攻防戦
エンディング後の2人の日常です。
王宮の中庭の人目につきにくい奥にある東屋。
置かれた長椅子に並んで座る10代前半の銀髪の少年と黒髪の少女。
2人は深刻な顔をして話し合っていた。
「もう少し譲歩してくれないだろうか。」
「…いいえ。ピア様は将来この国を背負うお方です。皆の手本となるよう規律を守らねばなりません。」
綺麗な顔に捨てられた子犬のような表情を浮かべ懇願してくるピアに絆されそうになるのを堪えつつ、シャロンは毅然と言葉を返す。ここで許してしまえばズルズルと流されてしまうことは火を見るより明らかだ。
5回分の人生経験により自身の今後とる行動が予想できる。
だからこそ最初が肝心なのだ。
「今一度お考え直しください。」
「考える余裕なんて私にはないんだ…シャロン、やはり君はもう私の事を好いてはくれないのだろうか」
「っ!?何故そうなるのですか…」
シャロンは思わず座っていた長椅子から立ち上がる。
「私はシャロンに会えば嬉しく、気持ちを君に伝えたい。だが、私は君に好かれ続ける自信がない。」
隣に立つシャロンの手をとったピアの手は冷たくて反射的にシャロンの手はビクついた。
「不安、なんだ」
見下ろす形になったシャロンから俯くピアの顔は見えないが声が微かに震えているように聞こえた。
「心が手に入らないなら、身体だけでも繋ぎ止めようとする醜い自分を抑えられない。」
シャロンを掴む手から力が抜け離される。
「身勝手ですまない。」
「ピア様…」
シャロンはピアに近づき解放された手でピアの頭を抱き寄せる。
安心させるように撫でたピアの髪は柔らかく癖になりそうな指通りだった。
「私の言葉が足りないばかりにピア様のお心を乱してしまい申し訳ありません。」
「君が謝る必要はないっ。私が…。」
ピアは顔を埋めるようにシャロンの腰へ腕を回し力を籠める。
「…君を失うのが怖い。」
「ピア様…。大丈夫、私はずっとお側に居ります。」
呟かれた言葉にシャロンはピアの髪に頬をすり寄せ答える。
「想像しただけで狂いそうだ」
「仕方のない方。私が信じられませんか?」
ゆっくりと顔を上げ見上げるピアにシャロンは微笑んだ。
「――愛してるシャロン。」
「…私も、愛してますよ。ピア様。」
腰に回されたピアの腕はシャロンの顔へと伸ひ、引き寄せられ唇が重なった。
すぐに唇は離されたが吐息のかかる距離のまま留まっている。
「もう一度許してくれるだろうか?」
「はい―――」
『何度でも』という続きは言葉に出来なかった。
「ところで殿下は何を譲歩して貰いたかったんだ?」
ピアとシャロンの緊迫した気配を感じ、こっそりと様子を窺っていたロードとカリカは2人が落ち着いたのが見てとるとコノ場所に残り続けても胸焼けがしそうなので早々に立ち去った。
十分離れた所でカリカの疑問が口をつく。
「カリカは今回の発端を知らないんですか?」
「うん、全然。知ってるなら教えろよ、気になるだろ。」
カリカの口調に真剣さが混じっている辺りから、重大な事でもって在ったのか心配しているのだろう。
ロードはそんなカリカに殿下の側近としての成長に頼もしさを覚えながらも、今から言う答えに溜め息が出る。
「殿下はカーライル嬢に口付けで舌を絡める事の許しを請いているのですよ。」
「――はぁ!?くだらなっ。というかあの2人まだソコなのか。」
「ええ、カーライル嬢が『年相応の関係を』と殿下に言い聞かせているようでして。」
「バカバカしい、何かあったのかと心配したじゃないか。」
皇族に対して誉められた口のきき方ではないが、ロードも同じ気持ちなので咎める気はなかった。
「でもカーライル嬢の事だから殿下に流されて今頃、舌絡めてるんじゃないかな~。」
「その顔は止めなさい、下世話ですよ。…ですが、婚姻前に懐妊されると少々問題ですね。お二人に忠告せねば。」
「ロードも人の事言えないよな…」
正しい交際の提案を練る為に早足になったロードを追いかけながら、まぁ、世継ぎの心配はなさそうで良かったと思うカリカだった。
シャロンはあまり変わってないようです。