第七話 邂逅Ⅴ
続きです。読んでいただけたら幸いです。もうストックないです。頑張ります。
一階に着くと、既に座っていた陽子が手を振ってくる。
陽子と同じテーブルにつくと、ビスタさんが料理を運んでくる。
置かれた皿の中には、角切りにされた何かと、一口サイズに切られた何かの肉を煮込んだスープが入っていた。
それと、おそらくパンも、端のほうに置かれる。
「どこから来たのかは聞いてねえけど……口に合わなかったら言いな」
「……わかりました」
料理を置いたビスタさんが言う。
「「いただきます」」
陽子と二人で手を合わせ、いただきますを言う。
置いてあったスプーンを手に、ひとまず、スープを口に運ぶ。
「………………うまい」
それは、自然に口に合う味だった。
トマトの酸味のようなものと、煮込まれた野菜の味が染み出したスープだ。
「うまいだろ、哲也。ビスタの飯は、ここいらだと一番だからな。もしも口に合わなかったら無理やりにでも食わせようと思ってたんだが……うまいって言って貰えて良かったよ」
「作ったあたしも嬉しいね。やっぱり、食べてくれた人がうまいって言ってくれるのが、料理する人の生きがいだからね。じゃあ、他のも持ってくるから待ってな」
そういうとビスタさんは奥へ下がる。
陽子は性格通り、ビスタさんの料理にがっついている。
丁寧に食べるとかそういうのは、やっぱりないらしい。
俺も陽子をまねて、肉を口いっぱい頬張る。
少し硬い肉だったが、噛めば噛むほど肉汁が出て旨みを広げる。
時間をかけて飲み込み、次は角切りのものを口に運ぶ。
食べた瞬間芋だとわかる。
これは……うん……ほぼジャガイモと同じだな。
甘みは……少し抑え目かな。スープの酸味の方が勝っている感じ。
陽子がスープを平らげ、パンに手をつける。
今までそれの存在を忘れていたのに気付き、俺もパンを手に取る。
手にとってわかる。硬いパンだこれ……。
気にせずパンに頬張りつく。噛んだ瞬間、バリッという音がする。
味は……塩。フランスパンより硬いかな……うまいけど。
その後も味わいながら食べ進めていくと、ディーンがサラダを持ってくる。
「これ、追加でーす。あら、哲也。あまり進まないようだったら、私があーん、してあげようか?」
「いらない。余計なお世話だ」
「そう。必要になったらいつでも言ってね」
そういって、いたずらな笑みを浮かべ去っていくディーン。
まだ懲りてないのかディーンのやつ……。
「なあ陽子」
「ん?なんだ?」
一旦スプーンを止め、陽子に話しかける。
「ディーンって、もともとああいう性格なのか?人懐っこいというか、図々しいというか……」
「あー、あれはな……ここの店って、新人は来ないからな。若い奴らが来ねえんだ。だから、お前みたいな歳の近い奴は珍しいんだ。久々に歳の近いお前と話せて嬉しいから、テンションあがってるんじゃないのか」
「そういうこと……ね」
それにしても、いきなりお姉さんって呼ばせようとしたり、あーんしてあげるとか言い出すのはどうかと思うぞ……。
そうして、俺は出された食事を平らげた。
「「ごちそうさまでした」」
すこし硬いものもあったけど、全部美味しかったし、口に合わないものなんてなかった。
期待半分不安半分だった異世界の食事も、いい方に転んだ。
これから生きていく分には問題ない。
「ところで、陽子もいただきますとかごちそうさまとかいうんだな」
「まあ……私のご先祖様が哲也と同じ世界から来た転生者だからじゃないか。大昔に転生者によって栄えた村なんかでは、転生者がやってた挨拶とか癖とかを真似しているところもあるくらいだからな。……私も母親から覚えこまされたよ」
ふと、その顔に影を落とす陽子。
「……そっか」
その理由に追求することはせず、相槌のみをうつ。
「飯は食ったけど……これからどうするんだ?」
「そうだな……後は風呂に入って寝るだけだな……」
「その風呂ってのはどこに?」
「そこの厨房を突っ切っていけばある。入るときには必ずビスタかディーンに言うこと。一応、左の扉が男湯で、右が女湯だ。間違えて入ったら殺されるからな、気をつけろよ」
「わかった、気をつける。左に入ればいいんだな」
「そうだ。あと、風呂場にあるものは自由に使っていいからな」
「ありがとう」
後で、本当の事かどうかディーンに聞いておこう。
「もう入りに行くか?」
「いや、少し部屋で休んでから行くよ」
「そうか。なら、先入ってるぞ」
それから食器を下げて、二階の自室となった部屋へ。
当然のことだが、部屋には俺の荷物くらいしかない。
後は備え付けのベットと机のみ。
部屋の広さが何畳とか……そういうのはわからないが、空きスペースに布団一枚敷ける程度の広さはある。そう考えてみるとかなり広いのか?
