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本気で好きなら…

「優梨愛―!昨日は楽しかった?遅刻しちゃったけど大丈夫だったの?」

「うん!すごい楽しかったよ。遅刻しちゃったのに先輩方すごく優しかったんだよね。」

「そっかーよかったね!バイト先で飲み会とか羨ましいなあ。」


 翌日、みんなから昨日のことを聞かれて思わずにやけてしまう。本当に楽しかったし嬉しいことがたくさんあった。七夕の願い事も叶っちゃったし。


私がそんなことを考えていると、有紀がからかうような口調で言った。


「優梨愛、お前絶対バイト先に好きなやついるだろ?」


 えええ!みんなが一斉にどよめく。私は慌てて首を横に振ったが、有紀はさらに言葉をつづけた。


「優梨愛すぐに顔にでるから分かるんだよなー、嘘ついても無駄。普通ならそんなふうにニヤついたりしてねーもんな。」

「あー確かに!それはちょっと思った。ていうか優梨愛、バイト始めてからなんかかわいくなったもん。化粧とかうまくなったし。やっぱ好きな人意識したりしてんの?」

「それなー!優梨愛、最近女の子っぽくなったよね。で、本当のとこどうなの?優梨愛さん?」


 放課後の講義室、みんなから問い詰められた私は、仕方なく素直に白状した。


「う、うん。いるよ。好きな人。なんでみんな分かっちゃうのかな~。」


私が言い終わた瞬間、ふええい!とみんながよくわからないテンションで叫ぶ。もうなんなのよ、みんなこういう話になると途端に喜ぶんだから…。


「優梨愛にもついに恋の訪れが!よし、もう少しその話詳しく聞こうか。」


 有紀の提案に賛成の声が上がる。


「そうしよう!ねえ、今日はお昼みんなばらばらだったから、そのぶんってことで優梨愛の話聞きながらお菓子パーティーしよう!」

「いいね!大賛成だよ!よし、食堂前のコンビニ行こうか。」


行こう行こーう、と言ってみんなはさっさと歩き出してしまった。ちょっと待ってよ!あたしの意見一つも聞いてないじゃん…そう思いながらも、私は仕方なくみんなの後について行った。



「まず、いつからその人のこと気になりはじめたの?」

「え、そんなとこから話すの?」


 私がたじろぐと、みんなが野次を飛ばした。


「いいから早く言ってよ!」

「そうそう!初めが肝心なんだから。」


 もう、しょうがないな…私は少し顔が熱くなるのを感じながら話し始めた。


「最初は、ただの憧れだったんだと思う。人として、すごく尊敬できる人だなって思ってた。

 おまけにすごくかっこよくて、優しくて。見た目も性格も完璧な人だなって、少し遠くから見てたの。

 けど、バイトで仕事していくうちに、話す機会も増えて、一緒にいれる時間も長くなって、バイトが楽しみで仕方なくなって、昨日の飲み会でもすごく仲良くなれて…。

 あんなに遠くに感じていた人が、最近、一気に近くに感じれるようになったの。それで、憧れなんかじゃなくて、これはもしかしたら恋なんじゃないかって、思うようになって…。」


 最初は茶化してただけだったみんなが、すごく真剣な顔をして私の話を聞いていた。なにみんな、急にどうしたの?茶化されるより恥ずかしいんだけど…。


「優梨愛、もうそれ、確実に恋だよ。」


 夢美が言った一言にみんなが頷く。


「いいなー。そういうときめいてる時がいちばん幸せなんだよね!片思いしてる時がいちばん楽しいってよく言うじゃん。」


有紀がそう言いながらイヒヒっと笑った。


「いいな~うちも恋してえ!」

「いや、有紀この前彼氏いるって言ってたじゃん!」


そうだったーと言って有紀は持っていたポッキーを口の中に入れた。でもしゃあ、有紀は口をもぐもぐさせながら話を続けた。


「うちの彼氏、もともと友達だったからそんなときめくなんてこと経験してねーんだよなあ。ただ、一緒にいて楽しかったから付き合うかってなっただけで。今も友達みたいな感じだし。」

