1-1「四年ぶり……だね。お兄ちゃん」
黒く染まった満月。
白で満たされた夜空。
色の奪われた閑静な住宅街で
字数200万字オーバー、ブクマ数7の超底辺作家の僕と
無数の弾丸に穿たれ、ピンクのパーカーを鮮血で真っ赤に彩った幼馴染は
天空を舞う魔法少女に、アサルトライフルを突き付けられています。
―――ってヤバい、ヤバい、ヤバい!
僕の人生こんなんじゃなかっただろ! なんで!? どうして!? 何でこうなったんだよ!
こんな今時ありきたりの、何番煎じだって感じのバイオレンスな魔法少女なんて僕は求めてないんだよ!
違うだろ!
僕の日常はゆるふわかわいい幼馴染とか、伊達眼鏡のインテリ気取りとか
筋肉自慢のカフェ店員、中二病のヘタレ野郎みたいな、どこにでもいるキャラクターで繰り広げられる学園コメディーだったろ!
一体僕が何をしたっていうんだよ! こんな、こんなっ!
これは現実じゃない、そう思いたい心を生温かい血に濡れた感触が否定する。抱えている彼女の温もりは徐々に、だが確実に失われていく。
「僕……は」
僕は、また取りこぼすのか? 繋ぎ止めたいって、失いたくないって心の底から願っているものをなくしてしまうのか?
「僕は……」
いやだ
いやだ、いやだ、いやだっ!
理不尽な現実への拒絶が、この心を満たしていく。肺に侵入する濁った海水とその水面に浮かぶ、幾束の藁。腕を伸ばしたところで届きはしない。だから――
「俺はっ!」
だから何だ?
そんなことはもう知ってる。望むものには手が届かない、いくら足掻いても沈むのが少し遅くなるだけだ。水面にたどり着くことは“永遠”にない。知ってるよ、それが過去で現実なんだろ。4年も前に学習済みなんだよ、んなことは。
それでも!
かつて輝いていたあの日常、もうこれ以上、何人たりとも穢させはしない。たとえそれが決して手の届くことのない、空想の存在であったとしても!
「こんな現実、絶対に認めねぇーーっ!」
絶叫が真っ白な宵の空に溶けていく、魂の慟哭が空間に、この空に、モノクロの世界の全てに反響した。
そして――
――――ようやく、繋がったようじゃな――――
声が、聞こえた。
どこか古めかしさを感じる少女の言葉。
――――目覚めろ“永遠”、手を伸ばせ。今なら届くぞ、水面の藁に――――
脳裏によぎったその姿は穢れなき白髪、怜悧な紅い瞳、纏う衣は白綿金糸の神御衣。
――――お前の奇跡はすぐそこにある――――
余りにも浮世離れしたその姿に一瞬あっけにとられてしまう。だが、次の瞬間。
――ピィコン
地面に落ちていたスマートフォンから、余りにもこの場にそぐわない通知音が一つ。
そしてそこから極光が溢れ出した!
強烈なその光に思わず目を閉じてしまう。だが激しくもどこか柔らかな輝きは、瞼を閉じてもはっきりと感じられる。やがて光が収まっていくと、そこにいたのは――
白夜に煌めく漆黒のワンピースに包まれた、どこまでも透き通る白磁の肌。
にも関わらずモノクロのこの世界には決して染まらない少女。彼女はそのことを示すかのように、ふわりとしたかろやかな歩みで世界へ色を取り戻していく。
僕はそのあどけない顔だちを
華奢な体躯を
艶やかな黒髪を
そう、この少女のことを
誰よりも深く知っていた。
「アル……カ?」
「四年ぶり……だね。お兄ちゃん」
かつて死んだ妹が、僕を見つめて、悲しく、笑った。
失われたはずの七人目が舞い戻り、終わらない物語はエンディングへと加速する。
第一章『FOREVER 7』