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一ヶ月戦記  作者: 岩魚町
2/2

輝かしき少女


【全知の書】


そう書かれていた

赤のインクでただそれだけ

普通に考えてタイトルだろう

なら次のページに何かしら書いているのか


警戒しつつもパラリと1ページめくる



真っ白

驚くべき白さ


インクの染みも汚れも稀に紙に入ってる不純物も何もない


次のページも次のページもまた次も次も

最初のタイトル以外全てのページが真っ白だ

どんなにしっかり見ても何も書いていない

利九はなぜこんなものを俺に?

なにか意味があるのだとしてもこんな本、気持ち悪い


「と、取り敢えず置いておこう…」


次だ次

気を取り直して次のものを見よう。なにかヒントがあるかもしれない


リュックの中に手を突っ込んで中身を次々地面に並べていく


水の入ったペットボトルとカロリーメインとサバイバルセット

見たことのない硬貨が入った袋にめんこいちゃんゼリー一袋

あと俺が羽織っている赤いコートと白い本


取り敢えず食糧については問題ないが根本的な問題は解決していない

まずこの世界はなんなのか

そしてこのあとどうすれば良いか

この2つだ


「だぁぁあ!なんなんだよマジで!どこなんだよここ!どうすれば良いんだよ!」


ばたりと草の生えた地面に倒れこむ

何も変わらないじゃないか

昔よく虫取りや秘密基地作りで遊んだ森となんら変わらない、ただの森

ここが異世界という実感がわかない

本当にここは異世界なのだろうか


「つーかこんな本はなんの役に立つんだ?燃やすぐらいしかないだろ」


寝転びながら白い本に手を伸ばす


「んーと、なんか書いてたりしてーなんてな」

異世界なら魔法か何かがあるだろ

魔法か何かで何か変化があるかもしれないし

どうせ何もないんだろうけど

開いたページにはやはり何も書いていない

先ほどと変わらない白


じゃない

赤色の文字が書いてある


『チャルチ国西クワク森』

と真っ白なページに1行書かれていた

チャルチ国?いやそうじゃない

なぜ突然文字が現れたんだ

全てのページは何も書かれていなかったはずなのに


「なんだよ、これ」


気味が悪い

こんなもの捨ててしまおうか…

すると本はカリカリカリと音を立てながら『私は全知の書この世の全てを知る本』と一文字ずつ書き込まれてゆく


「うわぁ!?」


思わず本を手放し立ち上がる


なんだこれは

何もしていないのに字が勝手に書き込まれる本

ますます気味が悪い


気味が悪いがなんとなく察せるものがある


この本はもしかしたら俺の発言した疑問に答えているのではないか

俺が「なんだよこれ」と発言したとたん本は『私は全知の書』と書き込んでいた

その前にもここはどこだと言ったと思う

だから本はそれに答え今いる場所を記した


だとしたこの本は使えるのでは?!


突然異世界に送り込まれ1人だった俺に一筋の光が見えた

突然強い味方が増えたような気分だ

しばらくの間は話し相手にでもなるだろう。本だけど


早速本を拾い上げ一番気になることを質問した


「えー、この世界は異世界デスカ?」


本は今までの答えの次の行に一文字ずつ記す

やはりこれは俺の質問に答えるのか


『此処は春彦の世界とは違う世界』


「な、なんで俺の名前を知ってるんだ」


『春彦は私の所有者』


所有者…?

持ち主ってことか

利九がそうしたのだろうか


「そうだ、利九って何者なんだ?」



あれ、反応がない

一文字も書かれない

聞こえなかったのだろうか


「おい、利九って何者なんだ」


どんなに見ても何も書かれない


「答えられないのか?」


数十秒まってようやく一文字目が書かれる


『禁じられている』


なるほど

知ってはいるが答えられないのか

利九、お前は一体何者なんだよ

禁じられていると言うことはそれほどの人物なのか?


