者であるというのは、なんとなくわかった。
そしてそれは確かだった。
転生者は狙われる。自分の場所を見つけられないうちにどこかに捕まって、悪事に加担させられていたという話は過去にもあった。
それに、力が不十分なうちに死んでいくものもいた。
だから、私が哲也を拾えば、哲也は護られると思った。
けれど。
私が市坂哲也を拾ったのは、それだけじゃなかった。
何かがあったのだ。
それは言葉にできない。
言葉にできない何かを、あの少年は持っていた。
あの少年は何かを変えてくれる。
私の何かを、変えてくれる。
確信なんてない、ただの勘。
ただ生きているだけで退屈していた私に、哲也は何かを与えてくれる気がする。
「哲也に会うために……今まで生きてきたなんて言ったら、絶対笑われるな」
心のどこかでそう思ってしまうほど、今日の出来事は私に意味を持たせてくれた。
さらには、哲也と生きることが私の生きる理由ではないかとすら思ってしまっている。
そんな自分が……不思議と嫌いではなかった。
「ひとまずは……明日から、だな」
私が哲也に出会ったこと。
それが大きな意味を持つのだとしたら。
哲也を失うわけにはいかない。
哲也を死なせるわけにはいかない。
明日から、哲也を死なせない為の訓練をする。
私の当面の目標は、哲也を失わないこと。
きっと哲也は、その先にある景色を見させてくれるはずだから。
「――おやすみ、哲也」
明日からの希望を胸に抱いて、私は眠りについた。
――――――――――――
いつ振りの転生者だったのだろうか。
前に来た人は……私から逃げたか、すぐに死んだかしたお陰で、私の仕事は極端に減っていた。
生きていく分には問題ないものの、監視する対象がいないというのも暇で暇でしかたがない。
その分、市坂哲也という少年は面白そうで良かった。
話し相手としても面白かったし。
明日からは退屈しなくていい。
「でも……ちょっと……イレギュラーかな……」
一つだけ、他の転生者と違っていたことがある。
それは、私――アヤメサクラの力でも、市坂哲也に与えられた『哲学礼装』の能力がわからなかったことだ。
あの時は適当言って誤魔化したものの、本当のところは私だって理解していない。
本来、転生者に与えられる能力や武器の詳細は、転生者の情報と共にこちらに渡される。
ところが、市坂哲也に関してはそれがなかった。本人の情報も少なく彼が持った願いの詳細さえも、私は知らない。
さらには、市坂哲也本人が願いの内容を覚えていなかった。
神様に聞いたって、何も答えてくれなかった。
一つだけ教えてくれたのは、市坂哲也がこの世界の自分について感じるであろう疑問とその回答。
彼を問いただし答えを煽ると、神様が言っていた疑問と同じ内容を言った。
それに私は用意されていた回答を言った。
彼は驚いた顔をしていたが、私にとっては彼が当然のようにその疑問を口にしたことのほうが驚きであった。
――市坂哲也は、何かが違う。
神の使徒たるこの私がわからないものを市坂哲也は持っている。
それは、危険視するべきだろうか。
未知数の力というものほど恐ろしいものはない。
とてつもない力を『哲学礼装』が秘めていたとして、それを使う目的によって、救世主にも破壊者にもなれる。
市坂哲也がどちら側の人間であるかは、まだわかっていない。
けれど、市坂哲也は禊陽子に拾われた。
禊陽子であれば、彼を全うな道に歩ませることが出来るであろう。
転生者はこの世界の繁栄の為に呼ばれるのだから、そうであってもらわなければ困る。
「まぁ……長い眼で見るとしましょう」
そうして私は意識を切り、眠りにつく。
明日から始まるであろう仕事に、胸を躍らせながら。
――――――――――――
「ここが……次の世界」
私たちは、誰もいない夜の森に居た。
「あいかわらず……急だな」
隣に立つ少年が言う。
「そうね……何も告げられてないものね……」
「まぁ……やることはいつもと同じなんだけどな」
「まずはこの世界を知ること、だよね」
「あぁ。この世界のことを調べてから、俺達の探し物を見つけに行こう」
「そうだね……。じゃあ、早速行こうか」
「あぁ、いこう」
隣に立つ恋人と手を繋ぎ、私たちは、私たちがこの世界で成すべき事に向けて、歩き出した。
最後の二人組みの出番は、めちゃくちゃ後です。場合によっては出ないかもです。でも書きたかったので書きました。悔いはない。