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1・いしみつ

昔にあった少し不思議な話です。

 これは、まだ私が3~4歳ぐらいの頃でしたかね。そのころ住んでいた地域ではやっていた噂話なんですけどね。

 形のそろった石を三つそろえるとお願い事が叶うっていう、まあ何ともどこにでもあるおまじないみたいなものがあったんですね。

 で、住んでた家の近所に堤防があってを超えるとテトラポットがあったり、潰れてなくなったどこかの企業の社宅跡があったり、まあ石を探すのには不便しない場所だったわけですね。

 だから子供たちは必死になって石を探すわけ。そんな形がそろった石なんてあるわけないんですけどね。


 でもよくある話。うまい話には必ず何かある。そういうものがこの噂話には付いているんです。

 もしもその中に緑色の石が混じっていたら、夜中の2時に「いしみつ」がやって来る。そして持っていた子供を「いしみつ」が襲い掛かって来る。で、その子供を石に変えてしまう。その石は再びどこかへばら撒かれて、そのうちの1つが緑色の石になる。それでまた誰かがそれを拾ってと延々それの繰り返しになるわけですね。

 「いしみつ」てのは何でも枕元に現れて、姿は漬物石ぐらいだとか地蔵みたいだとか鬼だとか色々言われていて、どれが本当なのかはっきりしていない。まあ、誰も見たことがないから噂話に尾ひれ背びれがついて独り歩きし始めてそんな風に広がっていったんでしょうね。

 でも子供ってその歳ぐらいの多感な頃は何でも信じちゃうって事だからみんな怖がっちゃって緑っぽい石が見つかるとワンワン泣いちゃう訳。「いしみつ」が来るってね。


 これまたよくある話なんですが対処法てのも存在しているんです。

 もしも緑色の石を見つけて誤って取った場合、すぐに捨てて上に唾を吐きつける。

 そして「いしみつ」さん、ごめんなさいって石に3回謝る。

 そうすると「いしみつ」は来ないっていう、まあありふれたものだったわけです。

 大人になって冷静に考えると、何とも馬鹿馬鹿しいおまじないだったんです。

 得体のしれないものほど怖いものはない、みたいなモノで当時はみんなとにかく緑色の石は見つからないようにって思いながら探していたんだと思います。

 今思えば緑色の石なんてそんな物滅多にないじゃないですか。それこそ見つかったらラッキーみたいな感じになるはずなのにねえ。

 判断に困りそうなのが薄っすら苔のついた石。これはセーフみたいに都合よく解釈したりしている子供もいれば、これもダメと言っておまじないをする子供もいましたよ。

 なんでこんなに必死になって探すのか解らなくなって、途中で飽きてしまう子供のほうが大多数でした。

 

 そんな中で飽きもせずに探していた子がいました。

 仮にS君とでもしておきましょうか。

 S君はどちらかというと活発な、所謂「悪ガキ」みたいな子でした。立ち入り禁止の堤防の中に入ったり、廃墟と化した社宅の中に入って窓ガラスを割ってみたりと、ちょっと(どころじゃないと思うけど)やんちゃな子供でした。

 「ほら、おんなじ石が3つあつまった!」とか言って見せてきたり、「あそこの場所に石がいっぱいあるよ!」とか。

 まあ、飽きもせずよく探してましたね。周りはほとんど飽きていたのに。

 

 そんなある日、興奮した様子で一つの物体を持ってきました。

 「こんなにきれいな石が見つかった!」

 かなり興奮した様子で一つの物体を見せてきたのです。

 何でも白い箱のある場所の近く(百葉箱だと思います)を掘ったら出てきたということらしいのですが、大きさ的には紐飴(駄菓子屋でよく売っていた紐付きの飴のこと。最近はあまり見かけないなぁ)の大きめのサイズぐらいの透明なきれいな塊でした。

