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妹なんかじゃないっ。(「おれと彼女は義理のきょうだい!?」改訂・完全版)  作者: 紺野たくみ


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第1章 その36 乾杯!


          36


「私たちも緊張しているんだよ。ご両親に、どうご挨拶すればいいかと」

 今頃気がついたけど、後部座席の一番奥には、並河泰三なみかわたいぞう社長がいたのだった。

 つくづくサンタみたいな髭だな、などと失礼なことをおれは思っていた。


「だいじょうぶですわよ、あなた。わたしの両親に会ったときは、立派でしたわ。あとで、彼なら安心だと思ったって、両親も言ってましたもの」

「きみと結婚できるなら、なんだってしたよ」

 これって、のろけだよね。

 臆面も無く若い頃の思い出話に興じデレデレする並河夫妻である。

 それはともかく高級車の乗り心地は最高で、普通に室内じゃないかと思うくらいだ。


 緊張する香織さんと、心配している充。


「どうしたんだ、充。おまえん家なら反対なんかしないだろ。香織さんみたいな人と婚約するならさ」

「そこが悩みなんだよ」

「へ?」

「喜んで受けるに決まってる。親父も母ちゃん姉ちゃん弟も! そんで大騒ぎになるのが目に浮かぶ」

「ああ。そうだな。おれもそう思う」

 絶対だ。

 ノリのいい沙弥姉。元気な弟。人の良いおじさんもおばさんも。


「だから、頼む、雅人。おれんちのみんなが暴走しそうになったら、止めてくれ!」

「悩みって相談って、そっちか~!!」



 充の危惧は、現実のものとなった。

 まずご近所ではついぞ見かけたこともない高級外車が充ん家の前に乗り付け、最初に降りてきたのはおれ、山本雅人と充で、そこまではいいが続いて現れたのは女優さんかと思うような美人な沙織夫人と桃枝さん、それに可愛い女子高生、杏子さんと香織さんが降りてきて、玄関を入っていったのである。


「どうしたの充! あんたいきなり電話で『人生の一大事だから』だなんて、なんのことやらさっぱりだよ」

 最初に出てきたのは妙子おばさんだった。

 おれも加勢してやらないとな!

「おばさん、こんばんは」

「おや雅ちゃんどしたの、真面目な顔しちゃって」

 まるで真面目な顔をするのが珍しいみたいな言い方は心外だ。

「充が、大事な話があるからって」

「雅人、おれが言う。自分で」

 充は大きく一歩、足を踏み出した。

 えらいぞ。


「母ちゃん! おれ、結婚したい人がいるんだ!」


「け、け、結婚~!?」

 妙子おばさんは目を白黒。口ポカンである。


「バカ充! そこじゃないだろ結婚とかいきなり! お付き合いしたい人がいるってとこからだろ!」

 まったく先が思いやられるぜ!

 充が第一声を間違ったおかげで、沢口家は、大騒ぎになった。

 今まで彼女さえいなかった充が突然の結婚(予定)宣言。

 そこへ香織さんとご両親、並河夫妻の訪問。

 家の前には高級外車。

 パニックである。

 おれは、こんな浮かれた沢口一家を初めて見た。

 杏子さんと桃枝さんと、そしておれは、玄関先にとどまっていた。一応、気を遣ったのだ。邪魔になっては悪いし。

 しかし無駄な抵抗だった。

「なによ遠慮してんの雅人! あら可愛い、あんたの彼女? とにかくおいで!」

 沙弥姉さやねえが出てきて、おれたちを奥へ引っ張り込んだのだ。


 それからはもう何が何やら。大騒ぎで。

 秘蔵の酒を持ち出してきた叔父さんと泰三さん、沙弥姉は上機嫌で杯を交わし、妙子おばさんと沙織夫人、桃枝さんは「お式はいつにしましょう」「高校卒業さえすれば」「和式で」「ウェディングドレスは外せませんわ」「親類なんか呼ばなくても構わないですわよねえ」と意気投合、楽しげに将来のビジョンを話し合っている。

 弟の優は、ピザと寿司の出前に大喜び。おまけに香織さんについてきた二頭の巨大な犬に大喜びだ。優ちゃん、犬を飼いたがってたもんな。『牙』と『夜』も、幼稚園児には、かたなしである。


 充と香織さん、おれと杏子さんは、騒ぎに入っていけず困惑していた。

 めでたいに違いないんだが。

 こんなに凄いノリになるとは。


「すまん充。叔母さん叔父さんが暴走するって、おまえの予想通りだったのに、おれ、なんもできなかったよ」

「ううん。雅人と杏子さんがいてくれて心強いよ。ありがとうな」


 叔母さんも飲み始めたようだ。

「充は生まれたとき息してなくて。看護師さんが逆さにして、お尻を叩いたら、オギャーって大声で泣き出して。それできっと高校生にもなるのにまだ小さい…」


「母ちゃん! 関係ないだろそれ!」

 充は顔を真っ赤にして怒る。


 そこへふらりと、沙弥姉がやってきた。

 かなり酔ってる。

「そうだ、やっとわかったわ! 香織さんと、杏子さんだ! 充、雅人、あんたたちが入学式の日に一目惚れしたって言ってた女の子! いや~当たって砕け散るくらいが関の山と思ってたのに、告白したの? 上手くいったんだ! めでたいめでたい」


 考えてみたら、その通りか?

 沙弥姉はグラスを持ち上げ、「乾杯!」と言って中身を飲み干した。

 おれたちもコップを渡されて、ジュースを飲む。

 すごく喉が渇いていたことに、そのときようやく気がついた。

 ともかく、乾杯。

 おれたちの、これからに。



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ファンタジーです。別バージョンの、充くんと香織さんも出てきます。

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リトルホークと黒の魔法使いカルナックの冒険

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