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第一話「初のスキルレベルアップ」



「よし、次の手紙で最後かな」


 僕はそう言って、その手紙の宛先であるコメット村へ向かおうとしていた。



 僕はカイル・ファルグレッド、17歳。

 『収納』という便利なスキルで、たくさんの手紙を小さなバッグに入れて送り届ける郵便屋をやっている。


 ……まあ、本当は冒険者になりたかったんだけどね。仲間と共にモンスターを倒すなんて、男なら誰もが憧れる事だ。


 でも僕の『収納』というスキルは、勿論モンスターとの戦闘で使えるものじゃない。強いて言うなら、たくさんの食料やポーションを持ち運べる、荷物持ちくらいなら役に立ちそうだけど。


「バッグにアイテムをたくさん入れられるスキルなんて、何だかショボいしな……」


 コメット村へ続く森の中の道を歩きながら、僕は一人でそう呟いた。


 六歳になると、女神様から『スキル』を授かる。人によっては『片手剣』や『火魔法』、中には二つのスキルを同時に授かる人もいる。


 女神様から授かったスキルは本人の才能として扱い、戦闘系のスキルなら冒険者、それ以外なら僕のように、自分に向いた仕事をしている。


 子供の頃から冒険者になるのが夢だった僕としては、『収納』というスキルを授かったのは正直残念だった。それで周りの人達に馬鹿にされたりしていたし。


「僕も『両手剣』とか『雷魔法』みたいな、何か強力なスキルが欲しかったなー」


 今更嘆いても意味は無いけど。


 冒険者で活躍してる人は、優れた戦闘系統のスキルを持ってる。それ以外の人も、強力なスキルを持ってないけど自力で剣術を覚えたりして、頑張ってる。


 けど僕はそもそも剣術とか無理だからなー。あんな剣士みたいにあんな早く動けない。



「それにしても、静かな森だな……って!?」


 言いながら僕は驚いた。

 前方の茂みから、数匹のゴブリンが唐突に僕の前に現れた。


「(ゴブリン……!? まずい、今は護衛の人もいないし……一人で森を歩くなんて軽率すぎたか)」


 額から汗が滲み出る。

 弓矢を持ってるゴブリンと、手投げ斧を持ってるゴブリン。対して僕は自衛のためのナイフすら持っていない。


 凄くまずいぞ、この状況!


「に、逃げろ!」

「! ギャギャ!」


 僕が背を向けて走り出すと、ゴブリン達も僕を追いかけ始めた。

 

 幸いここは森の中。

 木々の間を走り抜けながら逃げて、何とかしてゴブリン達を撒くしかない。


 そこで、不運にも僕は木の根本につまづいて転んでしまう。


「うわっ!?」


 勢いよく地面を転がる。

 受け身もとれず、「いった……」と呻き声を漏らしながら後方を確認する。


 既に、すぐそこまでゴブリン達が走って来ている。絶望という二文字が僕の頭の中をよぎった。


「ゲギャ!」


 と、先頭のゴブリンが手投げ斧を投げた。

 走って来る勢いで投げたので、ブンブンと風を切りながら手投げ斧が飛んできた。


「ひっ!」


 僕は短く悲鳴を上げて、体に掛けてあったバッグを盾にして持った。


 ——改めて思うと、何故バッグを盾にしたのか分からない。手投げ斧がそのままバッグを切り裂いて僕を襲う可能性もあったはずだ。


 だけど僕はバッグを盾にし、そのまま飛んでくる手投げ斧を迎え入れようとした。


「(だめだ……やられる!!)」


 僕が諦めかけた、その時だった。


 なんと、その手投げ斧はバッグを切り裂いて僕に飛んでくることなく。

 ——バッグの目の前で消えた。否、僕の目にはバッグに入っていくように見えた。


 そして、ピロリンと陽気な音が頭の中に突然響き渡った。


『【攻撃(物理)】を収納しました。

 経験値が100上がりました。

 スキルレベルが2にレベルアップしました。


 【アイテムボックス】が解放されました。

 【攻撃の放出】が解放されました』


「……なん、だ……? 攻撃を収納……? スキルレベルが2って……」


 僕は頭の中だけで聞こえる声に困惑する。

 スキルレベルとは最高5まであり、スキルを使用して経験値を稼ぐことにより、レベルが上がる仕組みだ。


 何で今のタイミングでスキルレベルが? そもそも攻撃を収納って……?


 すると、目の前に【アイテムボックス】なるヴィジョンが出現する。


───────────────────

【アイテムボックス】

・手紙×1 ・水筒×1 ・パン×2

・攻撃(手投げ斧)×1

───────────────────


 そこには僕がバッグの中に『収納』している手紙や水、食料の他に、先程ゴブリンが投げてきた『手投げ斧』が表示されていた。


「何だこれ……!?」


 目の前に現れている【アイテムボックス】、そして【攻撃の放出】という言葉。

 スキルのレベルアップという事実も織り交ぜ、素早く頭を回転させる。


「……もしかして」


 思考の末、僕はある結論に辿り着く。

 僕の推測は間違っているかもしれない。けど、それに賭けなきゃやられるだけだ!


 感覚はいつも通りだ。

 いつものように、バッグから手紙を取り出すように…………。


「ギャギャギャ!」


 手投げ斧が無効化され困惑していたゴブリンが、丸腰で僕に襲いかかってくる。

 それに対して僕は、バッグの入り口をゴブリンに向けて、念じる。


「——出ろっ!」

「!? グギャッ…………」


 バッグから、さっき収納した手投げ斧をゴブリンめがけて放出した。

 バッグから出てきた手投げ斧はさっきの勢いのまま飛んでいき、ゴブリンの頭を切り裂いた。


 頭から血を流して倒れるゴブリン。

 すると、再び頭の中にピロリンという音が鳴り響いた。


『【攻撃(物理)】を放出しました。

 経験値が100上がりました。

 スキルレベルが3にレベルアップしました。


 【生物収納】が解放されました』


「……やっぱり」


 僕は確信する。

 それと同時に、体の底から興奮が沸き起こり、身震いする。


「僕の『収納』スキル……正直外れスキルだって思ってたけど、もしかして……!」


 今までは、ただ物がたくさん入るだけの弱っちいスキルだって落胆していた。

 しかし、道具だけじゃなく、魔法などの攻撃までも『収納』出来てしまうとしたら……?


「ギ……ギギャ!」

「ゲギャギャギャ!」


 未知の力を発揮した僕に恐れをなしたのか、残ったゴブリン達は逃げて行った。

 

 その後ろ姿を見つめながら、僕は呟く。


「もしかして……僕が思ってる以上に、ずっと強いスキルなのか」


 ——このスキルを上手く使えれば、冒険者として活躍できるかもしれないな。

 


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