2・誰もいない階
よくある建物の話です。
駄菓子屋。子供のころならば誰でも行ったことはあると思いますが、最近はコンビニやスーパーにおされて段々減ってきましたね。行ったことがない人もいるんじゃないでしょうか。
10円ぐらいで買えるお菓子やらなにやらたくさんで、一種の溜り場みたいな感じでしたね。
私も子供の頃よく行ったもんです。
夏休みなんかに入るとそれはもう大盛況。周りの子供たちなんかがいっぱい集まっていてね。
私の住んでいた場所からは自転車で10分くらいの距離でしょうか。もうお尻があせもでいっぱいになってね、某TV番組風に言うなら「お尻がランブータン」でしたね。
夏だからかき氷やアイスクリームなんかがよく売れていて、みんなランニングシャツやなんかで頬張っていました。
これが来ると、「ああ、夏なんだなぁ」って子供心に思うわけですよ。
それで、暑い最中だから誰彼なしに怖い話をし始めるわけです。まだ、日中なのにね。
今回はその時の話を少々。
私が住んでいた所から見えるマンションがありまして、その当時としてはかなり高層マンションの部類に入るようなマンションだったんです。
見晴らしもいいし、おまけにバス停からも近けりゃスーパーも近所にある。なかなかにいい物件だったんじゃないでしょうかね。
外装もきれいで、1回にはロビーもある。その当時としてはおしゃれでした。
でも不思議なことにとある階層だけだーれも住んでいないんです。
家賃が高いと噂に聞いていたんですが、その階だけ安く出していたそうです。
でも、誰も越してこない。
入ったと思ったらまたすぐに出て行っちゃう。それの繰り返しだったそうです。
一回だけその場所にこっそり行ったことがあるんですが、別に何にも変なところはない。
不思議だなぁって思いましたね。きれいなのに。
それで、誰かがこの階に関する話をし始めたんです。
ある時そのマンションに住む1人の住人が夜遅くにお酒を飲んで帰ってきたそうです。
その人は別の階の住人だったそうですが、酔っ払っていたんでしょうね。間違えてその階を押してエレベーターを降りたそうです。
んで、自分の居住場所が見当たらない。ああ、間違ったと思って再びエレベーターに向かったそうです。
すると、エレベーターが動かない。全階の電源が消えている。
おかしいなぁとでも思ったんでしょう。素面なら階段を使うってすぐに思いつくんですが、何せ酔っ払っているもんだからボタンを何回も押していたらしいです。
すると後ろから、コツ…コツ…コツ…と足音がしてきました。
ああ、誰か出かけているんだなと思ったようで、気にせずエレベーターを待っていたそうです。
コツ…コツ…コツ…
足音が近づいてきます。
こんな夜中に一人で出かけるのか、夜の仕事の人かなとかなんとか考えていたんでしょうかね。
コツ…コツ…コツ…
そこでふと思い出しました。
この階には住人は住んでいないって事を。
そう思いだした途端、冷や汗がだらだらと流れ始め足がすくんで動けなくなりただ足音が近づいてくるのを聞いているだけでした。
コツ…コツ…コツ…
自分のすぐそばまで足音が近づいてきました。
恐怖のあまりに声も出ない。動くこともできない。酔いも完全に醒めた感覚でただ待っているだけ。
そうすると、ヒヤッと冷たい風が首筋を撫でていき、後ろに気配がしたそうです。
振り向こうか、でも体が動かない。
足音がピタッと止み、冷たい風が自分の周りだけを包んでいるような錯覚に陥ったそうです。
確かに気配は後ろからする。
体はガタガタ震えてくる。
声も出ない。
どうしよう、どうしようと思ってると
「…違う。」
はっきりと声がしたそうです。
その途端今まで動かなかった体が動くようになり、近所迷惑も考えずうわーって叫んで階段を探して必死で登って帰ったそうです。
家にたどり着いたら恐怖のあまり玄関にへたり込んで、呼吸を落ち着けていると
ドンドンドン・ドンドンドン
扉をたたく音がします。
びくっとなって、恐る恐る振り返り扉のほうを見ると確かに誰かがノックしているようです。
で、のぞき窓(外をのぞける小さな穴。正式名称がわからないのでこう書きます)から覗いてみると、誰もいない。
ますます怖くなって、その場にへたり込んでしまっていると
「…先生はどこ…」
そう聞こえたのを最後にそのまま失神してしまったそうです。
朝、家族の人が発見したときはもう本当に大騒ぎだったそうです。
意識を取り戻し、昨晩のことを家族に話すと、呑み過ぎの一言で片付いたようです。
本人も、そうだろうと思って忘れることにしたそうです。
後から聞いた話なんですがそのマンション、昔は総合病院が建っていたそうなんですが、患者さんが少ないことと医師が少ないことが原因で廃院となり、壊されてマンションが建ったそうです。
出来過ぎた話だなぁとおもって聞いていると話してくれた子が続きがあるといって話してくれました。
どうやらその病院はあまり腕の良い医師がいなかったせいか、運ばれてくるとたとえ簡単な手術でも大層なことになると。
よくある「やぶ医者」だって。
だからほとんど病院をサロンかなんかと勘違いしているお年寄りだらけだったみたいです。
そりゃあ、行きたくもないですよね。そんな病院。ダダの風邪でもえらいことになりそうですから。
で、そこである日若い人が手術を受けることになったそうです。
何でも簡単な手術だとか言われていたそうなんですが、失敗したそうなんです。
それで患者は死亡。その時の医師は何事もなかったかのような態度。そりゃあ遺族の方は大激怒。
それから評判はがた落ちになって、お年寄りも寄り付かなくなって廃院となった訳です。
だから今でもその時の患者が、自分を死に追いやった「先生」を探し回っているんだって。
一体、何の病気でどんな医師だったんでしょうかねぇ。
見つけてしまったらどうするつもりなのか…。考えたらゾッとします。
もう30年以上前の話ですから、そのマンションがどうなったかは解りません。