「あー…まぁ良いや、俺はこの後どうすれば良い」


今度は数秒の空白もなくスラスラと答えた


『未来を知ることはできない。私は過去のみを知り、記す』


どうやら全知の書というとは万能ではないらしい

それに今までの回答がそのまま残っている。答えは有限ということだ

ページ数もそれ程多いわけでもないから、節約しよう


ふと本から目を話すと周りには無駄に散らかした荷物が散乱している


…片付けるか


リュックを手に取り地面に置いた荷物と転がったペットボトルを適当に放り込んでいく

この後使うかもしれないから本は一番上に詰め込んだ


この後どうしたら良いのだろうか

取り敢えず、ここはどこかの国の森らしいから歩いていればいずれ抜けられるだろう



「んじゃ、行って見ますかねーぇ」


重いリュックを背負い方角を確かめる

方角を知るには苔を利用する

苔は日当たりの良いところを嫌うので日の当たる南側には生息しないのだ

これは前に科学の教師、松山が教えてくれたものだ

まさか役に立つとは思わなかった


俺は周囲の木をぐるぐると見て回る

周囲には多くの木が生えていたため苔を探すのに苦労はしなかった

それらの木には微かながらも緑色の苔が生えていた


「と言うことはこっちが北か」


なら西に行こう

理由はないが野生の感がそう言っている


サクサクと短な草を踏みながら俺は西に歩みを進めた


目が覚めたあの場所から100メートルほど進んだところだろうか、先程から何かが付いてきている気がする

というか明らかに足音がずっと付いてきている


俺が足を早めれば足音も早まり、俺が止まればその足音も止まる

付いてきているのは明らかな人間

盗賊や追い剥ぎならば明らかに丸腰な人間には容赦なく襲いかかるはず


なら誰なんだ?

声、かけてみようか…

正直怖いがこのままずっと付いて来られる方が怖い


意を決して俺は足を止めすぐさま足音のがする方を振り返る


「…な、何の用だ」


誰もいない

付いてきた足音も聞こえない

ただ自分のやけにうるさい鼓動と呼吸音が耳につく


サク


地面の草を踏む音が微かに聞こえた

居る

目の前のやや太い木の向こうに

俺は格闘技は習ったことはないが、漫画で見た柔道の何かの構えをする

多少の威嚇にはなる、と思う


「そこに居るのは分かってる。出てこい!」


数秒の時間が過ぎ、足音の主は観念したかのように木の幹からゆっくりと姿を現した



「ーーッ」


俺は思わず息を飲んだ


幹から現れたのは絵に描いたような美しい少女だった


歳は18歳ほど

透き通った肌は太陽の光を吸収しキラキラと輝き、洋紅色の髪は肩より上で切りそろえられ風でしなやかになびいている

絶世の美女、と言っても良いかもしれない

服はといえば、よくゲームの女キャラが着るようなファンタジー感溢れる、露出が多いゆったりとしたものだ


もう男なら誰でも魅了されてしまうだろう

もちろん俺もそうだ、というか既に魅了されている


今までに無いくらい心臓が高鳴り口から飛び出そうだ

そんな俺は少女に話しかけられているのにも気づかず、ただ呆然と少女を見つめていた


「ねぇ!聞いてるの?」


「ーっは、え!?ナ、ナンデスカ!?」


気づくと少女は俺の目の前に立っていた

近くで見てより分かる少女の美しさはまるで天使の様に思えた


「何って、さっきから言ってるじゃない」


少女は少しムクれて話す


「あ、いやゴメン、聞いてなかった」


もう、と言った表情で俺を指差す


「君は誰なの?」


「え、俺は…春彦」


「そうハルヒコね、じゃあハルって呼ぶね」


初めて会ったのにあだ名で呼ぶのか

いや、まぁ嬉しいけど


「えっと君は誰なんだ?」


「私はソフィー・エルカー」


ソフィーちゃんか…やっぱり日本人ではないんだな


「ソフィーちゃんはさ、なんで俺の後をつけたんだ?」


「怪しかったからよ」


「怪しいって、俺ただ歩いてただけだぞ?なにが怪しいんだ」


「だってセドの書に向かって話しているのよ?これのどこが怪しくないって言うの?」


セドの書ってなんだ?

俺は全知の書に色々質問はしていたが

もしや全知の書の正式名称か?

いや待て、もしそうなら


「えっとソフィーちゃんは、そのどの場面から俺を見てたんだ?」


「んーハルがそのローブを来始めたところから」


ローブ、この赤い服のことか

ん?じゃあ結構前から見ていたのか!?

