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始まる世界と哲の道  作者: 桜庭 遺愛
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第三話 邂逅Ⅰ

続きです。元々ない文章力が既に落ちています。ご了承ください。

「さて……どこから話すべきか……」


 木々が生い茂る森の中を歩いていく。

 しばらくは、このまま歩くことになりそうだ。

 ……また熊に襲われないように願っておこう。


「お前、どこまでこの世界のことを知っている?」

「ええと……この世界に転生してきたこと、転生者は他にもいること、魔法や魔術の存在、魔族というモンスター……くらいですね」

「地理はさっぱりか?」

「はい、さっぱりです」

「そうか……じゃあまず、その辺の説明からだな」


 禊さんは道がわかっているのか、ぐんぐん進んでいく。

 この辺の道は詳しいのだろうか。

 詳しいとしたら……アヤメサクラのことは知っているのかな。


「まず、私とお前が今いる国。それが、ヴォーナ王国だ。その中にあるカルナ山というところが、私たちの現在地だ。そしてこれから向かう場所が……セントゥリオ。街の名前は覚えておけよ」

「セントゥリオ……ヴォーナ王国……覚えます」

「素直でよろしい。他の国……四つの国があるんだが……それについての説明は、今すぐ聞きたいか?」

「今は大丈夫です。また後でお願いします」

「そうか。わかった」

 

 この人は、俺の味方だといった。

 けど一体、いつまで一緒に居てくれるのだろうか。


「それで、お前……」

「……?」


 一瞬立ち止まる。


「お前、名前なんだっけ」

「市坂哲也です」


 どうやら、名前を忘れられていたようだ。


「そうだそうだ、哲也だな。今思い出した」

「結構適当な人なんですね、禊さんって」

「あぁ、ええっと……この際だから言っておくが……その禊さんって言うのやめてくれ。気持ち悪い」

 気持ち悪いって。酷いな。

「……では、なんと呼べば?」

「陽子、でいい。あと、敬語もいらない。むず痒いし、そういう話し方は嫌いだ」

「……あんたがそれでいいなら、善処する」

「いきなりあんた呼ばわりか……変な奴だな。まあ、そのほうが楽でいい。これからも、そんな感じで頼む」


 軽い皮肉のつもりだったのに、笑って返されてしまう。

 そして、陽子は歩くペースを上げた。

 気が楽になったのか、それとも出口が近いのか。

 ただでさえ道なき道を歩いているので、おいて行かれないようにしないといけない。


「哲也、私がお前を転生者だと見破った理由が三つある。一つは物事に無知なこと。ベアアドルフくらいなら、町のガキでも知ってるさ。まぁ、見たことある奴は冒険者くらいだけどな。二つ目は装備。あの森にあの軽装、あの服装はおかしい。ただの迷子か飛び切りの阿呆か。そんなやつじゃないとあの格好ではいない。そして、三つ目」


 一呼吸おいて、話し始める。


「――名前。私の名前を聞いて不思議に思わなかった。それが理由だ」

「……陽子の名前?俺のじゃなくて?」

「あぁ。禊陽子、なんて名前のつくりはこの世界では希少なんだよ。漢字って言う当て字があってな……って、それに関しちゃ哲也のほうが詳しいか。――簡単に言えば、私は転生者の末裔。先祖様が異世界から来たっていうことだよ」

「そうだったのか……」


 陽子が転生者、という推理は少しだけ当たっていた。


「つまり、陽子って名前はこの世界ではめずらしくて、普通は疑問に思うはずだけど、俺は何の疑問を持たなかったからってことか?」

「そういうことだ」

「転生者ってのは、みんな名前が漢字なのか?」

「あぁ、そうだ」


 ということは、転生者はみんな日本人ってことか。

 やっぱ異世界転生とか考えているから相性がいいのだろうか。


「でも……それで決め付けるのは間違っていないか、もし俺が周りに陽子みたいな名前の人物が居たらどうしてたんだ」

「もしもの話はしたくねえよ、キリがねえ。後は勘だよ、勘」

「勘かよ……」

 結構適当だった。

「他に似たような名前の奴っていないのか?」

「少なくとも、セントゥリオにはいないな。私だけだった。探せばいるんだろうけど……」


 そこまで言うと、陽子は不意に立ち止まる。

「どうかした、陽子?」

「あー、最初に言っておいたほうがよかったかも知れんが……まだ間にあうから、今のうちに言っておくぞ」

 陽子は振り返り、真剣な目で見る。


「――転生者って言うのは、それだけで貴重な存在なんだ。だから、悪いやつらには狙われる」

「貴重?でも転生者って言うのはめずらしくないんだろう?」

「世界って広い目で見ればな。何年かに一度……ってくらいのペースでくるんだが、この世界のどこかにくるんだ。けど、この世界にある国は五つ。そのどこかに来るってことだ。毎回同じ国じゃない」


 確かに……仮に転生者が、各国ごとに均等になるように来るのであれば、それなりに期間が開く。

 転生者が貴重って言うのもわかる。

 

