第1章 その8 エイプリルフールお花見頂上合戦!(8)隠れ家?潜入!
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公園を抜けた先に、平屋の住宅があった。
窓から、あかりが漏れている。
中の声も、漏れてるみたいだ。
おれは充と、そっと近づいた。
犬たちの様子がおかしい。ついてこいというみたいに進んでいく。
裏手の勝手口が、開く。
いま、犬たちが開けたよな?
まあいいか。悩んでいる場合じゃない。
やっぱりただの犬ではなかった『牙』と『夜』に導かれて、おれ山本雅人と、沢口充は、あやしげな平屋の住宅に向かった。
途中で何か怪しげな妖怪だか獣だかみたいなのに襲われかけて、刀を持った少年と双子の少年少女に助けられたのだが、あれはなんだったんだろう。精霊だと自称していた少女の知り合いのような気がする。
……考え込んでる場合ではない。
香織さんの犬(ほんとかよ。ぜったい、なんか猛獣だろ)に導かれて、怪しげな家に侵入しようとしている、おれたちなのだ。
広くはない、平屋の住宅。
空き家になっていたのか? 家具や床に、ほこりが被っている。
台所を通過した。誰もいない。ここしばらくは使用された形跡もないようだ。
しばらく進むと、声が聞こえてきた。
リビングかな?
身体を低く、ほとんど腹ばい状態で進む。
リビング一室だけに灯りがついている。こっち側は暗いのが、隠れているおれたちには助かる。
ソファの後ろに身を隠して、そっと、リビングのようすをうかがった。
※
「おれに触るな! キョウにも触るなっ!」
椅子に縛り付けられている、小さな男の子が叫んでいた。
あれ? 香織さんはどこだ?
いるのは、七、八歳くらいの男の子。
髪は肩より少し長いけど、顔は凜々しいし。強気そうだ。
となりには、同じくらいの歳の、かわいい女の子が縛られてる。
こっちの子はセミロングのボブ。華奢で、妖精みたいだな……バカか、おれ。呑気なことを考えている場合じゃなかった。
「なんだこりゃ」
若い男の声がした。ここからは姿が見えない。
「ほんとに社長令嬢かよ。荒っぽいな。男のガキんちょじゃねえの」
「カノジョにいいとこ見せたくて強情張ってんだろ。ガキのくせに」
別の男の声。
「それはどうでもいい。三億の身代金さえもらえれば、無事に、おうちに帰してあげますよ、お嬢さんたち」
三人目の声がしたとき、なぜだか、背筋が、ゾクっとした。
こいつがボスだ。確信した。
絶対に、やばいヤツだ!
「身代金なんか」
男の子が、吐き捨てるように言った。
「パパが払うもんか! 会社が一番大事なんだ。三億円も払うわけない。ママだって、困ってる人を助けるってボランティアばっかり。二人とも、もう何日も会ってない。おれのことなんか気にしてないんだ。おれは、いなくたっていいんだ!」
本心から、そう思っているみたいだ。
「そんなことないよ! カオちゃん」
少女が、さえぎった。
「子どもを大事に思わないお父さんとお母さんじゃないよ。会ったことあるもん。口に出さなくたって。カオちゃんのこと大切だよ!」
「キョウ……」
男の子は、うつむいて。
再び、顔を上げた。
「おねがいだ。この子は家に帰してあげて。たまたま一緒にいただけで、おれとはなんの関係もない! 巻き添えにしないで!」
振り絞るように、叫んだ。
「なにいってるの! あたしを庇って」
美少女が言いかけたのを、男の声が遮った。
「嘘だね。こっちは、ちゃんと全部調べあげているんだよ」
ボスの声。
「伊藤杏子ちゃんは、きみの親友だろう。並河香織ちゃん?」




