出会いの日 4
大きく息を吐いてシャロンは椅子から立ち上がり、寝室から出る。
こちらの客室は寝室の隣に来客間がありその奥には暖炉がある。
暖炉の前にはお茶が入れられるように水が用意してあり小さく火がつけられたままだった。
水を火にかけた時に、入口のドアをノックする音が聞こえた。
「カーライル様、皇太子殿下がお越しです。」
「・・・お通しして。」
シャロンが声をかけると扉があき、ピアの姿が現れる。
「部屋に入っても?」
「どうぞ。」
「お前たちは外で待機していろ。」
「はい、御用の際はお声掛けを。」
ピアが部屋に入ると扉がしまり、外の音が遮断された。
「・・・今、お茶を用意いたしますね。」
「無理をしなくていい、体調はどうだ?」
「休ませて頂いたので平気です。お待ちください。」
ピアを来客間の中央にあるソファーに促して、シャロンは暖炉の前へ進む。
お湯が沸くのを待ち、ティーポットに茶葉と湯を入れ、2人分のカップを運ぶ。
「お待たせ致しました。」
カップにお茶を注ぎ、ピアの前へと差し出す。
「・・・うん、シャロンの淹れたお茶はおいしいな。」
「ありがとうございます。」
シャロンは自分の分のお茶を注ぎピアの正面へと座りお茶を飲む。
渋みの少ないさっぱりとしたお茶の味に、上手く淹れられたとシャロンは安心し息をつく。
「先程、ミルトニアを見かけたよ。」
「そう、ですか。」
シャロンはカップを静かに机に置く。
膝の上に軽く置いた手がかすかに震え、震えを悟られない様に上から重ねた手で強く握る。
「元気そうだったよ。」
「それは、宜しゅうございました。」
シャロンは答えながらゆっくり微笑む。
「・・・・・・・・・・・すまない。」
「え・・・・。」
ピアの突然の謝罪にシャロンは戸惑う。
ピアはソファーから立ちあがりシャロンの傍に来るとシャロンの手を取り片膝を床につけた。
「で、殿下っ。何をなさっているのですか、お立ち下さい!」
シャロンは立ち上がりピアを床から立ち上がらせようと手を引っ張る。
「君は、今日は私とミルトニアが出会う日だと気付いていたんだね。」
「っ!」
シャロンの手に力がこもる。
ピアはシャロンの手に額を当てて続ける。
「私が不甲斐ないばかりにまた君を不安にさせた、すまない。」
「いいえっ。私が・・・・、私が勝手に。」
ピアは悪くないという言葉は胸が詰まってシャロンには紡げなかった。
ピアの手から自身の手を引き抜き、ピアに背を向ける。
顔を見せたくなかった。
今の自分はきっと最初の人生と同じ醜い顔をしているのだろう。
嫌われて疎ましく思われていた嫉妬心に支配されていたあの頃と変わらない顔を。
「シャロン。」
ピアは背を向けたままのシャロンを抱きしめる。
「私は、君がこんなにも傷ついているのに・・・嬉しくて仕方がないんだ。」
「・・・・・え」
「これまで君が私のことで心を乱す姿なんて見たことなかった。」
見せない様にしていたのだからとシャロンは思う。
また嫌われるなんて耐えられないから同じ間違いを犯さない様に、必死に隠して。
「でも、今の不安に揺れる君の姿を見て喜びを感じている私がいる。私の心変わりを疑い、心配している君をとても愛しく感じているんだ。」
ピアは抱擁していた腕を解き、シャロンの前へと移った。
「色々な君を見せて。その度、君への愛が深くなるから。」
シャロンの頬を引き寄せ瞳の奥を覗くとシャロンの瞳から涙があふれ出てくる。
ピアは涙を頬に沿って唇で吸い取り、そのままシャロンに口付ける。
「愛することを怖れないで、シャロン。」
ピアの背に腕を回し縋りつくように体を寄せたシャロンをピアは強く抱きしめた。