プロローグ その2 おれと悪友のフォーリンラブ!?
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入学式の会場に着いたのは、時間ギリギリだった。
ああ、なんかめんどくさい。
勉強も好きじゃないし。でも高校も行かないで社会に出るのも、不安だし、っていうかそういうことできるのか?
うだうだ考えているだけで、自分からは何もしない。
高校に入った時点での、おれ、山本雅人は。
要するに、サイテーな怠け者だった。生きる意欲もなかった。
だけど。
桜の木の下で、彼女に出会ったとき。
世界が、変わった。
書き換えられた。
おれは、心の底から、すごく、生きたいと感じた。
伊藤杏子、さん。
杏子。
彼女と、親しくなりたい。
彼女に、ふさわしい人間に、なりたい。
生まれ変わったような、新鮮な、心持ちだった。
「お~い! 雅人ぉ!」
素っ頓狂な声がした。
あの声は、沢口充だ!
近所に住んでいる、おれの幼ななじみにして、腐れ縁の悪友である。
くやしいが顔はいい。ジャ○ーズにいそうなキレイな顔だ。童顔でうっかりすると中学生に間違われることもあるのを少し気にしている。
「雅人! 遅いから来ないかと思ったよ」
「あ、ちょっと道に迷ってた」
「あはははは! 雅人らし~や」
明るく笑った後、充は、真顔になった。
「ところで、どっちが本命?」
「はぁ!?」
「とぼけちゃって。あの二人のことに決まってるだろ。いつの間に、あんなキレイな女子たちと知り合いになったんだよ」
充は本気で憤慨していた。
「雅人が言わないんだったら、先に宣言しとく。オレは、あの、長い髪の女の子が好きだな。だってさ……彼女、すごく、きれいだ」
うっとりした表情で、充が見ているのは。
並河香織だった。
「充より背が高いなぁ」
思わず、一言。
すると充は、
「気にしてんのに。でも、だいじょうぶだ。オレはこれからまだ身長伸びるから!」
と、息巻いた。
やる気があるのが、充の取り柄だな。
「あの子たちとは、さっきそこで出会っただけだよ。彼女は、並河香織さんっていうんだってさ」
「並河…香織、さん」
ぼうっとして、彼女を見つめる、充。
「名前も、すてきだ……」
幼なじみで付き合いは長いけど、おれは充のこんなとこ、初めて見た。
「安心しろ。おれが、いいなって思ってるのは、並河さんと一緒に居る、伊藤杏子さんっていう子だから」
おれの言ってること、充は耳に入っていたか、どうか。それくらい夢中で、彼女の姿をひたすら目で追っているのだ。
これは、あれかも。
充、初恋か!?
まだ、クラス全員が教室に行って、自己紹介をする、っていう重要なイベントが待ち構えているというのに。
おれの悪友の沢口充は、もう、恋に落ちてしまったみたいなのだ。
とはいえ。
おれも、人のことは言えない。
この日、桜の木の下で、すでにおれは、伊藤杏子という少女に、一目惚れしてしまっていたのだから。
今日から、おれたちの高校生活がスタートするのだ!