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1-2「「俺が正義だ!」」



「ポチっとなっと」


 スマートフォンのディスプレイに表示される『投稿完了』の文字。それは今この瞬間に僕の執筆している学園コメディ小説「FORVER7」の記念すべき第500話目が投稿されたことを表していた。

 そのことに対する実感が喜びとなって湧き上がり、そして――


「よっしゃーっ! みたか久遠に竜我! 僕はついに、ついに。前人未到の偉業を成し遂げました!」


 昼休みの教室に轟く、叫びとして爆発した。


 (くま)(どう) (ほとり) 超高校生クラスの底辺作家

 連載作品「FOREVER7」 

 総文字数;2、010、236文字 話数:500話

 ブクマ数;7


 クラスメイト達のどこか冷ややかな視線に囲まれる中


「おー」


 パチパチという寂しい拍手と気の抜けた賞賛の声で迎えてくれたのは、我が親愛なる幼馴染。米良久遠。

 彼女は決して祝福する意思がないとかではない。もともとすべてのものに対しておっとりしてる、というか鈍いのだ。言動のゆるさやドジっ子体質。全く、色々ふくよかな美少女じゃなければ、許されないキャラクターですよ。全く。

 ちょっとだけぼさついた茶髪のショートヘアー、クリリとした大きな瞳。本人曰く、体のラインを隠すために羽織っているダボダボのピンクパーカーは、ある種彼女のトレードマークになっている。


「前人未到かどうかは調べてみないとわからんだろう……だがまぁ確かに、一桁のブクマ数でそれだけ長い間連載を続けたことは偉業と呼べるかもしれんが」


 呆れた声で僕の超偉業を認めたのは伊達眼鏡のインテリ気取り。笛管竜我。


笛管竜我 伊達インテリの正義漢

連載作品「絶対正義ジャスティサイザ―」 

総文字数;671、467文字 話数:132話

ブクマ数;3、687


 こいつは事あるごとに黒縁眼鏡をクイッと挙げるが別に癖というわけではなく、キャラ付けの一環だ。思い出したかのようにこのしぐさをするのは、知っている側からすると非常に面白い。


「いやいや、ブクマ数と連載期間は関係ないでしょ」


「モチベ―ションの問題だ。なぜたった7のブクマで執筆意欲が湧く? 理解できん」


「たった7、されど7ですよ」


「半分近く身内だろ」


「ぐ、ぐぬぬ」


 そうなのだ。

ブックマーク7つの内、3つは目の前の久遠と竜我、今学食にいるはずの皆川アリオが占めている。みんなの厚い友情には涙を禁じ得ない。

 ちなみに我らが南佐土(なざと)高校文芸部には「部員の作品に対してブクマをしてはいけない」という規則があるが。そこに「熊道辺は例外」という文言が足されたときは流石に泣きそうになった。


「それより、それより。今日のドゥーベのおかずはー?」


 ドゥーベというのは僕のあだ名である。由来は久遠に初めてあった時に熊道 辺をくま、みちべと呼んだので「みちはどうって読むんだよ」と教えたことだ。


「おかず以下の僕の小説って……」


 そういって僕はリュックから二段重ねの弁当の他に、少し大きめのタッパを取り出す。


「卵焼きです。だし巻き」


「おぉー!」


「なんだとっ!」


 さっきより明らかにテンションの高い久遠。それに驚愕する竜我。

毎日恒例となっている僕のおかずプラスワン。これはもともと4年前に父親がリストラされてしまった久遠の為に持ってきていたものだったが。再就職して余裕のできた今になってもだらだらと続いている。


「ドゥーベさんにはいつも世話になってます」


 そう言って卵焼きを一つ、茶色い弁当の上に乗せる。弁当箱は彼女の好きなピンクで統一されているが、中身はから揚げ、ハンバーグ、生姜焼きとなけなしの野菜。それらが通常の2倍サイズの弁当箱にぎっしり詰まっている様は圧巻の一言だ。彼女がかわいさを求めるのはどうやら外側だけらしい。


「だし巻き……甘い奴か?」


 ワンテンポ遅れて眼鏡をクイッ。


「お前から向かって右半分が蜂蜜入り、左半分が白だし多め」


「一切れよこせ!」


「等価交換だ」


 パンと両手を合わせて言った。


「ぐっ致し方無い、俺のフィレカツを一切れ進呈しよう」


 竜我はフィレカツをタッパの上に乗せ、代わりに蜂蜜入りのだし巻きを一つ取っていった。


「それにしてもドゥーベの『FOEVER7』もついに500話かぁ」


「ふっふっふっ、僕はこれでもあのサイトの名前が変わる前から連載していますから」


 僕や竜我が自作小説を投稿している小説投稿サイト「小説神になろう」は、元々あったとある小説投稿サイトを母体として運営されている。なんでも、そのサイトがジャンル再編を行った際、人気のある作家さんが別のサイトに移ってしまい経営不振に陥ってしまったらしい。その結果外資系企業が買収。再編を行い、新時代小説投稿サイト「小説神になろう」として再スタートをきったそうだ。

 それが確か4年……いや年明けとほぼ同時だったから、三年半前のはず。

 

新しいランキングシステムや非公式作家グールプと副アカウントへの完全対策、スマートフォン専用公式アプリケーションの開発と数々の革新を行ってユーザーの数を2倍以上に増やしたとか。


「よく同じ年を4回も繰り返して書くネタが尽きないな。日記でもつけてたのか?」


「目を閉じれば思い出す、色あせないあの大切な日々。それが『FOEVER7』ですよ」


 おいしそうに卵焼きを頬張る竜我に向かってサムズアップ。そんな僕のキメ顔に呆れた声で竜我が言う。


「……痛々しいセリフをつらつらと」


「いやいや、痛々しさなら竜我のジャスティサイザーには勝てないって。ねぇ久遠さん」


 ピシリ、と竜我の眼鏡が軋む音が聞こえた気がした。これって聞こえるもんなんだ。


「確かに確かに、大体、名前からしてもう既におかしいですよねー。ドゥーベさん」


「外道が蔓延り、荒廃極まるこの町は」


 僕は両腕を斜めに上げてゆっくりと時計回りに回す。


「弱きものは虐げられ、強きものは悪へと染まる」


 今度は久遠が同じように半時計に回し始めた。


「この地は神に見放され、民にももはや力はない」


「ならば正義はどこにある?」


「決まってる!」


 クロスッ!


「「俺が正義だ!」」


 そしてスラッシュっ!


「「正・義・執・行 ジャスティサイザー見・参!」」


 完全に決まった。

 僕の脳内には日曜朝7時45分、採石場での爆発がフラッシュバックしている。お察しの通り、これは竜我がの執筆する小説「絶対正義ジャスティサイザー」の変身シーンだ。


「お前らぁっ!」


 激昂を露にする竜我にそれを見て朗らかに笑う久遠と僕、いつものことと気にしないクラスメイト。

 それが代わり映えのない大切な僕の日常だった。


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