ひとまず、ベットに横たわる。
「………………」
快適だった。
適度な柔らかさで、気を抜くと眠ってしまいそうになる。
ゆっくり今日のことを思い返していこうと考えていたが……これでは駄目だ。
俺は、荷物から陽子が買ってくれた着替えを取り出して風呂場へ向かう。
その途中、ディーンを探して声をかける。
「なあディーン、風呂場ってここを真っ直ぐか?」
「そうよ、そこを真っ直ぐ行って左よ。くれぐれも、右の扉に入らないようにね」
「わかったよ。ありがとう、ディーン」
陽子が嘘をついていないことを確認して、風呂場に向かった。
たとえ世界が違うとしても、暖かいお湯に浸かって体を休めることは、人間にとって至福の瞬間である。
風呂から上がり、ディーンに水を一杯貰い、それを飲んでから自室へ向かう。
自室に戻ると、扉の前に陽子がいた。
どうかしたかと問いかけると、ちょいちょいっ、と手招きして陽子の部屋に入っていく。
誘導されるままに陽子の部屋に入る。
部屋の中は必要なものだけが置かれているようで、なんというか普通だった。
陽子はベットに座ると、俺に自分の隣に座るよう指差す。
ベットに腰掛けると、陽子は話し始めた。
「私は今日、お前に出会った。そして、お前を拾った。私はこれから、お前を一人で生きていける人間にする義務が出来た。そしてお前は、人生を預けた私についてくる義務が出来た。お前も、そういう認識だよな?」
唐突な問いかけに戸惑うも、確かな意思を持って頷く。
「あぁ、間違っていない。俺は陽子に拾われた。陽子が俺を育ててくれるというのなら、俺はそれに応える義務がある。陽子がやれっていったことは、なんだってやるつもりだ」
俺がそういうと、陽子は遠くを見て、笑った。
「そうか……なら」
陽子は立ち上がる。
「明日から、お前がこの世界で生きていけるように訓練をする。午前中は剣術を、午後は私についてきて依頼をこなす。これからは基本この生活だ。鍛えるのに躊躇はしない。たとえ血反吐を吐いても私についてきてもらう。覚悟はできているな、哲也」
まっすぐな目が俺を見ている。
陽子は本気だ。
俺も、本気だ。
「覚悟なら当にできている。どんなことがあっても、陽子についていく」
俺も、真っ直ぐな眼で陽子を見る。
心に抱いた決意は本物だ。
それを裏切ることは、何があってもできない。
陽子は、そんな俺を見て、僅かに微笑んだ。
「そうか。なら、大丈夫だ。今日はもう寝ろ。朝になったら起こしに行く」
「わかった。おやすみ、陽子」
「あぁ、おやすみ、哲也」
微笑をかわし、手を振って、陽子の部屋を出る。
自室に帰ってベットに横になると、今まで我慢していた眠気に襲われる。
明日はなにがあるのだろうか。
明日は何を見るのだろうか。
興奮と不安が、波となって俺の心に広がっていく。
いつ振りだろうか。生きているという実感が持てたのは。
生きる理由を探していた。
自分が世界にいる理由が欲しかった。
記憶は曖昧だけど、前の世界の自分はそうだったに違いない。
けど今は。
陽子がいてくれる。
陽子なら、俺が生きる意味を、与えてくれる気がする。
陽子についていくと決めた瞬間から、俺の人生は始まった。
そう、思った。
「おやすみ、陽子」
そうして俺は、深い眠りについた。
最近はずっと生きていて辛くなることはなかったですが、そう思ってしまう瞬間が来ました。そしてそれがきたことを嬉しく思ってしまう自分が居ました。そろそろ末期です。生きます。