第1章 その39 間違いだらけの部活選び(訂正しました)
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ども! 山本雅人だ。
高校生活が始まったことに話を戻そう。
残念なお知らせがある。
充と並河さんの婚約発表のインパクトが大きかったせいで、おれと伊藤杏子さんがお付き合いを始めていることには、誰も気がつかなかったのである。
なんでだよ。毎朝一緒に登校してくるし! いや充と並河さんも一緒だけどさ。沙織さんが手配してくれてる自家用車での送迎だしな……。付き合ってる感が醸し出せていないのだろうか。充たちはもうスイートな雰囲気に浸ってるんだけど。
う~ん困った。
杏子さんはモテる! 絶対だ!
おれのカノジョだって、宣言しなくては、やばい!
しかしながら高校生となったばかりの新生活。
カノジョのことばかり考えていてもおかしいのである。はっきり言えば勉強だ。そして部活! どこかに入らないといけないんだろうな~。
毎朝の昇降口の前には新入生をクラブに勧誘する先輩たちが並んでいるのだ。
自作のチラシを配ったり、模範演技みたいなことをしたりアピール。いかに素晴らしい部活かということを熱意をこめて語ってくれる。
一日入部体験というのをどこの部活もやっているので、新入生たちは、たいてい、一応は複数のクラブに入ってみるという選択をするのだった。
※
というわけで、まずは野球部に行ってみた。
いかん見ただけで挫折だ。
部員数が多すぎる。熱い!
次は同級生の竹内が入部したというテニス部。
最近、TVでよく日本人選手の活躍を目にする。
ラケットを握らせてもらい、打ち合ってみる。これくらいは、充とたまにテニスコートに行ってやってみたことあるし、経験してる。
と思ったら先輩のボールは、すごかった!
なにこれ凶器か!? 早い目に入らない当たったら痛い!!!!
しかも本当は、最初は一年生は走り込みとボール拾いが主で、コートで打ち合うななんてなかなかやらせてもらえないらしいと、一年生たちの噂で聞いた。
もう少し考えてみよう。
次に陸上部。
走るのは好きなんだけどなあ。
陸上っていってもすげえ種類が多いんだな。
先輩がたは、レベルすげえ。
困った。自分が砲丸投げるとかハードル飛び越えるとか棒高跳びとか、百メートルコンマ0.1秒を競うなんて姿がイメージできない!
みんな、すっごい好きで好きで苦しくても頑張ってやってるっていうことは、ビシビシ伝わってきた。
……なんか、自分が恥ずかしい……
おれはアスリートにはふさわしくない気がした。
※
それから数日が過ぎた、昼休憩。
おれと充、杏子さんと並河香織さんは、学食の片隅で、無難な『学生定食』をたいらげ、食後の番茶を飲んで一息ついていた。
テーブルには四人だけ。
学食としては異色なのではないだろうか、ボックス席になっているので、プライバシーを保てる。ここに割って入るのは勇気がいると思うよ。
勉強、得意科目、苦手科目。好きなスポーツ、食べ物……お互いを知りたいという気持ちで何でも話し合ううちに、話題は、どの部に入部するかということになっていった。
「充はクラブどこにした。身長のばしたいからバスケって言ってたよな」
「あれ、嘘らしいんだ。都市伝説。背の高い人がバスケに向いてるってことでさ。がっかりだよ」
肩をすくめる充。
ほうっとため息をついた。
「でも部活はもうやってるよ。雅人はまだ体験入部ばかりか?」
「何が自分に向いてるか、やってみないとわからないだろ。野球部と陸上部は、はいってみたんだけど。おれはアスリート魂がないっていうか、無理だなって、見えちゃったんだよ。考え中だ。……で、充はどの部活なんだよ」
「ミツル! 放課後はおれと一緒に部活行こう!」
物静かで大人っぽい見た目に反して動物好きな「おれっ娘」だったとカミングアウトした並河香織さんが嬉しそうに言う。
気のせいか?
なんか幼くなったような?
「雅人もくる? ミツルは、おれとずっと一緒にいてくれるんだ。今日は、茶道部の日だよ。ミツルはすじがいいから、ちょっとやればお免状もすぐにもらえるって師範が言ってた」
「え? 今日は、って」
「明日は射撃部で、明後日は護身術クラブ。それとねスリングショット愛好会と……」
「ええええええ~!? すげえな!」
いつのまに充はそんな過密スケジュールになっていたんだ。
「パパとママが、充にがんばって強くなってねって言ってたの」
「婚約者だから、とうぜんだよ」
にっこり笑う香織さんを、うっとり見つめる充。
うわ~。
これがリア充ってやつか!
なんか、心が痛い……
しかしおれは、真実のほんの一部しか知らなかったのである。
のちに明らかになるのだが。
「雅人も来たらいいよ。キョウコも茶道部だよ」
「行く! 行きます!」
即答してしまったおれ。
しかし杏子さんは、困ったようなまなざしを投げかけてきた。
「言わなかったの。あたしはお茶をやりたいけど、雅人は興味ないかなって。男子だし。なのに無理に付き合わせるなんて、悪いわ」
「おれは茶道やりたいから、行く!」
もちろん超初心者のおれである。
放課後には、畳に慣れない正座して、足が痺れてしまったというオチが待っていた。
「それにしても充すげえ。頑張ってるんだな」
「強くなって、可愛い嫁を守るんだ!」
「嫁って。将来の、だろ」
「うん。でも決定だから!」
決意の表情である。
男は嫁さんもらうと変わるって、誰かが言ってたけどほんとだな。
うらやましいぞ!
おれも、頑張ろう。