また、ここから
その日の夜。
いつもながらだけど突拍子もなく彼女から電話がかかってきた。
俺から彼女へ電話する回数の方が断然多いけれど、何て言うか...彼女が俺に電話をかけてくれると思うと嬉しくて気持ちが高まる...のは言わないでおこう。彼女の事だから言うと引かれるだろうなぁ...。
電話の内容は花見をしに行こうと言う内容だが、、、。
先週の大雨の影響で、桜は殆ど散ってしまった。
花見を誰よりも楽しみにしていた彼女は落ち込むかと思ったが、思ったよりも元気だった。
「え?桜?別に良いの良いの。桜は無くても花見は出来るから。花を見るから花見よ?そこら辺には桜よりも綺麗な花が咲いてるから大丈夫大丈夫。」
だ、そうだ。
確かに咲いていると言えば咲いているけど、、、なにか腑に落ちないのは俺だけなのだろうか?
彼女から花見を誘われた時、余りにも嬉しくて色々と桜が綺麗な場所を探したのは黙秘にしておこう。
「もしもし、そこの若旦那?物凄い不服そうな顔をしていらっしゃいますが、何か問題でもあるんですか?」
「う...。お見通しなんだね。」
「当り前でしょう?一体何年付き合っていると思っているので?」
「......忘れました。」
「約890億です。」
「...エヘヘ。」
「エヘヘ、じゃないからね?私に会いたいが為に人知を超える阿保はあなたぐらいよ?馬鹿と天才はなんとかって言うけれど、あなたは馬鹿でも天才でもない阿保の子ですもんね?」
「でも、こうして君と一緒に花見ができるんだから結果オーライでしょ?」
何度も繰り返した運命の中でようやく掴んだ、俺と彼女の未来。
一緒に暮らそうと言ったけど、即答で断られたのはさすがにきつかったかな、、、。
それでも、、、彼女はここにいる。
俺の隣で笑ってくれる。
それだけで、俺は世界を愛せる。
何て言うか、自分でもなんて身勝手な性格をしてるんだろうって思うけど、彼女がいなくちゃ俺は絶対に愛せない。
「あ、ねぇ。この花ってたしか、、、。」
彼女の目先には彼女の名前であるとある花が美しく咲いていた。
彼女に会うまでは花に興味なんて無かったし、酷く言えば只のソレ程度にしか見ていなかった。
でも、彼女に出会って彼女の名前にこの花の名前が使われているんだと知ったあれは凄まじかったとつくづく思う。
彼女にばれない様にコッソリ育てたり、名前を呼んだり、、、ってこうして振り返ると俺って結構変態だよね?、、、まぁ彼女にはばれてないからいいかな?
「君と二人で花見をする、なんて夢にも思わなかったな。余りにも幸せだから夢なんかじゃないのかなって錯覚しちゃいそうだよ。」
「そのままゆっくり夢の中を微睡んでてもよろしいんですけどね?」
「嘘だから。安心して?俺はもう手放す気なんてないから覚悟しておいてね?」
「そんな覚悟個人的には持ちたくないな。」
「押し売りだから返品は出来ないからね?」
「え?クーリングオフも駄目?」
「駄目だよ。そんなことさせるはずないじゃないか。」
「ハハハ、なんて爽やかに言うんでしょうねこの人?一体どういう教育をしたらこんな阿保の子になるのやら、、、。」
「う~ん。主な原因は分かってるんだけどなぁ...。」
「ここで私を見るあたり良い性格へと進化したね。」
あぁ、やっぱり俺は重傷だな。
彼女とこんなふざけ合う会話でさえも愛おしいと思っちゃうんだから。
でも、、、本当に、、、俺は今、幸せだ。
「また、君と花見をしたいな、、、駄目かな?」
「はいはい。花見なんて何時でもできるから大丈夫だよ。それに、時に縛られる事なんてもうないんだから心配ないでしょ?」
「...うん。君が居れば俺は世界を愛せる。だから、君は俺を愛して?」
例え一方的だとしても、これはもう止まる事は無いだろう。
だって、この気持ちに偽りなどないのだから...。
「よくまぁ、そんなこっぱずかしい台詞をさも当然の様に言えるよね...。あなたのそんなところはちょっと称賛する。」
「ありがとう。で?返事は?」
「ご想像にお任せします。」
「え~。意地悪だなぁ~。」
「いつもの事でしょうが?」
「うん......。そうだね。これが俺と君の当たり前なんだから。」
俺の世界には君が居て。
君の世界には俺が居る。
そう、それが俺達の当たり前で、望んだものだから。
俺と彼女の別れなんてもうない。
彼女を壊す世界もない。
彼女が恨む世界もない。
彼女が愛したのは世界じゃない。
この、俺だから。
彼女には伝えきれない思いや言葉がある。
でも、少しづつでも彼女に伝えていきたいと思ってる。
ここにあるのは自由だけだから...。
俺と彼女の、ね?