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(8)アーサー
一週間は長いようで短かった。
毎夜、眠る前にこの現実が夢であるよう祈り、そして毎朝、目覚める度に夢でないことに打ちひしがれた。
アーサーが選べる未来は一つ。
ルースの結婚に纏わる一連の出来事を知っている父に報告した時も、選択肢は示されなかった。
ただ一言、『おまえに任せる』と。
自分の失態の後始末は自分でしろということだ。
友人に……いや、友人だと思っていた男に見せた、たった一度の『隙』が手に入るはずの幸せを奪い去った。
彼はこの時を想定して自分に手を差し伸べたのだろうか?
姉に心から尽くした、あの優しさや思いやりは全て偽物だったのだろうか?
……頻繁に実家に来る姉は本当に幸せなのか?
考え始めると全てが疑わしく、何が本当なのかが分からなくなっていく。
結局、アーサーの見ていた現実は、自分に都合良く歪められたもので、あれ程葛藤して下した決断も誰一人として幸せにすることはなかったのだ。
今、アーサーにできることは、侯爵家の後継者として家名を守る……ただ、それだけだ。
そのために、愛する人を傷つけることになろうとも。