表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

帰る場所

疎らな石造りの家々。人通りは無く閑散としている小さな村に橙色の光が灯る。


一人の男がその灯りを目標に歩みを進め、ドアを開けた。


「カルク、おかえりなさいっ!今日はどうだった?」


「ただいま、リーゼ。今日も薬草を届けて無事しゅーりょーだ」


落陽亭に今日も顔を出す男が一名、出迎える少女が一名。


男が席に座ると少女はエールの入ったジョッキをテーブルに置く。あと、少しつまみになるソラマメが小鉢に添えられている。


「カルクー、料理の注文は?」


「あー、無しで」


「ですよねー」


カルクとの一言で厨房を照らしていたランプがひとつ、またひとつと消えて行く。カウンター向こうの灯りが全て消えると、リーゼはテーブルに戻り、彼と対面で座った。


「客は来たか?」


「今日はねー、午後からアーロンじいちゃんと、ギータさんと、リヒトさん」


「そうか」


飲食店をやっていて日に客が三人だけなど、潰れてもおかしくは無い。しかし、店には女一人のリーゼしかいないため、カルクは無理に稼ごうとも思っていなかった。まだ14歳の彼女には幸いにも常連がいる。常連以外の客など、彼にとっては不安要素でしかない。



「リーゼ、眠かったら寝ていいぞ?」


「まだ九時だよ?落陽亭は陽が落ちてからが勝負なの!」


「その割にはもう店仕舞いしてんじゃねーか。明日の朝も仕込みで早いんだろ?」


「どうしてそんなに早く寝せようとするかなぁ。あっ、もしかしてわたしを襲う気だったりする?」


「年齢ダブルスコア以上離れてるからに・・・捕まるだろ」


「またそんなこと言ってー。カルクの故郷のルール?」


覗き込むように両手に顔を乗せて問いかけるリーゼに、カルクは少し視線を泳がせる。


リーゼは銀色の髪にブルーの大きな瞳。鼻、口共に整っていて、誰が見ても美人と言われる顔だろう。


対する黒髪で中年のカルクは少し精悍な顔つきには見えるものの、イケてるかと言われたらそうでもない。


少し伸びた髭を気にしながら、カルクは顔を横に向ける。


「あっ、照れてるっ。かーわいいっ!」


「うるせーよ」


カルクが豆をつまみながら、エールを一口。それを嬉しそうに眺め、リーゼは言葉を待っている。


「・・・この後客が来るから、本当に先に寝てていいぞ」


「えー、そればっかり。いつもわたしを除け者にするよね」


「おまえはまだガキンチョだ。大人の話に混ざってこなくていいんだよ」


「ううー」


不服そうな目でジッと見つめるリーゼだったが、目線を合わせようとしない男には効果は無い。数秒睨みつけ、諦めたように溜息をつき立ち上がる。


「今日もずっと、待ってたのに。もうちょっと話したいよ・・・・・・おやすみなさい」


シュルっと前掛けを外す音が聞こえ、やがてパタンとドアの閉まる音が響いた。


「ったく、かわいすぎだろ・・・」


誰もいない空間で、まだ横を向きながら、カルクはエールを飲み干す。慣れた静寂も、彼にとっては酒のつまみに成り得た。













評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