 「わあ、凄い!」

 なんて言って周りの子供たちも大はしゃぎ。本当にきれいな「緑色」の透明な塊でした。

 その頃はもう小学3年生にもなっていたから誰も「いしみつ」の話なんて忘れて大はしゃぎでした。

 その日は仲のいい子たちでこっそり百葉箱のある敷地内に入って探していました。案の定先生に見つかって怒られましたけどね。

 で、そんなこともあってその日は解散となってみんなそれぞれの家路へと着きました。

 私自身もその日は楽しみに見ていた特撮ヒーローものがあった為に、そのことはすっかり忘れてしまいました。

 でも、夜になってふと思い出しました。緑色の石って何かあったなぁってね。思い出せないもどかしさでなかなか寝付けなかったのを今でも覚えています。


 次の日、S君は学校に来ませんでした。何でも高熱が出て今日はお休みするというのが担任の話でした。

 「あれだけ昨日元気だったのに、きっとずる休みだー」なんていう子も居ました。それぐらい元気だったのに不思議でした。(今になって解るのですが子供の急な発熱はそんなに珍しくないってことを)

 それでもその日は何事もなく1日が過ぎ放課後になってみんな帰っていきました。

 次の日もS君は来ませんでした。

 さらに次の日もS君は休んだままです。

 子供心ながらにこれはおかしいとみんな思ったんでしょうね。先生に「S君はどうしたの?」と次々と言い始めました。

 先生は少し困ったような顔をして「熱が下がらないみたい。」とだけ言って、話しを打ち切りました。

 「学校終わったらみんなでお見舞いに行こう。」と誰かが言い出した時、先生が急に怖い顔になって「行っちゃダメ。S君余計にわるくなるから!」と怒り出しました。

 やっぱりその当時ってのは先生は怖いものだというイメージがあったんでしょうね。それっきり誰もS君のことを言わなくなりました。で、その日はみんな静かなまま授業も終わり家路に着きました。

 次の日、やっぱりS君は来ません。ムードメーカーだった子が居ないと、それはそれは静かなものです。

 先生が入ってきて、S君が入院した旨をみんなに伝えて、さらに面会謝絶だということも伝えました。

 教室中はざわざわとざわつき始めました。あんなに元気だったのに何故だろうって。

 すると誰かが一人ぽつりと口にしたのです。

 「いしみつだ…。」

 周りはシーンと静まり返りました。まさかそんな古いおまじないのことを言い出すなんて、覚えている子も居たんでしょうね。

 「バカなこと言わないの!!」

 先生が真っ赤になって怒りました。その時点で子供ながらに何か大変なことになっていると感じ取っていました。多分周りの子供たちもそんな感じだったんでしょう。

 普段は少し騒がしい位のクラスがやけに静かだったのはみんな「いしみつ」のことを思い出していたからだったんでしょう。誰も何も言わず、その日は時間だけがやけに長く感じました。


 それから2週間ぐらいたったぐらいですかね。

 先生が「S君は昨日の晩に亡くなりました。」と悲痛な面持ちで告げました。それを聞いて泣き出す子も居れば、何があったのかわからずポカーンとする子も。まだ死ぬということが理解出来ていない年ごろなんでしょうかね。みんなそれぞれバラバラの反応でした。その日はみんな家族に連れられてお通夜に行きました。

 棺桶の中のS君は本当に眠っているだけのようで、声を掛けたら起きるんじゃないかって感じ。何人かの子は「S君!S君!」て呼びかけていたけど当然のことながら目を覚ますわけがありません。

 何ともあっけないお別れでした。

 帰り道、どこかのおばさん同士が話しているのが耳に入ってきました。

 何でもS君は発熱と同時期から体が硬く動かなくなり始めたと。現在ではいろいろな病名何かあるんでしょうけれど、当時は原因不明だったそうです。

 で、徐々に硬くなり始めてやがて自力で動くことができなくなりあっという間に自発呼吸不可能になり、ついには亡くなったんだと。

 その話を聞いた途端、「いしみつ」の話しを鮮明に思い出しました。S君はあの日「緑色の石」を持ってきていたということ。それを大切に持っていたということ。

 その日は怖くて一睡もできませんでした。


 「いしみつ」の名前の由来は石が3つ、ということらしいです。らしいというのもその当時の記憶が曖昧で、どうしてそんな名前がついたのかは解りません。

 ただ、これが偶然だったのか、はたまた本当だったのかはいまだに解りません。

 「緑色の石」。いまだに私はこの色を忘れることが出来ません。

 ただ、自然とそんなものが埋まってるとは思えないんですよね。

 偶然だったのか、或いは必然だったのか。今となっては遠い昔の話。

 あの事は何だったんでしょうかねぇ。



 

 

 あの後、S君の家族は引っ越したので真相は解りません。


 こんな風に短い話が続きます。

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