「そうなんだ。でもあたしは有紀みたいなカップル憧れちゃうな。友達みたいってことは、好きな人のことをお互いがすぐ近くに感じれるってことじゃん?あたしなんてまだ笹野さんのことまだ全然知らないし、頻繁に会えるわけじゃないし…。」

「ほう、優梨愛の好きな人は笹野さんというのか。」

「これは見に行かねばなりませんね。」

「今度3人で優梨愛のバイト先行くか!笹野さん拝みに行こう。」

「ちょ、ちょっとやめてよ恥ずかしいから勘弁して!」


 私がみんなの勝手な計画を阻止しようとしたところで、夕方の5時を知らせるチャイムが鳴った。


「やべえ、うち今日6時からバイトだからもう帰るわ。また明日な!」

「夢美も今日はサークルあるから帰るね!みんなバイバーイ。」


 私と絢は、帰っていく2人に手を振った。2人になっちゃったね、と私が話しかけると、絢は少しはにかみながら口を開いた。


「ねえ優梨愛、この後時間ある?…もしよかったら一緒に夜ご飯食べに行かないかな。私も話聞いてもらいたいことがあって…その…恋愛のことで。」


 え?私は思わず目を見開いた。少し緊張した絢の目が私をとらえる。そして私は、うん!と返事をした。


「時間あるよ!行こう行こう。」

「よかった、ありがとう!近くのファミレスでいい?ここから歩いて5分くらいでつくから。」

「オッケー!」


 私の返事に、絢は嬉しそうにうなずいた。私と絢は、もうすっかり人気のなくなった食堂を後にし、ファミレスへと向かった。



 絢は、私が知っている友達の中でいちばんと言っていいほどの美人だ。長いサラサラの髪に大きな目をした彼女は、入学当初から周りの注目を浴びていた。


サバサバしていてクールな性格をしている彼女は、私たちの姉御のような存在だ。男勝りな有紀に、おっとりしている夢美、そしておどおどしている私を支えてくれている。


思えばそんな絢と2人で食事なんてしたことがなかった。しかも絢から恋の相談なんてびっくりだよ…。


私は嬉しいような、緊張するような気持ちでファミレスの一席に腰を下ろした。


「あんまり、おなかすいてないね。」


 絢は少しぎこちなくそう言ってメニューを見た。絢…緊張してる。かわいいとこあるじゃん。私は絢に気づかれないように微笑みながらメニューを見た。


そして、2人でブリケッタを半分ずつ頼み、ドリンクバーをつけたところで話を始めた。


「絢から話していいよ?私はさっきみんなに聞いてもらったし。」

「うん。ありがとう…あたしも今、好きな人がいるの。こ、高校のときの同級生で、この前たまたま駅で再会したの。少し話したらすごいく楽しくて、それで別れる時に連絡先も交換した。」

「高校の時の同級生なんだ!昔から仲良かったの?それにもう連絡先まで交換したなんてすごいじゃん。」


 私が素直に感想を言うと、絢はカフェオレを飲みながら首を振った。


「仲良くなんかなかったよ。ただ、ほんとにいい人で、真面目で優しくて、ずっとそんな彼に憧れてた。それが、突然あっちから連絡先交換してなんて言われて、毎日LINEしてるなんて自分でも信じられない。それに昨日、夏休みに2人で旅行に行こうって彼から誘われちゃった。」

「えええ!」


 私はおもわず、飲んでいたリンゴジュースを吹き出しそうになった。声でかいよ。絢が少し眉をひそめながらそう言ったが、私はそんなことは気にせず口を開いた。


「いきなり仲良くなったのにもうそんなこと言ってくれたの?すごい積極的だねその人。あたしびっくりしちゃった。」


 私がそう言うと、絢は少し目を伏せて口を開いた。


「そうなの。あたしもびっくりだよ。いきなり過ぎるし。…嬉しいけど、正直今は驚きのほうが大きいな。こんなに積極的な人、今までにいなかったから。なんか、自分がどうすればいいのかわからなくて。」


