第五話 邂逅Ⅲ
続きです。少しだけ、ストックが溜まりました。けど、自分はストックがなくて焦って書いたほうが速く書けるので、すぐ尽きると思います。読んでいただければ幸いです。
陽子と共に城門をくぐる。
初めて入る異世界の街。
そして初めて見る、たくさんの異世界人。
いや……ここでは俺が異世界人なのか。
陽子は、そのまま街の中心へと進んでいく。
その間俺は、立ち並ぶ家々に感嘆の声を漏らしていた。
「……はへ~」
……変な声が出るくらい、そこは驚きに満ちていた。
立つ建物は、中世のヨーロッパ風(行ったことないけど)。
敷き詰められた石畳と、レンガ造りの家々。
そして、それらの背景である青空が、建物をより立体的に、存在感を押し上げていた。
「どうした、そんなに珍しいか?」
「モチのロンだ。前世でも、本くらいでしか見たことねえよ。いい街だな、ここ」
「ははっ、そうだろう。私もここがお気に入りだ。とりあえず、冒険者ギルドに行って、そこで哲也のカードを作る。そこから、私の部屋に案内するけど、いいよな?」
「問題ない。陽子に任せるよ」
それから十分くらいだろうか。
始めは遠くからしか見えていなかったが、セントゥリオの中心に、まあまあ高い塔がある。そこが冒険者ギルドらしい。
それが見えてから、さらに五分。
青果店や、武器屋なんかを発見しながら歩くと、冒険者ギルドの目の前に着く。
「……でかいな」
「まあ……一番人が集まる場所って言っても、過言じゃないしな。ほら、さっさと行くぞ」
陽子に連れられ中に入る。
中には、五、六箇所の受付と依頼らしきものが書かれた紙が張ってある掲示板、そして、冒険者であろう人たちが酒を酌み交わす酒場が内接されていた。
昼間から酒を飲む男は多数、女に囲まれているイケメンもいた。
だからどうこうって言うわけでもないが、やはりどの世界にももてるイケメンはいる。
そのことを僻んでしまっては、それこそもてない原因だと、誰でもない誰かに諭すように語り掛ける。
陽子は、受付の端のほうにある、新規登録という場所に向かった。
「すまない、一人登録を頼みたい奴がいる」
陽子は何かの硬貨を取り出しながら、受付の人に声をかける。
「はい、新規の方……って、陽子さんじゃないですか。どうしたんですか、こんなところで」
「だから、新規登録と言った。……こいつのな」
そういって陽子は俺のほうに親指をむけ、こいつこいつっという風にジェスチャーする。
「あら……随分とお若い……陽子さんの彼氏です?」
「違うっ、親戚だ。……ったく、どいつもこいつも余計なことを。哲也、ぼけっとしてないでこっち来い」
近づいてきた陽子に胸ぐらを掴まれ、受付嬢の前に出される。
ギルド関係者が着ていると思われる制服に身を包んだ、眼鏡をかけたショートカットの女性。
そして、近づいて気付いた。
胸がでかい。
それもかなり。
これは……まずい。
……目があった。
「始めまして、受付のお姉さん、シエスタ=オースよ。よろしくね」
「……禊哲也です」
自称お姉さんのシエスタさんが、目を輝かせて聞いてくる。
「あなた、陽子さんのなんなの?」
「……えっと……魔族に両親を殺され、そこから逃げて十日ほど彷徨って、限界が来たところを陽子さんに拾われて……」
目のやり場に困っていた俺は、自分の言葉に釣られるように俯いた。
残念ながら、正気を失った目は、割と得意だったりもする。
「そ、そう……ごめんなさい、嫌なこと思い出させちゃったね……」
「いや、今の全部嘘ですから」
「……はい?」
シエスタさんがぽかんとした表情になる。
「ほんとは家族が皆死んで一人になったから、陽子を尋ねただけですので、安心してください」
「な……なかなかに……。結構笑えない冗談だったわよ今の……」
おぉ……シエスタさんの表情が引きつっている。
完全に引かれたかな……。
ところで。
後ろから爆笑する声が聞こえる。
おい陽子、笑いすぎだぞ。
いや、まあ軽いジョークのつもりだったから笑っていいんだけど。
「そ、それじゃあ……この紙に、必要事項を書いてくれない?」
「わかりました」
引きつった顔のシエスタさんから、紙を受け取る。
おぉ……質感が……紙っぽくない。
大量生産、大量消費だった現代人には馴染まないなんともいえない感覚が……。
そこで、ふと気付く。
言葉はいいとして、書いた文字ってどうなるんだ?
