出会いの日 1
連続投稿しております。前話がスタートです、未読の方はお手数ですが前話からお願いいたします。
室内を照らす明かりと人々のざわめきが空間を満たしている。
おおよそは見知った顔ぶればかりの日常風景。
片手にお酒のグラスを持ち、軽食をつまみ会話に花を咲かせる。
傍らにいるのは幼い頃に決まった婚約者。
不自然でない距離を保っていた、近からず遠からず。
時折、会話を交わすのも怠ってはいけない。
可能な限り、私の方から話しかける回数が多い印象を残さなければ。
気を張って、気を付けて行動を考える。
何度も繰り返してきた作業。
道筋を辿っていけば間違えない。
きっといつもと同じだから—————
「シャロン。」
思考に耽っていたシャロンは名を呼ばれて目の前の現実に引き戻される。
「はい、殿下。」
声の方へ視線を向けたシャロンは、ピアとの距離が思っていたよりも近くて少し身を引きながら返事をする。
ピアは一瞬眉を顰め、シャロンが引いた分の距離を詰めるがシャロンは再び後退する。
「・・・気分でも優れないのか?」
「え・・・、そんなことはございません。」
「そうか?顔色が良くないようだが。」
ピアはシャロンの頬に手を当て上を向かせ、頬を指で撫でる。
「手も冷たい。」
手に添えた手とは反対の手でとったシャロンの手は冷え切っていた。
自らの体温を分けるように軽く握ると、シャロンが身を固くしたのがピアに伝わる。
「し、心配はご無用です。」
小さく笑いながらシャロンはピアの手から逃れ、数歩下がる。
ピアの視線から顔をそむけるように横を向いたシャロンの動きが一点を見つめて止まった。
「シャロン?」
「・・・あ・・。申し訳ありません、殿下。少々疲れているようです。控えの部屋へ下がらせて頂きます。」
目線を俯かせたまま礼をとるシャロンの表情ははっきりとは見えないが口元は笑みを浮かべている。
「そうか・・・。部屋まで送ろう。」
「いいえ、殿下のお手を煩わせるほどではございません。失礼致します。」
もう一度、深く例をとるとシャロンは夜会の広間を後にした。