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妹なんかじゃないっ。(「おれと彼女は義理のきょうだい!?」改訂・完全版)  作者: 紺野たくみ


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第1章 その34 かりそめの一家団らん


         34


 幼なじみの沢口充が、どうしているかなど、微塵も知るよしもない、おれ、山本雅人はというと。

 伊藤杏子さんと彼女のお母さん、桃枝さんと一緒に食卓を囲んでいた。

 桃枝さんが豪勢な特上寿司をとってくれたのである。


 いつもと違って、ひとりじゃない夕食。

 楽しい一家団欒。

 素晴らしい!

 親父と向かい合って食事をすることなんてめったにないし、たまに顔をつきあわせて飯を食うことがあっても会話が弾まないこと!

 おれに似て愛想のない父親だ。

 ……いや、その逆かぁ。

 息子のおれには愛想のない親父だが、会社の部下の人とはちゃんと話してたっけ。

 バカ親父! 家族に手を抜いてちゃだめだろ!

 いやいや、人の振り見て我が振り直せ、だよな。

 決心した。

 おれは絶対に、大人になったら奥さんや家族を大切にして幸せな家庭を築くんだ!


 親父からは、まだ連絡はなかった。

 おれと杏子さんと桃枝さんは、和やかに会話を楽しみ、特上寿司を腹一杯食べた。

 桃枝さんが、学校のことを尋ねる。

「杏子は学校でどんな感じなのかしら? この子ったら、自分のことはあまり話してくれないんですよ」

「だいじょうぶですよ!」

 自信たっぷりに請け合う、おれ。

「杏子さんは人気者です! 成績優秀でスポーツも得意なのに自慢しないし、みんなに気遣いできて優しくて、それに……」

 一気にまくし立てたら息が切れた。

「それに、すっごく可愛いから! おれは大好きです!」

 あ。

 大好きですって。

 勢いづいて言ってしまった。

 もちろん心の底からそう思っているのだが、こんなふうにじゃなくてもっとこう、ちゃんと告白したかった!

 その瞬間、しーんとしてしまったし。


 まずい!

 だけど、おれは。

 それを『冗談ですよ~』なんて、その場しのぎでごまかしてしまいたくは、なかった。

 本気で好きなんだ。

 たとえ彼女に、どん引きされても。


「ほ、ほ、本気だ、いや、ですから!」

 ちょっと噛んだ。

 大事なとこなのに、噛んでしまったぁ!


 すると、それまで固い表情をしていた桃枝さんが、くすっと、笑った。

「本気なの山本雅人くん? それは素敵だわ! うちの娘はそんなにいいところばっかりじゃないのは、母親のわたしが一番よく知っているわよ。それなのに、山本くんの話じゃ完璧な女の子みたいだわ。ほんと、恋は盲目ね!」

 満面の笑みで桃枝さんは言った。


 あれ?

 ……恋は盲目?

 そのたとえは適切かどうか、びみょ~だな。

 それにちょっぴり、古い?

 少し引いたのは、おれの方だった。

 しかしながら桃枝さんは意に介さず。笑顔で振り返って、杏子さんの脇腹を肘を小突いたのだった。

「やったじゃない! 杏子も彼のこと大好きでしょ? よかったわね!」


「お母さんたら、やめて~!」

 杏子さんは、真っ赤になっていた。

「自分で告白しようと思ってたのにぃ!」


「お、おれも、もっと、きちんと告白したかった!」

 かっこ良く、ビシッと決めてさ。


「あらよかった! じゃあ両思いなのね! おめでとう杏子! それに、山本くんは未来の息子ね!」


「お母さんたら! 気が早いわよ!」

 今や杏子さんは頭から湯気がたつほど真っ赤になっていた。

「そりゃ、お母さんが賛成してくれるのは嬉しいけどぉ」

「お、おれも」

 やっとのことでそう口にした、おれの顔も、火照っているのが自分でもわかった。耳まで熱い!



 それからも、話ははずんだ。


 とめどない話題。

 学校のこと。

 仕事のこと。

 桃枝さんの仕事先はとても忙しい会社で、やりがいはあるけれど留守がちなのが気に掛かっていることを聞いた。

「少し前から、転職のお誘いを受けているのよ。いいお話なんだけど、迷っていて」

 込み入ったところまで教えてくれたのは、嬉しいけど、おれなんかに話して、いいのだろうか。

「どんなところから?」

「沙織さんの会社なの」

「そうなの。忙しすぎて身体を壊すんじゃないかって、心配してくれてるの。あたしは転職に賛成だな。今のところ、働かせすぎ!」

 転職しないかと誘っている縁で、桃枝さんも4月の花見に招かれ同席していたという。


「そのとき、雅人くんとお父様にも出会っているのよ。会話はしていないけれど」


「そうだったんですか! 驚いたな」


 それから、さらに会話が弾んだ。

 新しいクラスで気になってる友達の話やなんか。スポーツ観戦は好きだけど自分ではどんなスポーツをやったらいいのかわからないという話とか。


「いいんじゃないの、まだ焦って決めなくても」

 あっけらかんとした桃枝さんのアドバイスだった。

「あなたたちは高校に入ったばかり。なんだって試せるのよ。やりたいことがわかるまでいろいろ迷っても悩んでもいいのよ!」


 あ~、こういうの、いいな。

 親父じゃ、話し相手にもなってくれそうにないもんな。

 ぜんぶ自分で決めていいのは嬉しいんだけど、たまにね。

 たま~に、相談とまではいかなくても話を聞いてくれたりする大人がいてくれたらって、ふっと考えることもあるんだ。


 ほんとうの家族って、こういう感じかな?


 ほんわりと幸せを噛みしめていたときだった。

 おれのスマホにメッセージが来た。

 次に、杏子さんの、それから桃枝さんのスマホに。


「充からだ!」

「香織からだわ!」

「沙織さんからだわ」


 文面は少しずつ違っていたが、内容は、ほぼ同じ。

 充と香織さんが、婚約するというのだ!!


「今から、ご両親に、挨拶に行くそうよ!」



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ファンタジーです。別バージョンの、充くんと香織さんも出てきます。

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