ここにきて、アヤメサクラの職務怠慢が発覚する。
俺は紙を持ったまま、未だに笑っている陽子に近づく。
「はーっ、お腹いてえ……あっ、どうした哲也?」
俺は声を潜めて陽子に問う。
「……翻訳魔法って、書いた文字には反映されるのか?言葉は話せたとして、文字は書けないぞ」
「あぁ……それなら気にしなくていい。お前が思った単語を書けば、勝手に手が動くさ。物は試しだ、やってみな」
陽子に促されるまま、名前の欄に、禊哲也と書こうとする。
すると、手は自分が思ったのとは違う軌道を描く。
「おお!…………おぉ?」
なのだが。
書いている感覚は確かに変わっているのに、書いた文字は日本語なのだ。
念のため、陽子に小声で確認する。
「……これであってるか」
「問題ない、ちゃんとかけてる。見ているものと感覚がばらばらだと思うが、まあ気にするな」
「気にするなっていってもな……気持ち悪い」
その後も俺は、陽子に確認を取りながら紙に必要な情報を書いていった。
名前 禊 哲也 (みそぎ てつや)
性別 男
年齢 十七歳
学歴 特になし
出身 どこかの村。小さい村だったので特定の名前がなくても生きていけたため知らない。
希望する職業 剣士
使える魔法があれば 特になし
志望動機 陽子に連れてこられたから
「出来ました」
紙を受付に渡す。
「……確認しますね」
しばらくして、シエスタさんは奥へと下がり、一枚のカードを持ってきた。
「どうぞ、あなたの登録カードです。始めはFランクからのスタートです。では、頑張ってくださいね」
そういって、シエスタさんは笑顔で俺を見送った。
ギルドから外へ出る。
「なあ、陽子」
「どうした?」
「……ランクって、なんだ」
「あー……そういやいってなかったな……冒険者ってのにはランクがあって、始めはF。それからE、D、って順番にあがっていって最高がAランクだな。ランクを上げるには、依頼の数をこなすか、高いランクの依頼を受けるって具合だ。あと、受けられる依頼は自分のランクと同じやつだけだからな。間違えて持っていくと笑われるぞ」
「その依頼っていうのは?」
「お前も見ただろ。端のほうにある掲示板に依頼が張ってある。それを受付にもっていって、依頼を受けるんだ」
「そうやって、冒険者は生きていくのか?」
「そうだ。ランクの高い奴になると名前を指名されて、貴族様の護衛任務をやったりもするな」
そういうと、陽子は一歩進む。
「あとのことは歩きながらにしよう。哲也のことを宿屋のおばさんに言わないといけないからな」
「わかった」
それだけ言って、再び陽子についていく。
「陽子は、シエスタさんと仲いいのか?」
「あぁ、結構な。私が初めてこの街のギルドに行った時の受付がシエスタだったんだ。腐れ縁ってやつかな。なんだかんだ、良くしてもらってるよ、あいつには」
「そうなのか……陽子は、シエスタさんに『陽子さん』って呼ばれてるけど、気にしてないのか?」
「始めは嫌だったんだが……あいつも固い奴でさ。何回言っても聞きやしない。仕舞いには私のほうが折れたってことだ」
「そうなのか……陽子が折れるって、相当な気もするぞ……」
「どうした哲也、シエスタのこと好きになっちまったのか?」
「そういう思考は良くないぞ、陽子。お前だって俺のことを彼氏彼氏って言われて嫌がってたじゃないか」
「私のことはいいんだよ。それで、どうなんだ、やっぱ胸か、あいつでかいもんな」
「好きじゃないし、胸でもない。そもそも俺は、胸のでかい女は得意じゃない」
「あれ、そうなのか?変わった奴だなお前。あっ、てことは……幼女好きとか……?それはさすがに私も引くぞ」
「違うそうじゃない。別に幼女が好きなんじゃなくて、胸がでかい女が苦手というだけだ。普通の女性なら、胸のない人のほうが好きということだ」
