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3・猫

今回は動物にまつわる話です。


 猫。可愛いですよね。うちでも飼っているんですが、本当に癒されます。

 長年飼っていると何をして欲しいのか表情で訴えてくるんですよね。

 うちの猫は眠い時なんかは誰かそばにいて欲しいのか呼びに来るんですよね。

 そしてベッドの上で横になるとぴょんって飛び乗ってきて、おもむろに顔を摺り寄せて、甘えるだけ甘えた後に眠りにつくんです。

 その姿を見ていると一日の嫌なこともすっかり忘れることが出来るんですよね。

 また、エサが欲しい時や水が欲しい時なんかは足元にすり寄ってきて、ずっとついて回るんですよね。

 うちに来たのはもう10年以上前になるんですが、最初は迷い猫だったんです。

 お腹がすいてたまらなかったのか、誰彼なしにすり寄っては追い返されるという風な感じでした。

 あまりにもその姿が可哀そうになってエサをあげたところ、毎日のように通うようになって、ついには家の中に入れたところよっぽど気に入ったのかそこからずっと一緒にいるって感じですね。

 仕事から帰って来ると、玄関先で待ってる姿がもうたまりません。

 ふわふわとはいかないつるつるした毛並み、柔らかいお腹、どれをとっても最高の癒しです。

 もう家族中のアイドルみたいな感じです。

 冬になると布団の中に入ってきて、一緒に眠ることもあります。

 私は昔から猫が大好きでしたが、中にはやっぱり嫌いな人もいるのは仕方ないことだと思うんですが、やり過ぎた人もいるようでして。

 今回はその話をしたいと思います。


 あれは30年くらい前でしたかね。

 近くの公園で子供の人だかりができている。

 何だろうと思って近づいてみると、1匹の子猫が顔中から血を流して鳴いているんです。

 うわぁ、なんてひどいことをする奴がいるんだなんて思っていると1人が声をかけてきたんです。

 どうやら近所では有名な(ここから先の表現は少し差別的な表示となるかもしれませんがご了承ください)知的障害を持った子のT君がどうやら金網のごみ箱に顔から投げつけて遊んでいたところを注意したら、逃げていったとのことです。

 なんてことをするんだと周りのみんなも怒り出しましたが後の祭り。周りには動物病院もない。衰弱しきっているこの状態では助からない。結局しばらくしてその子猫は息を引き取りました。

