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1-3「おふたりさま、なのです?」



「腕の角度はそう、そうだ。いいゾーこれ、いい感じだ。コラッ久遠回すのが早い」


 目下教室では竜我自らによる変身シーンの演技指導が行われている。

 もう完全に開き直ってますねコイツ。いや、もともとあの手の寸劇は久遠とやりまくってるので、竜我が『ジャスティサイザー』を書いていることはとっくの昔に周知の事実なんですが。たまに風紀委員の里中達は感想を直接言っていたりしてるし。


「そういやドゥーベ、今日部活はどうするんだ?」


 変身ポーズのまま、くるりと体をこちらに向けて語る竜我。吹き出しそうになるんでやめてほしい。


「おっ竜我、来るのか? 久々じゃん」


「まぁテスト明けだしな」


「あっ! 実は今日シフトあるのですが……」


 途中の妙なポーズのまま振り返って申し訳なさそうに久遠が言ってくる。ベストキッドかよ、そんな描写あったっけ?


「月曜に? 珍しくね?」


 久遠のシフトは水、金、土と日曜の隔週だったはず。


「なんか秋山さんに連絡がつかないらしくて、その代わり」


「秋山さんって……? 誰だっけ?」


「マリンさんだよ」


「あぁー」


 聞いといてあれだけど、これって聞いてよかったんだろうか?


「あの真面目系の人が休みなんて珍しい」


「確かに、そうだね。私がバイトしてから初めてのことかもしれない」


「まぁとにかく、久遠がバイトってことは」


「第二部室」


 なにやら、メールを打ちながら竜我が言った。他の部員に連絡してくれてるんだろうか。


「だな」




「カランコロンカラン」


 初夏の時分だからか扉が開けっ放しになっていた、かわりに僕はドアベルの声真似をしながら喫茶店に入る。

 ダークブラウンで統一されたモダン調の店内には、会話の邪魔にならない音量でクラシカルなジャズが流れていた。

この喫茶店「すらんばー」は我らが幼馴染み皆川アリオの父、皆川万里が経営している。そのため幼少の頃から僕たちのたまり場になっていた、高校生となった今では文芸部の第二部室(非公式)として売り上げに貢献している。


「へいらっしゃい!」


 パツキン角刈り鉢巻きにエプロン姿。見ただけ食欲が失せると評判の男、皆川アリオが景気のいい声で僕を出迎えてくれた。

 相変わらずの雰囲気をぶち壊す接客態度。いや、悪くはないんだけどさ。


 皆川アリオ 筋肉自慢の喫茶店員

 連載作品「カフェシエスタ異世界支店へようこそ」 

 総文字数;323、928文字 話数:82話

 ブクマ数;26、468


 日に焼けた肌が無意味に鉢巻きの白に映える。こいつがアメリカ人のハーフなのは明らかにハーフの無駄遣いだ。一時すらんばーの経営が傾いたのはこいつが手伝い始めたからじゃないか?と僕たちは勝手に思っている。

 僕や竜我が「小説神になろう」で連載しているのを見て、じゃあ俺もと投稿し始めた第一作がいきなり大ヒット。書籍化の打診もすでに受けており、将来は作家になるとかのたまっている。いや、確かに僕と竜我でいろいろアドバイスしたけど、まさかここまで伸びるとは。


「ドゥーベ、今日は新鮮ないいのが入ったんだ。一つどうだい?」


「じゃあ、ブリとカンパチ」


「うちは寿司屋じゃねぇっ!」


「お前が言っちゃうんだ!?」


 見た目からいっても確信犯だろ。


「月曜に来るなんて珍しいじゃねぇか、文芸部はどうしたんだい?」


「いやー、久遠にヘルプが入ったらしくてさ」


「あーなるほど。また黒服の出番ってわけか?」


「その言い方は好きじゃないんだけど」


 まるで久遠が水商売をやっているみたいじゃないか。

 それは久遠にも、そして彼女が働いているメイド喫茶『ラセット・バーバンク』にも失礼に当たると思う。バイトあがりには僕が必ず迎えに行くという決まりはあくまで念のため、というか久遠の父親を安心させるためのものだ。


「んまぁいいや。レン、いつもの暇人だ」


 そういってアリオが隣の空間に話かける。この視点からみると完全にエア友達に話しかけてる痛い奴にしか見えない。


「うんしょ、うんしょ」


 しばらく後、カウンターの切れ目からテトテトと金髪碧眼の幼女が歩いてきた。お盆に使い捨ての手拭きと水の入ったコップを二つづつ。お下げと共にそれらを左右に揺らしている。

 この子の名前は皆川レン。

信じられないことに皆川アリオの妹である。確か小学校4年生になったはずだ。この暑苦しさのかたまり肉みたいな男に、かわいらしさの化身みたいな妹がいるなんて。世の中の理不尽さを感じずにはいられない。

 そういえばレンちゃんが手伝い初めた頃から経営が改善したらしいし、やっぱりアリオが原因じゃないか?


「おふたりさま、なのです?」


 ちなみにこの口癖はお客さんと喋る時は「です」を付けるといいよ。と僕が教えたら定着した。グッジョブ僕!


「そうだよー、レンちゃん。でも、他のひとも後でくるかもしれないから、いつものボックス席にしてもらえるかな?」


「おきゃくさまはお煙草をおすいになられますです?」


「なられません」


「わかりましたのです、こちらのおせきにどうぞなのです」


 そういって文芸部でいつも使っている(占拠している)奥の席へ僕たちを案内してくれた。その時、竜我が廉の後ろに続いていた僕を追い越して、レンからお盆を取り上げる。


「レンには大変だろう」


 片手でお盆を持ち、もう片方で眼鏡をあげる。この仕草って傍から見るとここまで痛いんだ。


「……ふえくださん、レンのおしごとをとらないでくださいのです」


 レンはぶすっとした表情で、竜我を見つめる。いや、眉根にしわを寄せているから睨んでいるつもりなのかも。


「す、すまない……」


「事案発生、事案発生。K県K市喫茶店内にて声掛け等、女児誘拐未遂の疑い、捜査本部応答願います。どうぞ」


「こちら捜査本部。被疑者は重度女児性愛患者のため、発砲は全面的に許可する。射殺して構わん。むしろ殺せ。どうぞ」


 ロリコンダメ絶対。


「そんな法律はないっ!」


「……なんのはなしをしているですか?」



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