「へえ~、なんかあった初日なのに哲也の性癖を暴いてしまったな」
「気にするな陽子、性癖なんて呼べるものはそのくらいだ。他にはない」
「そっか。つまんねえな」
別に、嫌いというわけじゃない。
けれど昔から、女性の胸というものに違和感を抱いてしまうのだ。
おじさんたちが見て喜ぶようなセクシーさを前面に出した人がテレビに出ていたのを見たことあるが、胸が揺れる瞬間をいうものがどうにも苦手で、一種の気持ち悪さを覚えたほどだ。
まあ……損をしているといえば、そうなのかもしれないが……。
さっきのシエスタさんも、胸のせいで服がぴちっとして、不自然な曲線を描いていたため、直視できなかったのだ。
ちなみに陽子は胸部に鎧をつけていたので平気だった。
……っと、胸の話をしている場合ではない。
「陽子、その宿屋っていうのに行ってからは、予定ってあるのか?」
「宿屋のあとは……お前の装備と服を買って……そのくらいだな。どこか行きたい場所があるのか?」
「行きたい場所……というよりは、この街の案内を頼みたい。西も東もわからないんじゃあ、どこにいっても道に迷う」
「わかった。適当に歩いて周るけど、それでいいな」
「あぁ、よろしく頼む」
そうこうしている間に、大きな通りから外れた、規模の小さい家々が並ぶ地帯へ。
そこの、『星空の宿』と書かれた看板の立つ大きめな建物の前で、陽子は立ち止まる。
「ここが私が住まわしてもらっている宿、『星空の宿』だ。行くぞ」
そのまま宿屋の扉を開け、中に入る。
中に入って目に付くのは、十個ほどのテーブルとカウンター。右奥のほうに見えるキッチンらしき場所と、正面奥にある階段だ。
内装は全て木で出来ており、とても清潔に保たれているのが見て取れる。
「ビスタッ、今帰ったぞ!」
奥のほうへ叫ぶ陽子。
すると、カウンターから一人のおばさんが現れた。
「おお、早かったな陽子。晩飯まで時間が……って、おや?その後ろの小僧はどうした。知り合いかい?」
「知り合いというか親戚だな。禊哲也。今日からここに世話になる。部屋は空いているよな?」
「空いてるけど……随分と急だね……なんかあったのかい?」
女将さんは目を細め、じっとこちらを見る。
「哲也、今日から世話になるんだ。自己紹介くらいしとけ」
背中をドンッと叩かれ、女将の前へ。
「っと……禊哲也です。急ですが、今日からここにお世話にならせていただきます。よろしくお願いします」
お世話にならせていただくって、まだ決まってないだろと思ったけど、陽子がそういうならそうなんだろう。
行儀よく挨拶をし、頭を下げる。
顔を上げると、笑顔になった女将さんがいた。
「あらまあ、陽子が連れてきたからどんな奴かと思えば随分行儀がいいじゃない。そんなにかしこまらなくてもいいわよ。あたしはビスタ。ビスタ=ロロよ。よろしく坊や」
女将は挨拶と共に右手を差し出す。
ちらと陽子の顔を見ると、うん、っと頷かれる。
俺は女将の手を握り、握手をする。
「よろしくお願いします、ビスタさん」
「ええ、こちらこそよろしく。哲也って言ったかしら。この子、部屋に連れて行くけど、陽子の部屋の隣でいいわよね?」
「あぁ、そのほうがいい。けど、すぐにまた出るから、部屋だけ確保しておいてくれ」
「わかったわ。行ってらっしゃい、二人とも」
そういってビスタさんは笑顔で手を振る。
見送られて、外へ出る。
「気前よさそうな人でした」
「だろ?私もビスタとは仲がいいんだ。気楽に話せるしな」
そういうと陽子は、元来た道とは反対方向に進んでいく。
「次は武器屋に行く。中心部にもあるんだが、こっちのほうが腕は確かだ」
「わかった」
そして俺達は、次の目的地の武器屋へ向かった。
だいぶ余裕が出てきました。あと四日くらいは鬱にならなくて済みそうです