 でも何故、転生者なんて存在が居るのだろうか。

 その辺、アヤメサクラに聞いておけばよかった。


「それに転生者って言うのは、何かと凄い力を持っているものなんだ。凄い魔法だったり、ヤバイ魔剣だったりな。だから、それを自分達の為に使わせようとする連中に狙われる。そういうわけで、私がお前を発見したのは幸運といえるな」

「そうだったのか……でも、俺そんな凄い力貰ってないぞ」

「中にはそういう奴もいたんだが……転生者っていう肩書きはあるわけだからな。期待ばかりが膨らんでいって、身の丈の合わないことをして死ぬ奴も多い」

「そうなのか……」


 アヤメサクラに会う前に逃げ出した連中が生きていたこともあるんだな……。

 結局、死んでるみたいだけど。


「でも哲也、何も貰ってないなら、どうやってベアアドルフを倒したんだ?体術か何かか?」

「あぁ……それなんだけど……これだ」


 俺は自分の右腕を掲げる。

 振り返った陽子は、ぽかんとした顔をする。


「……どれだ?」

 間の抜けた声で答えられる。

「これだ、これ」

 左手で、右手のそれを突く。

「だからどれだよ」

「この、右手の、鎧!」

 そういって、右手からそれを引き抜く。

 陽子はそれをまじまじと見て、こう呟いた。


「アーティファクト?」


 なんだ……それ。

「……アーティファクト?」

「あぁ、遺跡なんかから発掘される、古代の魔道具だな。魔力を込めたり、呪文を唱えたりして使うって聞いたことあるんだが……どうやって使うんだ?」

「さぁ……俺も知らない」

 そういうと陽子は、呆れたような表情で頭を抱える。

「それを知らないと意味がないだろ……渡した奴は馬鹿なのか……」

「聞いたけど、答えてくれなかった。文句ならアヤメサクラに言ってくれ」

「アヤメサクラ……誰だそいつ」

「俺の管理者……だとさ」

「……信用できるのか?」

「……さあな」


 両手を挙げて首を振る。

 何気なく、アヤメサクラという単語を出してみたものの、陽子は何も知らなかった。

 アヤメサクラ……本当に何者だったんだ……。


「じゃあ、さっきのは何だったんだ?ただ、ベアアドルフがこけたようには見えなかったが……」

「あれは……ただぶん殴っただけで……」

「ぶん殴っただけだあ!んなわけねえだろ!」

 突如、陽子が声を張り上げる。

 見ればわかる。

 ご立腹だ。


「お前なあ、ただ殴って、手が無事で済むわけないだろ!やわな剣だと傷一つ入らない硬い毛皮だぞ!骨折れる位してないとおかしい!」

 あれ……怒っているというよりこれは……。

「もしかして……心配してくれてるのか?」

「――あぁそうだよ、お前の頭のな!」

 怒られた。見当違いだったようだ。

「でも無事ってことは……こいつが起動したってことでいいのか」

「……そうみたいだなっ、それになんかしたんじゃねえの?」

「…………」


 記憶を呼び起こす。

 命が危なかったって言うのに、少しずつ記憶からは薄れていく。

 えっと……死にかけて……生きたいって思って。


「――生きることへの執着、かな」


 考え付いた答えを言った。


「……なんだそれ」


 ……意味わかんないって顔された。


「そういや、そいつになんか名前ないのか?」

「名前か?『哲学礼装』っていうんだけど」

「……哲学?お前、その言葉の意味知ってるのか?」

「学問の一つだろ。常識じゃないのか?」

「いや……少なくとも私は知らない。他の連中が話しているのを聞いたこともない。その哲学ってのは、どういうことを学ぶんだ?」

「学ぶって言うか……生きる意味を探したり、幸福とは何かと問いかけたり、人はどう生きるべきかを考えたり……だな」

 

 真面目に答えた俺に、苦虫を噛み潰したような顔の陽子。

「なんだそれほんとなんだそれ……そんなわけわからんことを学ぶのか」

「正確には、考えるって感覚のほうが正しいな。一生かかっても答えが定まらないこともあるが、むしろ生きていれば問いかけ続けるんだ。終わりはないさ」

「……気持ち悪」

 若干決め顔の俺に容赦ない罵倒が刺さる。

 まぁ……かっこつけてたら気持ち悪いもんな。

 ただ生きる。

 そのためだけに、哲学は使うんだから。


「生きるため……か」


「?どうかしたか、哲也?」


「いや、なんでもない」


 ――哲学は生きるために使う。


 ――もし本当にそうなのだとしたら。


 ――『哲学礼装』はそのためにあるのだろうか。


 ――生きるための力。


 ――ただ、それだけの力。


「――そろそろだ」


 だんだん明るくなっていく。

 もう、森の中を出るようだ。

 今だ、『哲学礼装』の使い方は何一つわかっていない。

 けれど、ヒントのようなものは得た気がする。


「――生きる、か」


 陽子に聞こえないように呟く。


――そして俺は森を抜け、眼前に広がる、大きな街を見た。


生きるのが辛くなったら続き書きます。

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