第一話 異世界
「ここか…」
メモした住所を頼りに来たその建物は、一見するとカフェのような外見だが、周りに客もいないし、看板も、店の明かりも付いていない。
よし…入るか…!
意を決して店のドアを押してみる。
カランカラン
「いらっしゃいませー」
明かりも少ない店内に人が居たことに吃驚してしまった。
まぁ、逆に人が居なかったらおかしいけど。
店内はイスとテーブルが一つ、奥に扉しかなく反対側に黒いローブみたいなを着て、顔をフードで隠した男らしき人が座っていた。
「すいません、求人を見つけて来たんですが」
バッグから冊子を取り出す。
「あぁ、ようこそいらっしゃいました。お待ちしておりました、白木臣様」
え、なんで俺の名前を知っているんだ?
「まぁそんな警戒なさらず。では、早速説明に入らせていただきます」
「ちょ、ちょっと待って!急に説明ってどういうこと!」
驚きのあまり初対面の相手なのに敬語ではなくなってしまった。
「紹介遅れました、私はユリアス・ジース」
椅子から立ち上がり、ゆっくりお辞儀をしてきた。
やっぱり、日本人ではなかった。
「そして、白木様がお持ちになっている冊子は、現実世界のものではない、異世界での仕事となっています」
思考が追い付かない。
異世界なんて物語だけの話だと思っていた。
「では、白木様。もう一度説明に…その前に白木様は異世界に行かれるためにこちらにいらしたんですよね?」
「はい。まぁ半信半疑だったんであまり本気ではないというか…」
帰りたい…
「では、説明を聞いていただいて現実世界に残るか、異世界に行くかを決めてください」
俺はゆっくり頷いた。
「説明に入ります。まず、異世界では現実世界の常識はあまり通らないことがあります。もちろん通貨も違います。そういった説明は後程。そして…」
いろいろ話して十分程。
「では、異世界に行った際の特典といいますか、良い条件で異世界に行くことができます」
お、良い条件なら行ってみたい。
俺の気持ちが軽くなった気がした。
「まず、異世界では、スキルというものがあり、魔法もあります。そして、魔物がいて、魔王もいます。そして、生きるために異世界の人々はスキルを駆使して生活しています。そして…」
彼が言う特典というのはこんな感じだった。
・今ここでスキルが授かることができる。
・武器、お金を最低限渡す。
・異世界地図をあげる。
・特別スキルが授けられる。
などだった。
「ではまず、特別スキルを授けます。こちらに手を」
ローブの男、ユリアスは、ローブから一冊の本を出した。
俺が手を置いた瞬間、本が光った。
「はい、これで『アイテムボックス』と『鑑定』のLvMAXで授けました。そしてもう一つのスキルは、白木様の適性に合ったスキルになりますので、ハズレはあまりないのですが、強くないスキルもございます。ではこちらの本に」
もう一冊の本に手を置く。
「はい、ではなんのスキルか調べます。……『影』のスキルですね。こちらは弱くはないですが特別強くはないです。可もなく不可もなくって感じです」
ハズレではないけどアタリではない、微妙だな…
「ではこちらの武器をどうぞ。強いわけではないので、お気を付けを。そしてこちらが500Gです」
麻の袋に入った金色のコイン、これが異世界での通貨らしい。
「それではこちらにいらしてください」
ユリアスが立ち、奥の扉に向かっていく。
俺もそれについていき、ユリアスが扉を開ける。
そこには、おおきな渦があった。
凄すぎて言葉が出なかった。
「最後に質問はございますか」
「えっと、異世界に行った現実世界の人はいるんですか?」
「はい、行った人はいます。ですが誰が、などはお教えできません。それでは、その渦に進んでください」
俺は足を踏み入れた。
視界が歪んでいく。
「あ、わすれていました!一回異世界にいったら戻ってこれませんので!」
え?なんていった?
だが、俺の体は動かなかった。