第1章 その1 エイプリルフールお花見頂上合戦!(1)おれと充のバカコンビ
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「おい雅人~っ!」
幼なじみで近所に住んでる従兄弟。幼稚園から同じ組、腐れ縁の沢口充は、おれ、山本雅人の家の夕飯時に突撃してくる。
「おまえなんで毎度、うちにくる? 妙子おばちゃんのうまい料理が待ってるだろ」
「もちろんそれは完食済みだから安心しろ!」
胸を張る充。
おれはなんだか恥ずかしいよ。幼なじみとして。
「バカか。おれだって晩飯は済ませてるよ。ラーメンだけどさ」
「だめじゃん! 男子は肉食わないと」
「もう食ってきたんだろ? 肉はまたこんどな!」
充は堂々と上がり込んで、冷蔵庫の中身を物色してる。
「おっビールか。えび○じゃん!」
「おっビールか、じゃねえよ!」
おれはバカな幼なじみの従兄弟の手から、缶ビールを取り上げた。
未成年者の飲酒は厳禁だ。
「こいつはちょっぴり高いから飲んだら親父が怒るんだっつーの。てか、おれもおまえも中学生なんだからダメに決まってるだろ」
「え~。おじいちゃんの晩酌のときは分けてくれるのに」
「ぶつぶつ言うな。おじいちゃんがくれるのは保護者だからいいんだ。うちはおまえんちじゃねえ」
「つめた~い。雅人ぅ」
怪しいな充。
もう自宅で飲んできてるんじゃないだろうな。
ポテチの大袋をばりっと開いて。コーラを開けてごくごくっと飲む。
「今夜も雅治おじさんは残業なのか」
テレビつけながら言う。
とたんに流れる大音量の音楽。
「K坂」アイドルが歌って踊る。
センターにいるショートカットあの子は、今夜も笑わない。
おれ、あの子、好きだな……
「うん。帰りはたいてい深夜。よく言ってるよ、仕事が生きがいだってさ」
母ちゃんと早くに死別したから。
きっと、後はどうでも良くなったんだ。
「生きがいあるんならいんじゃね?」
「まあな。おれもコーラくれ」
「え~飲んじゃったよ。新しいのいっとく? なにこれドクターペッパにチェリーコークあるじゃん! ウィルキンソン? エルダーフラワーソーダってなんだよ?」
「輸入だって。親父の貰い物だよ。取引先の社長がくれたんだって。なんか太っ腹な社長でさ。この前の高級牛肉もそれだよ」
「だいじょうぶかよ雅治おじさん。癒着とかダンゴウとか、ほら最近ニュースでよくやってるナントカ疑惑」
「うちの親父に仕事上の権限とかあるわけねえだろ。心配すんなって」
そのとき、おれのスマホが着信音を響かせた。
「もしもし。はい? 親父!?」
「どしたんだよ雅人」
電話を切ったおれが大きなため息をついたのを、充は見て、少しばかり不安そうに声をかけてきた。
「親父がさ」
「うん」
「あのバカ親父! 仕事帰りに部下と花見をするけど食い物と飲み物が足りないから追加で持ってこいって言いやがった!」
「へ、へ~」
少しびびる、充。
「いいよ、持ってってやろうじゃん!」
電話を切ったおれは、むかつくのを抑えて、にやあ、と。
笑った。
「しょうがないな、おれも行ってやるよ」
充は連帯責任を感じたようだ。
「で。花見ってどこで? まあ、夜桜もいいよな」
「井の頭公園だってさ」
最寄り駅は吉祥寺。
井の頭恩寵公園である。
いつか見た桜の時期には、水面すれすれにのびる桜が、とてもきれいだった。
「ったく! なんか買ってこいとかねえわ! 誰に言ってんだ。うまい弁当作ってやんよ。ひたすら時短料理だけどな!」
「おおお! 雅人が燃えてる! いつも面倒くさそうなのに!」
「一言も二言も多いわ! ボケ!」
西荻○(ぜんぜん伏せ字になってねえ)のバカコンビ。
それが、おれ、雅人と、腐れ縁の充なのだった。