第2章 その5 美形襲来!
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ゴールデンウィーク後半。
勝手知ったる吉祥寺を散策していた、おれと従兄弟の沢口充は、井の頭恩寵公園に立ち寄り、銀だこのタコヤキ食って、ちょっとした相談に乗ってもらった、その帰り。
「あれ、名越じゃないか?」
先に気づいたのは充だった。
公園を出たおれたちは今、井の頭公園口に向かって、坂道を上っている。
五メートルくらい先を歩いている、男女高校生の後ろ姿を見て言った。
「充、目いいな」
「雅人も、名越かもって思ってよくみればわかるよ」
背は高くもなく低くもなく、どちらかといえば細身で、軽く猫背。
隣にいる女子は、小柄で、よく言えば健康的な、ぽっちゃり体系。後ろ姿でもわかる特徴があるのは二つに分けて結んだセミロングの髪である。
「確かに名越だな。一緒に歩いてるのは秋津か!?」
同級生の名越森太郎と秋津直子が、けっこう近い距離感で並んで歩いていたのだった。手を握ろうとすればできそうなくらい。
「楽しそうだな。あのふたり、もう付き合ってるんじゃね?」
「別にどうでもいいんだけど、オレは」
「充、いくら超絶美人な婚約者がいるからって、同級生の恋愛にも無関心って良くないぞ」
「雅人? オレは毎日忙しいって、言ったよね?」
「ああ聞いたよ。忙しい合間をぬって来てくれたんだろ。でも友達のこととなったら別だろ! 名越は優等生で少しポーっとしてるし、秋津みたいなチャキチャキした子って、けっこうお似合いじゃないかな」
「うん、まあ、そうかもね」
充の返事がいいかげんになってきた。疲れているようだ。活を入れてやろう。
「よし、追い付いて声かけてやろうぜ!」
「はぁ? もしほんとにデートだったら最悪じゃん」
「デートなわけないだろ! あの奥手そうな名越と、色気より食い気な秋津だぞ。二人ともタコパのとき、どんだけ食ってたか。名越も意外と大食漢だなあって見直したんだ」
「それだ」
充が、ポンと手を叩いた。
「タコパだよきっと、きっかけは。そうだよ、一緒にタコヤキひっくり返したり岡山風のお好み焼きを秋津が焼いて名越が食ってるの見たよ!」
「なるほど納得だ。よし! 行くぞ!」
「あああ雅人ぉ! オレの話、聞いてた?」
「聞いてた」
正直おれは暇人なのだ。
他人の恋バナにちょっかいかけたっていいじゃないか!
おれは足を早める。自慢じゃないが脚力と足の速さには自信があるのだ。
ふふふふふ。
同級生男子二人が後ろに迫っているのも気づかず、名越も秋津ものんきに会話しながら歩いてる。
会話の内容が耳に入ってきたが、残念ながらどうでもいい内容だった。
タコヤキはどこのがうまいか、回転焼きと大判焼きと、埼玉の一部地方で言われる「太郎焼き」の、どこが違うか。たい焼きなら『根津のたい焼き』がお気に入りだとか。薄皮にみっちり詰まっている餡子がたまらないとか浅草舟和のいもようかんとか。
まじでこいつら食べ物の話しかしてねーわ!
呆れる。青春どこへ行った。
駅前道路にたどりつく前に、名越たちの後ろ推定三メートルまで接近した、そのときだった。
坂道の上から、女が駆け下りてきた。
いや女かどうかわからないのだが、とりあえず、美形だった。
背が高くて、長い黒髪を二つに分けて三つ編みのお下げにしていて、黒づくめのいでたち。
革ジャンにジーンズ、足元はヒールの高いサンダルだ。
勢いよく駆け下りてきて、名越の前に立ちふさがった。
にやり、と笑った。
しかし、何を手に持ってるんですかね?
柄というか握りも刃渡り部分も真っ黒なやつ。
あれ、大鎌ってやつじゃね!?
「お前がわたしの獲物だな。名越の若君。しかしなんだな。少しばかり幼くないか。相手にとって不足ありだ」
あいたたたたた!
この美形、痛いヒトだった!
できれば5月のうちにたくさん書けたらいいなと思っています。がんばります。




