第1章 その22 自重してない守護精霊(異世界出身)
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「あ~、ばれちゃった」
遅れて駆けつけてきた伊藤杏子さん。
肩をすくめて、ちょっと笑った。
「香織って、見た目と中身が、ギャップあるんだよね……」
おしとやかな美人の見た目に反して「おれ」っ娘だった香織さん。
いたずらっ子みたいな、余裕の杏子さん。
二人とも、ただ者じゃない。
おれは思わずちょっと笑ってしまった。充に怪我も無くて安心したのだ。
あらためて、充を犬たちから引きはがすのを手伝ってくれた宮倉宗一に礼を言った。
「ありがとう宮倉!」
「いや、そんな。俺は手を貸しただけだ。無事でよかった」
男前な返事をする宮倉。
なんかかっこいいな。口数少ない、男っぽい。同級生だけどアニキみたいな。
「ほんとに。よだれまみれだけどな!」
おれが言うと、周りに居た生徒達は、どっと笑った。
緊張がとけたのだろう。
犬のよだれまみれになった充も、爆笑していた。
笑っていないのは、香織さんだけだ。
それから、香織さんの飼い犬たち。
二頭とも、待てと言われたのを忠実に守り、ぴくりとも動かないで控えている。
「ほんとに、ごめん」
香織さんは、充の額に顔を寄せて囁いた。
充が固まっている。
それは犬に襲われて舐められたからではなく、大好きな香織さんの顔が近づいたせいだろう。だが香織さんは、どう思ったかな。まだ犬に襲われた恐怖が残っていると感じたかもしれない。フォローすべきか?
香織さんは、それから立ち上がり、皆に向き直って、頭を下げた。
深々と。
「校内を騒がせてしまって、本当に、ごめんなさい。うちの飼い犬なんです。これからは絶対にこんなことがないように、厳しくしつけます」
顔を上げた、香織さんは。
すごく申し訳なさそうで、しゅんとしていた。
生徒達は静まりかえっている。
なんと声を発したらいいのか、みな、戸惑っているようすだ。
「だいじょうぶだよ! おれは舐められただけだし!」
声を上げたのは、充だった。
「それに、犬、大好きだから!」
「ありがとう」
香織さんは振り返り、微笑んだ。
うわ。
恋に落ちそうなくらい魅力的な表情。
儚げな、微笑だった。
ちょっとした事件だと思っていたのは、おれだけだったかもしれない。
しばらくすると、救急隊員みたいな白衣に身を包んだ集団がやってきて、充をストレッチャーというのか、病院にあるような……に乗せて走り出したのだ。
救急車がやってきたわけでは、ない。
香織さんと二頭の犬も、充を追って駆けて行く。
「待てよ、充をどこへ」
「大丈夫よ」
スタッフの一人が立ち止まってその場に残った。
白衣を羽織った、二十歳くらいの美人。
日本人離れした、色白でスタイルのいい……
ああ、おれ、なんで今、こんなこと考えてるんだろう。連れて行かれた充のことが心配なのに。
「この学校にはね、医療施設があるの。新入生のあなたたちは、まだ知らなかったかもしれないけど」
防護メガネをはずし、被っていた、白い帽子を脱ぐ。
さらりと、長い髪がこぼれ落ちる。
おれは息を呑んだ。
周囲に詰めかけていた生徒たちも同じだった。
青みを帯びた銀色の長い髪。目の色はアクアマリンのような淡い青、外国の若い女優さんみたいな、ものすごい美少女だったからだ。
えっ、外人!?
「きみとは『初対面』ね。あたしは、『螺堂瑠璃亜』スクールカウンセラーみたいなことをしているわ。新入生のみんなも、よろしくね! 悩み事とかあったらいつでも来て」
流暢な日本語で言うと、にやりと、笑った。