絢はそこまで言うとカフェオレを一口飲んだ。伏し目がちの絢は、よりまつげが長くて鼻立ちが通って見えて色っぽかった。女の私でもすこしドキッとしてしまう。そんな絢を見て、私は思った。


「その人、本気で絢のこと好きなんだね。」


 私の言葉に、絢が顔を上げる。私は絢に微笑みながら言葉をつづけた。


「その人、本当は高校の時からずっと絢のこと好きだったんじゃないかな?ずっと、会えるのを待ってたんだと思う。じゃなきゃ駅でばったりなんて会わないよ。」


 私が言い終わると、絢は考えこむような表情をしながら口を開いた。


「そうなのかな…そういえば堂谷、確かあの駅とは逆の方向にある大学に通ってるはず。その大学の周辺に家もあるって聞いたようなあいつ、あたしに会うために、わざわざ来てくれたのかな。」

「やっぱり!きっとそうなんだよ。絢に会うために、ずっと駅まで通ってくれてたんじゃない?ほんと、よかったね絢。素敵な人が好きになってくれて、その人を好きになれて。」


 私がそう言うと、顔を赤くしながら、絢は少し微笑んだ。私はそんな絢を見て、ふと思った。


「やっぱり、積極的に行動してくれると、そのぶん思いの強さがあるって思えるよね。」


 絢も、こくりと頷いた。


「うん。絢もそう思う。こんなに思ってくれてるんだ、嬉しいなって、すごい感じるもん。

 …よし!絢、堂谷のこと信じてみる。本気で思ってくれてるって思うし、絢も、思えば思うほど堂谷のこと好きだし。旅行も、行ってみようかな。

 あ、日帰りにしてもらうけどね。」


「やっぱり日帰りだよね!安心した~。てか絢の好きな人、堂谷さんっていうこと覚くね」

「当たり前でしょ?って堂谷の名前覚えなくていいから!さっきの仕返し?」


 絢はそう言ってはははと笑った。私もなんだかおかしくなってきて、声を出して笑った。


2人で笑いあっていると店員さんが注文していたブリケッタを運んで来てくださった。もう注文してからだいぶたっていたのですっかり忘れていた。


私が店員さんにお辞儀をしていると、絢がブリケッタに手を伸ばしながら言った。


「優梨愛も、積極的に行動してみればいいんじゃない?そうしたら何か変わるかもよ?」


 え?私は思わずつかんでいたブリケッタを落としそうになった。私が動揺しているのを見て、絢は少し楽しそうだった。


「優梨愛も本気で好きなら、行動しなきゃね。そうしないと何も始まらないよ?絢も、旅行の誘い受けることにしたしさ、優梨愛も何かきっかけ作ってみようよ。」


 行動しなきゃ何も始まらない、か…。


「あたし、最近すごく楽しいの。笹野さんと一緒に話せて、笑いあって、仕事頑張ってお疲れさまって言い合って…。それだけで、すっごく幸せ。でも…。」


 でも?と目で聞く絢に、私は深呼吸してから言った。


「このままでいいとは思わない。もっと近づきたい。だって、あたし笹野さんのこと好きだもん。」


 私のその言葉を聞いた絢は、満足そうににっこりと笑った。


「そうだよね。好きなら、その気持ちを大事にしなきゃ。お互い頑張ろう。」


 私はうん、と頷いて絢に微笑んだ。



行動しなきゃ何も始まらない。今のままでも楽しいけど、もっと近づけたほうが楽しいに決まってる。なにかきっかけを作らなきゃ。


よし、頑張れあたし。私は拳をギュッと握りしめて覚悟を決めた。


「おはようございます。」

「おはよー。」


翌日、バイト先のフロントで笹野さんに挨拶をしながら私は少し緊張していた。なんだか変に意識してしまう。声を聞くだけで頬が熱くなるのはなんでだろう…。


私がそんなことを考えていると、帰るお客さんがフロントに来た。


「ありがとうございます。」

「ありがとうございます。」


 笹野さんの後に続いてお礼を言うと、私はお客さんが出た部屋の片づけに向かった。ここが勝負どきだ…。私は部屋に向かいながらふーっと息を吐いた。