 子供たちもワンワン泣いて誰か一人の子が親を呼んできてその猫の亡骸を引き取っていきました。

 やりきれない怒りが周りの子たちを支配していたんだと思います。

 T君を見つけたら全員でとっちめようぜ、みたいなことを言っていました。

 勿論私も周りの子たちも賛成しました。

 子供って怖いですよね。変な正義感でそんな残酷なことを考え付くものだから。

 やれ同じようにぶつけてやるだとか、やれ全員で袋叩きにするとか、まあ物騒なことを言っていたもんです。

 まあそんなことをしたもんだからT君もしばらくは隠れていたんでしょうね。

 罪悪感があったかどうかは別として。

 しばらくの間、その公園にT君は現れませんでした。

 中には探し回っている子たちも居ましたが。

 学校なら見つかるだろうと言って学校内でも話題になりましたが学校にも来ませんでした。

 さすがにおかしいと思ったのか、皆子猫の呪いだとか言うようになりました。

 まあ、それだけのことをしたんだから当たり前と言っちゃあ当たり前なんですが。


 それからしばらくして、T君を見たという子が現れたんです。

 周りの子たちがどうだったと言うと、なんと公園の砂場で脱糞していたと言うのです。

 周りからは汚いなどの罵詈雑言が飛び交っていました。

 それからまたT君を見たという子がいました。

 今度は自分から公園の周りを囲っている金網に自分からぶつかっていたと言うのです。

 さすがに今度は皆黙り込みました。

 さらにT君の発見情報は続きます。

 今度は例の金網のごみ箱の周りを奇声を発しながらぐるぐる回っていたとのことです。

 もうここまで来たら、子猫の呪いだと皆口をそろえて言うようになりました。

 それからは毎日のようにT君の目撃情報がありました。

 中には(というかほとんどだと思いますが)怪しいものまでありました。

 曰く、雑草を四つん這いで食べていたと。

 曰く、塀によじ登って奇声を上げていたと。

 もうここまで来たらどこまでが目撃したものか解らなくなってきました。

 ただ、はっきりしているのは学校に来ていないということだけです。

 一体どうしたんだろうと、周りもさすがに不気味に思い始めました。

 これだけ目撃証言があるのに当の本人は姿を現さない。

 いくら何でも出来過ぎた話ですね。

 もう周りも目撃証言が作り話だろうということで収まっていきました。

 そうすると、話題にさえ上がらなくなりみんな忘れていきました。


 そうしていたある日、友達との下校中にT君らしき姿が公園内に入っていくのが見えました。

 「おい、あれT君じゃない?」

 友達の声に私はうなづきました。

 フラフラと夢遊病のような足取りで公園の中に入っていくT君。

 2人とも興味がわいたんでしょうね、こっそり後をつけていったんです。

 すぐにT君は見つかりました。

 雑草の生えている芝生のあたりで何かぼうっと立っていました。

 遠巻きに見ていると、突然四つん這いになったのです。

 友達の顔は青くなっていました。多分私の顔もそうだったんでしょう。

 しばらくお互い無言でT君の動向を見ていました。

 T君は何か匂いを嗅いでいるような仕草でした。

 すると突然、雑草を食べ始めたのです。

 あまりにもショッキングな出来事に言葉をなくす私達。

 T君はまだ雑草を食べています。

 そのうちに今度は吐き始めました。

 まるで猫が胃にたまった毛玉を吐き出すかのように。

 その時、「うわっ」と友達が声を上げました。

 するとT君はこちらを振り返り、にやぁと今まで見たこともないような気味の悪い薄ら笑いを浮かべた顔を向けました。

 その目は瞳孔が縦長のまさに猫の様でした。

 「ひっ」と声を上げ2人でその公園から逃げ出しました。

 もう夢中で友達の背中を追いかけて逃げました。

 後ろから「ひっひっひ」という笑い声が響いているように感じながら…。

 追いかけてくる様子もなく、逃げ切ったと思うとどっと汗が噴き出してきました。

 2人でこのことは内緒にしておこうと言いその場は別れました。

 何せ、言ったところで信じる子はいないでしょうから。ここまでくると。

 その日は夢にまで出てくるようでひたすら布団をかぶって眠りにつきました。


 それからしばらくしてそんなことも忘れかけてたある日、T君が転校したという話を聞きました。

 何でも遠い所に行ったとか。

 もうT君は居なくなったんだ、そう思うとホッとしたのを今でも覚えています。

 でも、これはだいぶ後になってから聞いた話なんですが、どうやらT君は精神病院に入ったそうなんです。

 あの後も奇行は収まらず、とうとうご両親が手に負えなくなってしまった為らしいです。

 回復の見込みもなく、両親も引っ越ししてしまいT君は捨てられたという形になったんでしょうね。

 もう30年以上も前のことですからどうなったのかは見当もつきません。

 多分施設に入ったのか、それともそのまま死んだのか。

 今となっては知る術もありません。

 

 ふと思うことがあります。

 動物は恩は忘れないと言いますが、怨も忘れないのかもしれない。

 受けた恨みは必ず帰ってくるものだということを。

 幸いうちの猫には何不自由なく(のつもり)過ごしてもらっている訳ですが、それでも不満があるとすぐに表情に出ます。

 そこも可愛いからついつい甘やかしてしまうんですけどね。

 でも、嫌いな人にとってはそれさえも嫌悪の対象になってしまうんでしょうね。

 だからといって、やり過ぎはいけませんよ。

 今は動物虐待も立派な犯罪ですから。

 それに、恩も怨も似たようなものですからね。

 

 

 




実は家はさらにもう1匹猫がいます。半野良の為エサ食べに帰って来るだけですが。

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