そりゃ怪しいよな、荷物散らかすは本に話しかけるは、怪しくない方がおかしいよ


「ごめん、でも俺全く怪しくないからな!決して危ないやつじゃないから!」


「そうなの?じゃあ良いわ」


「え?」


「どうしたの?」


「いやだって俺のこと今まで怪しいと思ってたんだよな?そんな奴の言葉そんなすぐ信じるの?」


「ハルが怪しくないって、危なくないって言ったから、私もそうなんだーって思ったのよ」


「…そ、そっかありがとう、信じてくれて」


マジか

この子人を疑うことを知らないのか?

そもそも怪しい奴のことをあだ名で呼ぶか?普通

俺としてはありがたいが


「ねぇ、ハルの持ってる本ってゾムの書よね?見せてくれない?」


「あぁ良いけど」


リュックを地面に置き一番上に仕舞った全知の書もといゾムの書を手に取る


…あれ

あの時みた全知の書は表紙と中身が全て真っ白で、タイトルと質問の答え以外書いていないはずなのに、白い拍子には見たことの無い文字で【ゾムの書】と大きく書かれている


なんか、こんなとんでも現象に慣れて来た気がする

今なら幽霊が出て来ても驚かないかもしれない


「ゾムの書?ってこれだよね」


手に取った本の表紙ををソフィーに見える形でわたす


「そうそれ!」


ソフィーは俺の手からゾムの書を受け取りパラパラと中を確認していく


「やっぱりなにも書いていないわね。私のもなにも書いていないのよ」


パタンと表紙を閉じ俺に返却する


「ソフィーちゃんもこれ持ってるのか?」


「うん、私も持ってるの。でも色が青でハルのとは違う」


「じゃあこれ以外の色の本もあるのか?」


ソフィーはすこし不思議な顔を浮かべる

…かわいい


「当たり前よ、ハナの人数は8人なんだから8色あるわ。まさかハルは知らないの?」


「ハナ」とはなんだ?花?植物か?

それともこの世界では重要な何かか?

また知らない単語が出て来たな

あとで誰も居ないところで本に聞いてみるか


それよりこの世界の当たり前を俺は知らない

これ以上不審がられないために何か言わなければ


「えーとごめん、俺は、その…田舎から来たから学がほとんど無いんだ」


苦し紛れの嘘

俺はこの世界に来て初めて嘘をついた

ふーん、とソフィーは顎に手を当てて考える素振りをする

しばらく考えるとあ!と声をあげパチンと手を叩きこんな提案をした


「じゃあ私が教えてあげるわ!」


「え?」


信じたのか俺の嘘を

この子やっぱり人を信じすぎている

人の裏というものを知らないのか?


いや、ん?教えてあげるって、教えて、あげる?あげる?


「お、俺に?ソフィーが?教えてくれる、の?」


「ダメ、だったかな」


これはチャンスだ

絶世の美女とも言えるソフィーに手取り足取り教えてもらえる!

もしかしたらそこから芽生える恋が芽生えちゃったりなんかして!

今まで女っ気がなかった俺に、ついに来ましたよ!

こんなチャンス逃してたまるか


「いいいやいや、是非ともご教授願いたい!」


「ホント?」


「うんうん、本当だって!ありがとう」


ソフィーは輝かしいほどの笑顔で俺の手を取る


「…っ!」


ソフィーの手は柔らかく細い、まさに女性の手そのものだった

やっと落ち着いてきた心臓がまたドクンと大きく脈打つのがわかる


「じゃあここよりも街に出ましょ!話はそれから」


クイっと軽く俺の手を引っ張り、俺の来た方向、つまり東へむかう

西じゃなかったのか


「ちなみにこっちの方ってなにがあるか分かる?」


「そっちは大きな渓谷があって通れないわ」


ソフィーは俺の手を引きながら答える

なるほど、俺には一切野生の勘はないな

というか方角くらい本に聞けばよかったのでは、と今更ながら思う


それから俺は、街につくまでソフィーに手を引かれこの世界の伝承を聞いた


それは漫画やゲームの、いかにもファンタジーにでてくる信じがたい話だった

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