部屋の片づけが終わって、食器洗いをした後は、たいてい私は裏で待機するのがいつものことになっている。


まだフロントの仕事を覚えていないっていうのもあるけれど、自分からフロントに行くのが緊張するからというのがいちばんの理由だ。


フロントには笹野さんだけしかいないし、二人きりになるのがどうしても慣れない。仕事をするときに2人なのはまだ大丈夫だけど、することが何もないときに2人なのはドキドキしてしまう。黙っているときのほうが余計相手を意識してしまうし…。


でも、今日は違う。


ちゃんとフロントに行ってフロントの仕事を教えてもらいに行くんだ。そして笹野さんとたくさんお話するんだ。


私は食器を洗いながらよしっと頷いた。今日は7時から店長さんが入るはずだからそれまでの二人きりの時間を大切にしよう。


私はパントリーにあるガラス製の棚を鏡にして髪を整えてから、勇気を出してフロントに向かった。


「お、お客さんいっぱい来ますかね?」


 そう言いながらフロントに入ってきた私を流し目で見て、笹野さんは少し考え込むような表情をしてから答えた。


「どうかなー、平日だしね。今日は7時からくる店長と、宮瀬さんと俺の3人だけで回さなきゃいけないから、忙しかくなったらキツいよね。」

「そうですね。お客さん来てほしいけど来てほしくないです。」


 それどっちなの?と言って笹野さんは笑った。それが嬉しくて、私は笑顔で話しをつづけた。


「そういえば笹野さん、一昨日は大丈夫でしたか?だいぶお酒回っておられましたよね?」

「ああ、何とか大丈夫だったよ。一昨日は家帰ってすぐ寝たから。でもお酒飲んだ後って喉かわくからあんまりよく寝れなかったけどね。」

「そうなんですか!知らなかった。」

「宮瀬さんてお酒飲んだことないんだよね?あんまり興味ないの?」

「は、はい。まだ二十歳じゃないし、お酒の良さとかもいまいちわからなくて…。」

「俺も一緒。お酒の何がいいんだかわかんないんだよね。居酒屋で働いてるくせに。」


 そう言って笹野さんはふっと笑った。“一緒”というフレーズが嬉しくて思わず口元が緩むんだ。


「それにしてもみんなすごい飲んでたよね。あ、そうだ。宮瀬さん知らないと思うけど、高山くんとはっしーあの後まだ島さんの家で飲んでたらしいよ。」

「え、そうだったんですか!どんだけ飲むんですかねあの2人。」

「ほんとだよね。俺ちょっと引いちゃうもん。」


 ですね、といって私と笹野さんは笑い合った。


このまま、ずっとこの時間が続けばいいのに。店長さんも、お客さんも、ずっと来なくてもいい。だから、もう少しだけ、笹野さんと話をしていたいな…私はそう思いながら外を眺めた。


二人の笑い声が消え、一瞬フロントが静かになったときに、笹野さんがぽつりと言った。


「またフロントに来なよ。暇なときに無理して裏にいる必要ないからさ。」


はっとして笹野さんを見ると、笹野さんは少し目を伏せていた。照れているのか、気まずいのかは分からない。


でも、こっちを見てくれてなくても、そう言ってくれるだけで嬉しかった。


「はい。ありがとうございます。今度、フロントの仕事も教えてください。」


私も、照れ隠しで少し下を向きながらそう言った。


ウイーンとドアが開いて、店長さんが入ってくる。


2人でおはようございます、と挨拶をすると店長さんが欠伸をしながらフロントに入ってきたので、私はお辞儀をして裏に戻った。フロントは狭いから2人いるのが限界なのだ。


店長さんの気だるそうな声を聞きながら、誰もいない厨房で自然と笑みがこぼれる。


1時間も、笹野さんとしゃべっていられた。私は心の中でそうつぶやきながら、残っていた皿洗いの続きを始めた。



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